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「な、何だとっ! そ、それは一体どういうことだ! カリムっ!」


 ランクルがカリムに詰め寄り、胸元の外套を掴んで締め上げる。王宮結界が大地から魔力を供給されていると聞いて、一言に信じられなかった。いや、信じたくなかった。そんなやり場のない思いがカリムに向けられた。


「事実だ。そもそも人間の持つ魔力では圧倒的に不足していたのだ。それでも、この大地から奪われる魔力を少しでも少なくするために、王宮守護者たちが文字通り命を掛けていた」

「な、何だと…なんでそんなことに…」


 ランクルの、カリムの外套を握る手から力が抜けていった。王宮結界は大地から魔力を吸って維持されていた。それを少しでも少なくするために、王宮守護者たちは使い捨てになることを分かった上で国のため犠牲になっていった。ランクルはまだこの事実を受け止めきれなかった。


「ランクル、気持ちは分かる。だが一旦堪えてはくれないか」


 ランクルを制したのはヘンリルだった。


「ヘンリル様、し、失礼を承知で伺いたい! 王は、この事実を知っていたのですか?」


 ランクルは王に向き直り、膝も付かずに同じ高さの目線から問いかけた。


「ランクル殿、王に対してそれは不敬だ…」

「よい、カリム」


 カリムの言葉をヘンリルが制する。


「ここまできたら、細かい礼儀などあとじゃ。ランクルの疑問にも答えてやらんとな。それに、そこの二人も同じ疑問を持っているじゃろう?」


 ヘンリルはマナとライカに目線を向けた。マナもライカも無言で頷く。本来であればそれも王の前では不敬に当たるのだが、ヘンリルは気にも留めなかった。


「わしは先代からこの地位を引き継いだ時にこの話を聞いた。そして誰にも話してはならぬと。次の王にのみ引き継ぐことが許された内容なんじゃ。だから先般、ここにいるセントルと、今外で戦っているアンリにも同じ内容を伝えた」


 王は静かに語り始めた。王の言葉を聞き漏らさないよう、マナたちはそのまま耳を傾ける。


「わしは考えたのじゃ。このまま大地の魔力を吸い続けたらどうなるのかを。それは明白じゃった。結界内は結界の力に守られているが、結界の外では大地の魔力は尽き、大地が荒廃する。水は枯れ、大地の恵みはどんどんなくなっていく。これが何を意味するか分かるかね、ランクル?」


 唐突にランクルが指名される。


「えっと、結界の外で暮らす魔族が飢えます」


 動揺しながらもランクルは明確に答える。


「そうじゃ、魔族が飢える。そうすると魔族はこう考えるじゃろう。『人間共の結界を壊してやれ』と。遅かれ早かれその日は来ると思っていた。魔族はかなり前から結界内に入り込んでいたようじゃからな。ランクル、お主もそれは分かっていたじゃろう?」


 王はマナとライカを見つ目ながらランクルに問いかけた。


「は、はい。確信はありませんが、そうとしか説明がつかないことが多くあったので」

「そうじゃ、話が早くて助かる。のう、お二人とも」


 王はマナとライカから視線を外さない。


「お主ら、魔族じゃな? もしくはその混血か」


 ランクルはマナを初めて見た時からそう思っていた。見た目は人間だが、魔力量が桁違いだった。人間では持てる魔力には限界がある。それをゆうに超えることは物理的にあり得ない。突然変異で産まれたと考えてもいいが、世の中そんなに都合の良いことは起こらない。物事は起こるべくして起こる。ランクルはそう思って、マナのことはずっと監視していた。尻尾を掴むことができるまでは様子を見ようと思っていた。


 騎士団に入ってくる新人の魔力量が多くなったのもマナが来てからの傾向だった。ライカや、その他にも多くの魔力持ちが現れるようになった。だが、皆が一様に騎士団への忠誠は厚く、人間を害するようなことが全くなかった。そのため、ランクルは彼らを静観することにした。静観しつつも監視を続けて、何かの証拠を掴もうとしていた。


 そして今、その疑問に終止符が打たれようとしていた。


「はい、そうです」


 ライカだった。そして、おもむろに隠していた角を露わにした。


「ひっ」


 そばにいたアンフィスが小さな悲鳴をあげる。鬼族は魔族の中でも最も凶暴で強力な力を持っていることは人間であれば常識だからだ。


「ただ、勘違いしないで下さい。私は人間には個人的に恨みはありません。人間を害すこともありません。純粋にこの結界を守りたいと思って勇者選抜に志願致しました」

「嘘をつくな! この魔族がっ」


 ランクルが剣を構えてライカを睨みつけた。ライカはそれを気にも止めず話を続けた。


「ヘンリル様、事情は分かりました。それで、二次試験は何をすればいいのですか?」

「ヘンリル様離れて下さい。この魔族の言うことを聞いてはいけません!」

「よいっ、ランクル。お主が下がるのじゃ。」


 ヘンリルがランクルを咎める。


「その前に聞かせてくれんかの。ライカ殿。お主はなぜ魔族なのに人間の世界を守ろうとする? このままだと魔族が滅んでしまうかも知れんぞ」

「私はこの結界の中で人間として育ちました。自分が魔族であることを知ったのもつい最近です。魔族のことなど知ったことではありません」







 

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