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 マナが両手を広げたまま結界核に近づいて行く。カリムはその様子をじっと眺めていた。やがて大きな魔力の流れが現れ始めた。周囲の魔力が核に吸い込まれていく。マナの体が魔力の流れの触媒になり、さらに大きな流れとなる。カリムは自らの体から魔力が吸い出されているのを感じた。


「こ、これは……。そういうことか。では、勇者とは一体……」


 王宮守護者の間では代々結界に関すること、勇者に関することが伝わっている。だが、確実な情報を持っているのはその筆頭たる人物のみであった。またその情報は口伝でしか継承されないため、正しい情報を持っているのはその時代で一人だけだった。


 カリムの前の筆頭はミラベルであった。しかしミラベルは何を思ったのか出奔してしまった。騎士団に捕えられて処刑されたと聞いたが、確かなことは分からない。たが、ミラベルの出奔によって正しい情報がそこで止まってしまった。そんな中、カリムは王宮守護者筆頭の座を引き継ぐことになってしまった。血眼になってミラベルを探した。処刑されていることになっているが、それは対外的な体裁のためのはずた。どこかで生きていると、カリムはそう信じてミラベルを探した。


 だが、今この時まで見つからなかった。カリムは王宮守護者たちから話を聞き、伝わっている情報をまとめた。それでも情報は全く足りなかった。結界を作ることになった歴史の部分が曖昧だった。過去の勇者選抜の詳細な情報もない。カリムは途方に暮れた。


 それに追い討ちをかけるように勇者選抜試験が行われることになった。カリムは焦った。どうすれば良いか分からなかった。特に二次試験だ。何をしたら良いかさっぱり分からなかった。カリムはミラベルから聞いたことがある『勇者は結界核に触れることのできる者である』という言葉を信じて、いや、それしか手掛かりがないため、二次試験は『結界核に触れてみる』ことにした。


 試験に際しては、結界核周囲の人払いと核の周囲に設置してあった魔力制御のための結界を解くことにした。その状態で核に触れることができる人物を探せばいい。半ば投げやりな気持ちでいた。だが今このとき、魔族の襲来を目の当たりにして、ごちゃごちゃ考えている場合ではないと気付かされた。何が何でも勇者に結界を守ってもらわなければならないと決意した。


 勇者候補のマナが『二次試験を進めよう』と提案してきたときは多少驚いたが、絶好の機会だった。カリムはマナに『両手を広げて核に触れれば良い』とだけ伝えた。


「えっ、それだけなの?」


 マナの疑問は最もだった。そんなことで勇者であるかどうか分かるのか?ということだろう。カリム自身も半信半疑だが、この方法しか分からいのだから仕方ない。


 そしてマナが核に近づくにつれて魔力の流れが変わった。そしてマナを介してその流れが増加しているように感じた。マナからも魔力は吸い取られているように見えるが、当の本人には何の変化も感じられない。むしろ近くにいるカリムの魔力はどんどん吸い取られて、すでにカリムは立っているのが難しくなった。


「そうなのか。勇者とは、このように魔力が吸い取られていかないのだな。そして、私は勇者ではなかった。いや、守護者筆頭でもなかった。完全に人払いをして試験に臨まなければならなかったのに、できていなかった。既に結界核は周囲の魔力を吸い込み始めている。このままでは、皆が、私のように……」


 カリムは膝をついて倒れた。頭は働いているが体がもう動かない。完全に魔力欠乏症の症状であった。



 当のマナは必死で魔力の流れを制御しようと試みていた。周囲の魔力が自分の体を通して結界核に流れ込んでいくのが分かる。このままでは周囲の魔力を吸い尽くしてしまう。マナは必死でその流れに抵抗しようとするが、流れを変えることはできない。その勢いは益々強くなっていく。


「こ、このままではっ……」


 しかも体も結界核に吸い寄せられていく。それにも抗えそうにない。強力な引力で引き寄せられていく。


「も、もう止められないみたいだね。ならっ!」


 マナは思い切って結界核の方へ飛びついた。マナの両手が結界核に触れたとき、マナの体に何かが流れた。それが魔力なのか、はたまたそれ以外の何かなのかは分からない。だが、体の中に忙しく脈打つような『何か』が流れ込んでくるのが分かった。


 体の中に様々なものが流れ込んでくる感覚だった。全身が脈打って体だけではなく、意識の方まで刺激してきた。意識の中に『何か』が流れ込んできたとき、ある記憶が脳の中に侵入してきた。外から入ってきたというより、元々持っていた記憶が呼び戻されたような感覚だった。懐かしさと同時に後悔、懺悔のような感情も感じられた。


 次第に侵入してきた記憶と感情が頭の中を侵食していった。マナは領域騎士団としての記憶、これまで戦ってきた戦いの記憶を失い始めていた。全ての記憶が半透明になって、徐々に見えなくなってきた。


 そして、マナの意識は落ちてしまった。

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