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 誰かの叫び声が聞こえて、アンリは意識を取り戻した。頭の後ろがまだ痛んだが、それ以外の身体の異常はなさそうであった。最初どこにいるか分からなかった。周囲をを見渡してみると、まず目に入ったのは父と兄だった。二人とも壁にもたれかかって意識を失っているように見えた。


「な、なんで父上と兄上がここに……?」


 建物の様子からすると王宮内のような気がするが、最後の記憶は王宮結界の城門の上にいたことを思うとそんな筈はないと、アンリは何度も思考が回転して状況を素直に受け止めきれなかった。今いる広間の奥には大きな球体が浮かんでいるのが見えた。


 そして少し目線を横にずらすと、うつ伏せに倒れているランクルらしき男と必死に回復魔法をかけているアンフィスがみえた。さらに目線を流していると、勇者候補生のライカと王宮結界の外で戦っていたはずの魔族が見えた。そして極めつけは広間奥の球体の側にはライカと同じ勇者候補生のマナと王宮守護者であるカリムの姿を発見した。


 理由は分からない。どういう経緯でここにいるかは分からないが、今いる広間は勇者選抜の二次試験会場ではないだろうか。そして、あの球体は王宮結界の核。王族であるアンリですらお目にかかるのは初めてだった。だが、状況からしてそれ以外にあり得ないと、消去法で答えに辿り着いた。


 体が無事なのが分かった時点でアンリは動き始めた。まずは自らの父であるヘンリルの元へ急いだ。


「父上、しっかりしてください!」


 アンリから何度か呼びかけると、僅かに意識を取り戻した。


「ううっ、アンリか。なぜここにいる? 王宮結界外の魔族達はどうなった?」

「喋らないで下さい! 私が回復魔法で治療しますのでじっとしていて下さい」


 アンリは回復魔法でヘンリルを治療する。治療が効いてきたのか、ヘンリルは穏やかそうな顔のまま、眠り始めた。


 そして背後から兄であるセントルの声が微かに聞こえた。振り向くとセントルはぎこちない足取りではあるが、アンリの方へ向かって歩いていた。セントルもアンリと同じように回復魔法が使える。意識を取り戻したときに、自らに回復魔法をかけたのだった。


「兄上! ご無事でしたか?」

「ああ、父上も無事か?」

「はい、命に別条はないかと。ですが、無理に起きてはいけませんから、しばらくはこのまま眠って頂かないと」

「そうだな」


 セントルは完全に治療できていないのか、壁にもたれたまま滑り落ちるように腰を下ろした。


「兄上!」

「大丈夫だ。心配ない。父上が心配だっただけだ。あとは自分で自分を治す。お前は父上を頼む」

「はい……。あの、えっと、兄上、この状況は一体?」


 アンリはずっと気になっていた。兄ならこの状況を理解しているのではないかと半ばすがる気持ちであった。


「詳しくは、分からない。ただ、ここは二次試験の会場だ。そしてあそこの球体は王宮結界の核だ」


 アンリの予想は当たっていた。理由は分からないが、どうやら勇者選抜の二次試験会場に来てしまったようだと完全に理解した。


「お前は、ある騎士団の男の体から出てきた。あそこにいる魔族と、そこに倒れている男と一緒にな。理屈はよく分からないが、恐らく魔法で転移してきたのだと思う。そしてあの騎士団の男はその依代にでもなったのだろう。私と父上はその魔法の衝撃で負傷した」


 アンリは、自分が転移してきたと言われても実感はなかった。実感はなかったが、今ここにいると言う事実からそれを受け入れざるを得なかった。


「そして、よく見えなかったが魔族の一人はあのマナに殺されたようだ。そして恐らくマナはカリムを連れて、二次試験を始めようとしているのだろう」


 アンリは再度広間の奥の球体を方へ顔を向けた。確かにマナはカリムに何か教わっているように見える。よく見ると、マナは両手を核の方へ向けたまま、少しずつ近づいているようだ。


「あ、あれが二次試験なのですか?」

「わ、分からない。二次試験の内容はここではカリムだけが知っている。もしかしたら父上も知っているのかも知れないがな」

「あ、あれで勇者が決まるのでしょうか?」

「さあな、俺にも勇者とは何かよく分かっていないからな。なんせお前と同じでついこないだ父上から『あの話』を聞かされたのだから」

「で、でも、兄上は父上からもっといろいろ聞いているのではありませんか? 今回のデンジャの街の襲撃も何となく察していたようですし」


 セントルは傷が少し回復してきて、表情に余裕が出て来た。アンリの質問にいつも以上に流暢に答える。


「父上が勇者選抜を焦っていたことと、『あの話』を考えた上で導き出した推察だ。お前と俺では知っていることは同じだ。だからすまないな。ここから先は何が起こるか全く予想できん」

「そんな……」


 アンリはマナの方を振り向く。そのマナは両手を広げたまま結界核に触れようとしていた。気がつくと周囲の空気の流れが少し変わっていることに気がついた。


「風……? いや、魔力の流れ?」


 その風のような流れは結界核の方へ吸い込まれているように思えた。マナが近づけば近づく程、その流れは強くなっていった。そして、マナが結界核に触れた時、一瞬で周囲は眩い光に包まれた。

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