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 サリュは上空に控えているラーカイルに命じた。


「ラーカイル、ここにいる人間すべて焼き払え。もしかしたらここにいる者に我々の計画を知られたかも知れん」

「サリュ様、いいのですか? エルト様にはそこまで命令されておりません」

「気にするな。すべての責任は私が取る」

「かしこまりました。それではサリュ様、そこにいては危険です。その場を離れて頂けますか?」


 サリュはガンマを地面に強く叩きつけ、再びラーカイルの元へ戻って行った。


「ラーカイル、すまない。私の失態だ。あの男に乗せられてしまったようだ」


 そんな素直に話してくれるサリュのことを、ラーカイルは気に入っていた。


「構いません、後は私にお任せを」


 ラーカイルは詠唱を終え、手のひらの前に巨大な火炎の塊を作り出した。


 下からそれを見ていたルベルは、それを迎え撃つ準備をしていた。


「ガンマのおっさんが命張って頑張ったんだ。あとは俺が何とかする! 来やがれ、パリストさんの仇」


 ラーカールの手から放たれた巨大な火炎がルベルたちの元へ向かってきた。大きい。あまりにも巨大な炎の塊を見てみなたじろいだ。


「おい、何だあれは。どうしろっていうんだよ」

「逃げるぞ。どけっ」

「どこに逃げるんだよ。周りは岩だらけだぜ」

「うるせぇっ。少しでも遠くへ行くんだよ」

「たから、どうやってここを離れるんだよ」


 怒号が飛び交う。門の上で見ていたアンリもこの状況に絶望していた。ガンマはよくやったと思う。だが、限界があった。魔族の力の差がここまであったとは。アンリは自分がまだ知らない未知の世界があることを思い知った。だがそれも遅すぎた。いっそのことこんなこと知らなければよかった。目の前で騎士団が、勇者選抜の応募者たちが、焼き尽くされていくのをただ黙って見ているしかできない自分を呪った。


「みんな、すまない」


 だが、呟いた言葉は誰の耳にも届かない。そのもどかしさもどうしようもない。たったそれだけのこと。一言声を掛けることもできずに終わっていく命を見ているしかできない。勇者とは本当にいたのだろうか。かつていたはずの勇者。結界を作って人間たちを守ってくれた勇者。魔族との力の差がこれほどあったのに、その魔族をどう退けたのだろう。アンリは途方もないことを考え始めた。頭がいっぱいになり、先の事を見通すのが辛くて現実逃避したくなった。


 自分を救ってくれない勇者に対して怒りの感情も同時に湧いてきた。我々が何をしたというのだ。いや、人間は罪であった。勇者選抜が始まる前に父から聞いた真実。人間は罪人であった。それを今思い出した。我々は死ぬのだ。死んで世界に詫びなければならない。アンリは肩の力を抜いてすべてを諦めようとした。


「いっくぜー! 俺の魔力で弾き返してやる!」


 そう意気込んだ声を出したのはルベルだった。魔装棍に魔力を込めて風の力で押し返そうと魔法を放つ。


「先輩の見様見真似! 行けっ風の舞っ!」


 ルベルは魔装棍を地面に突き刺した。するとそこから大きな風が巻き起こり、竜巻のように大きな渦を巻き始めた。その渦は次第に大きくなり、そのまま上昇していく。そこへラーカイルの放った火炎とぶつかった。ぶつかったと同時に大きな衝撃音が鳴り響き、火炎の勢いが止まった。


「何っ、私の魔法が押し負けただと」


 ラーカイルは自分の魔法が押し負けたことに驚いた。ルベルの放った風魔法の竜巻は大きな火炎流となってラーカイルの元へ向かってきた。


「くっ、これはまずい」


 ラーカールは隣のサリュをかばいつつ、火炎流を避けようと退いた。が、火炎流は既に思いの外大きくなっており、その効果範囲が広すぎた。サリュは無傷で済んだが、自らは半身に大火傷を負ってしまった。


「ラーカイル! 大丈夫か?」


 サリュが心配そうに見てくる。


「サリュ様、大丈夫です。すみません。私もしくじってしまいました」

「気にするな。お前の魔法が返されたのだ。私もそんなこと考えもつかなかった。魔法では埒が明かない。ここは私が直接あいつを斬ってこよう」

「それがいいかも知れません。お手を煩わせてしまいますが、お願いいたします」


 サリュは親指を立て、ラーカイルに応える。


「さあ、行くか」


 サリュが降りて来るのがルベルに確認できた。


「やっぱりな。魔法で勝負してくれた方がよかったのにな。肉弾戦になったら分が悪すぎる。どうする。考えろ。できるはずだ。先輩ならこんな時どうする? 考えろ……来てほしくない相手がいたらどうする……そうか」

 

 ルベルは魔装棍に再び魔力を込め始めた。


「これはやってみないと分からない。でもこれしかない。行くぜっ」


 ルベルの魔装棍から再び風のようなものが噴き出て来た。それは大きく広がったが、ある程度広がったところで、止まった。そして岩で囲まれた箇所に蓋をするような状態で止まった。


 そこへサリュが降りていこうとする。


「何だ、負け惜しみにしては地味だな」


 サリュがルベルの放った魔法に触れようとしたとき、大きな衝撃を受けて体が弾かれた。


「何? これは一体なんだ?」


 サリュは再びその魔法を突破しようとする。が、やはり大きな力を受けて弾かれた。


「なっ、何だこれは。やつらに近づけない……」


 サリュは次は魔力を込め、全力でその魔法に拳を叩きつけた。が、それも弾かれてしまった。


「くそっ、何だ。まるで結界ではないか……」


 ルベルはにやりとほくそ笑んだ。


「結界……。ま、まさか。あの男なのか? あの男が結界を作ったと言うのか。あり得ん! 結界が作れるのは…‥‥」


 すると、サリュの真横に急に大きな気配が現れた。


「どうした、サリュ?」

「え、エルト様?」


 サリュの横に現れたのは今回の事件の首謀者であるエルトだった。




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