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ライカはアンフィスとアンリから受けた回復魔法で体がみるみるうちに回復するのが分かった。これならまだ戦える。そう思ったとき、目の前からラーカイルに飛ばされたランクルが飛んできた。
「まずいっ」
かわしきれないと判断したライカは素早く両手から風魔法でランクルの勢いを止めようとしたが、咄嗟であったため全ての勢いを殺すことができず、ランクルの体を受け止めざるを得なくなった。
ライカたち三人はランクルに吹き飛ばされる形となって壁に叩きつけられた。
「いたたた、くそっ、もう少しだったのに」
アンフィスとアンリは二人とも壁に叩きつけられて呻いている。命には別状は無さそうだが、すぐに動くのは難しそうだ。ランクルは左腕が千切れかけていて、全身に火傷の跡があった。誰がどう見ても重傷だった。ランクルの手当てをしてあげたいが、そこに気を回す余裕はなかった。ランクルが飛ばされた方を見ると、殺気だったラーカイルがライカの方を見ていたからだ。
全身に激痛が走るのを我慢してアンフィスがランクルに駆け寄った。
「よせ、無理はするな」
ライカの呼びかけにも応えず、アンフィスはランクル側で回復魔法をかけ始めた。
「ランクル様のことは私に任せて。あなたはあの魔族を頼むわ」
「お前も相当重症だろう。そんな中で魔力を使い切ったら自分の命も危ないぞ」
「分かってる。でも私はこの人を助けたいの」
体が動かない状態で魔力が尽きれば体の生態機能に影響が出る。そうなれば状態次第では死に至ることもある。
「大丈夫です。ランクル様。貴方のことは私が必ず助けます。貴方の判断は間違っていなかった。貴方が生きて、生き延びてそれを証明して下さい。私の魔力の全てを貴方に捧げてみせます」
ライカはラーカイルに向き直った。アンリとアンフィスにかけてもらった回復魔法は完全ではないが、かなり戦える状態にまで戻すことができた。本気でかかってくるラーカイルを止めなければならない。
「ラーカイル、お前を止めてみせる!」
ラーカイルの口許が少し笑ったように動いた。
「ライカよ、本気で来い。だが、止めるなどと思っていては止められないぞ。私はお前を殺すつもりでいく」
ライカはラーカイルから発せられる魔力に気圧されそうになる。殺すつもりの相手にはこちらも殺すつもりで挑まなければやられてしまう。その覚悟を決めるに十分な魔力であった。ライカは剣を握りしめ、歯を食いしばった。
「さあ、来い」
ラーカイルが真っ直ぐライカに向かって突進してきた。腕を顔の前で組んだまま真っ直ぐ向かってくる。ライカは剣で斬り伏せようと考えたが、ラーカイルの腕を切り落とす前に勢いに負けて直撃してしまう。直撃では命が危ない。ライカは先ほどと同じように風魔法でかわそうとする。先ほどと違い、不意打ちではないため、十分にかわすことができきると考えた。
だが、すぐに思い直した。自分の後ろにランクルたちがいることを忘れていた。自分がかわしてしまえば、ランクルたちがラーカイルの突進から逃れることはできない。
「ちっ、あざとい奴め」
ライカは身体強化魔法に切り替えた。全身に魔力を送り、ラーカイルの突進に備えた。ラーライルは駆け引きもなく、真っ直ぐ近づいてきた。ライカは、ラーカイルが剣の間合いに入ってきたと同時に逆袈裟の方向から斬りつけた。組んだ腕の下には僅かな隙ができる。そこに剣を入れようとした。
ラーカイルはライカの剣を読んでいたのか、ギリギリのところで急に突進を止めた。そしてライカの剣は僅かにラーカイルの体まで届かなかった。空振りに終わった隙を突かれて、ラーカイルから横殴りの強烈な蹴りが飛んできた。
ライカは即座に肘を曲げ、腕でその蹴りを受け止めたが、ラーカイルの蹴りは重く、鋭かった。ライカはそのまま蹴り飛ばされてしまう。壁に叩きつけられる前にか体勢を立て直したが、腕に残った重い痛みのせいで剣は片手でしか握れなくなっていた。
「ぐっ、馬鹿力め……」
ラーカイルは力で押してくる戦い方をする。火炎魔法をよく使うが、そんなことをしなくてもその身体能力だけで十分に城一つを落とす力を持っていた。
「分からんな。何でそこまでして人間の世界を守ろうとする? 人間など守る価値などないと言うのに」
「何度も言ってるだろう。私は人間に育てられたんだ。人間を守りたいと理由には十分だろう」
「だが、その人間は大地から魔力を吸い上げ、魔族たちから大地の恵みを奪っている。そんな罪を知ってもなお、人間を庇うか?」




