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勇者選抜。二次試験が始まる。夕刻。決められた時間、決められた場所に関係者は集まっていた。一次試験を突破したマナとライカ。そして王のヘンリル、王子のセントル、護衛としてランクル、アンフィスがいた。王宮内のとある部屋だった。
そして待ちかねた空気を慮ってか、その部屋の扉が今開いた。
入ってきたのは王宮守護者の代表であるカリムだった。外套をまとっており、顔や姿がよく分からない服装だ。そのカリムが静かに声を発する。
「お待たせいたしました。すべての準備が整いました。ご案内いたします」
そのカリムに皆がぞろぞろとついて行く。傍から見れば異様な光景であった。王と王子がカリムに従ってついて行っている。その後ろには、普段は王族に近づくことも許されない身分のマナとライカが続く。ランクルとアンフィスは王宮騎士団員のため、王の近くに侍ることは珍しくない。が、王を先導する王宮守護者のカリムと勇者候補生に挟まれた王族の二人と言う絵面は、これまで築き上げてきた人間社会の権威というものが無視され、歪められた異質な空気を醸し出していた。
「ねぇねぇ、ランクル。何で王様が王宮守護者に従ってるのさ? 何か変じゃない?」
「しっ、静かにしておけ。俺もよく分からん。ただ王宮守護者は、王ですら知り得ないことを知っているという噂もある。その真偽は分からんが、とりあえず二次試験は王宮守護者が仕切ることになっていることは確かだ」
「ふーん、なんだか不思議だね」
ランクルもマナと同じ疑問を抱いていた。国の権威である王ですら二次試験の内容を知らないのではないか。そうなれば王宮守護者とは何者なのか、そもそも勇者とは何者なのかという今まで当たり前に受け入れてきたことに疑問を抱かざるを得ない。
しばらく歩くと、一つの塔の前に辿り着いた。そこは王宮に隣接した物見のための塔に見えた。だが、その塔には入り口がない。マナが不思議がって観察していると、カリムが壁に向かって魔法らしきものを唱え始めた。すると、それまで壁だったところに入り口が現れた。そして、何の迷いもなくカリムがその中に入って行く。王ヘンリルと王子セントルもそれに続いた。
「えっと、この中に入ればいいのかな?」
ライカもマナも戸惑っていた。
「中に入れということだろう。行くしかあるまい」
ランクルに促され、二人も足を進める。
中に入ると、上に伸びる螺旋階段があった。どうやらカリムたちは先に上に登っているらしい。マナたちもそれに続いた。
「これ、街にある守護者の塔みたいな作りになってるのね」
「…みたいですね」
マナもライカも自分たちの街で見慣れた守護者の塔を想起させる景色に同調した。
階段は長かった。守護者の塔だと四階程度だが、この塔はそれよりも明らかに高い。同じような景色の中、長い階段をマナたちはひたすら登り続けた。
足の疲れが見え始めた頃、ようやく大きな広間に辿り着いた。広間と言っても床は石造りで、壁や天井にも何の装飾もない、殺風景な広間だった。ただ、一つだけ異様なのはその一番奥の中心に大きな球体が浮かんでいた。その球体はうっすらと白く光っており、優しい輝きを発していた。だが、そんな優しい輝きとは裏腹にとてつもなく大きな魔力を秘めていた。
マナもライカもその魔力を感じて少したじろいだ。
皆がその球体の近くに集まった。カリムが静かに口を開く。
「これが王宮結界の核です」
マナはそうだろうと予想していた。それほどまでにこの球体が持つ魔力の大きさは異様だった。
「な、馬鹿なっ! これが王宮結界核だと?」
意を唱えたのはランクルだった。一緒にいるアンフィスはランクルと同じ気持ちなのだということを、首を縦に何度も振って示していた。
「ランクル殿、間違いありません。これが王宮結界の核です」
それでも動揺を見せずにカリムが静かに答える。
「話が違うぞ! 王宮結界は王宮守護者たちによって魔力を供給され、保たれているのではないのか? これではただ浮かんでいるだけではないか! それに王宮守護者たちはどこにいる? ここにいないのはなぜだ?」
マナもライカも同じ疑問を抱いていた。ランクルが言ったように王宮結界とは国で選りすぐりの魔力持ちである王宮守護者たちの魔力供給により保たれていると聞いていた。たが、目の前にある王宮結界の周りには守護者たちはおらず、お世辞にも国によって守られているとは言い難い状態であった。
「ヘンリル様、よろしいですか?」
「構わん、説明は必要だろう」
カリムは王に許可を求め、王が了承した。そこでカリムから真実が語られる。
「王宮守護者はもういない。全員死んだのだ」
「な、何だと…どういうことだ?」
ランクルの動揺をよそに、カリムは話を続ける。
「王宮守護者は結界核に魔力を吸い尽くされ、皆死んだのだ。今魔力を供給する者はこの国にはいない」
マナもライカも驚きで思考がついていかなかった。聞かされていたことと事実の乖離が大き過ぎた。
「であれば、どこから魔力を供給しているというのだ?」
カリムはあまりにもあっさりと驚愕の事実を告げた。
「この大地からだ」




