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 サリュが静かにルベルたちの前に降り立った。


「おい、そこの大男。覚悟はできているんだろうな」

「そんなに怒ってたら、ただでさせ多い小じわがさらに増えるぜ」

「貴様っ!」


 ガンマの一言が効いてサリュは怒りを露わにする。ただ、ルベルにはちょっと煽り過ぎだと思った。ここで手をこまねいていても何にもならないが、あそこまで怒らせる必要はあるのだろうか。するとガンマが小声でささやいた。


「おい、あいつは俺が引きつけておく。お前たちはここから脱出する方法を考えてくれ」


 ガンマは無策でサリュを煽っていたのではなかった。ここでも冷静に状況を判断し、自分がどうすればいいか、全員が助かるにはどうしたらいいか、その最善策を実行しようとしていた。


「頼んだぞ、魔法使いさん」

「お、俺は魔法使いじゃないっ」

「そうか? お前は素質あると思うぜ。勘だけどよ。俺みたいに肉体で戦うは苦手なんだろ?」


 ガンマがルベルの肩を軽く叩いた。


「この場はお前の魔法がなけりゃ結構きついんだ。頼んだぞ」


 そう言い残してガンマはサリュの方へ向き直った。


「言い残すことはないか、男っ」

「ああ、ねえぜ。さあ、来やがれ」


 ガンマの目は真っすぐサリュを見つめていた。サリュは迷いのないガンマの目に一瞬戸惑いはしたが、同じ戦士としての眼差しを感じた。静かに目を閉じ、それまでの怒りをおさめる。


「行くぞ!」


 ガンマが先制攻撃で突っ込んでいった。一気に間合いを詰める。サリュは閉じていた目を開けた。ガンマの動きを冷静に目で追う。そして、迷いなく真っすぐ向かってくるガンマの攻撃をギリギリまで引きつけてかわした。


「やっぱ、簡単にはいか……ぐはっ」


 サリュは、かわしたその動きに合わせてガンマの腹に膝を入れた。ガンマの巨体が宙に浮く。そしてそれが落ちてくるのを待たずに、その上から踵落としを入れる。ガンマの巨体が地面に叩きつけられた。


「無駄だ、その動きでは私には勝てん。戦士としての心意気は受け取った。そのまま楽にしてやろう」


 サリュが止めをさそうと手を振り上げた。が、ガンマの巨体が次の瞬間には消え去っていた。その一瞬で振り上げたはずのサリュの右腕が切り離されて宙に飛んだ。


「なっ、何が起き……」


 サリュが状況を把握する間もなく、背中に鈍い衝撃を受けた。目の端にちらっとガンマの姿見えた。が、それも一瞬で、また視界から消えた。サリュはそのまま膝を崩して倒れた。


「ぐっ、一体何が起きた……というのか」


 まだガンマの姿は捉えらてていない。ガンマの姿を視界で探すが見つからない。サリュの背中に嫌な汗が流れた。


「サリュ様! 上です」


 ラーカイルの声が聞こえた。その瞬間、サリュの視界の中に一瞬だけガンマを捉えることができた。ガンマは上から膝をついたサリュに向かって拳を叩きつけた。その瞬間、大きな音と共に地面から大きな砂煙が舞った。


「ちくしょう、最後の最後でかわされちまったか……」


 サリュはガンマの攻撃をかわしていた。砂煙が晴れるとガンマは全身に汗をかき、肩で息をしていた。サリュにはガンマの目はもうろうとしているように見えた。


「どうした? 惜しかったがこれで終わりか?」

「へへっ、あんたは結構余裕あるじゃねえか」


 ガンマは明らかに強がっている。その声からも余裕が見られない。サリュはその隙を見逃さなかった。瞬時に間合いを詰め、ガンマの胸ぐらを掴んで巨体を持ち上げた。


「いい動きだった。お前はその力どうやって身に付けた? それは人間ができる動きではないぞ」

「くっ、お前さんたちには関係ねえよ。人間様の知恵だ。お前たちと違って弱い俺たちは頭を使って強くなったのさ」


 ガンマは肩で息をして呼吸を整えようと努めるが、それを察したサリュはさらに胸ぐらを絞めつけた。


「ほう、生意気な人間どもめ。確かにお前たちは聡い。そして、その知恵の集大成がその結界だったというわけだ」

「そうかもな」

「だが、その結界ももう破られようとしている」

「何言ってやがる。王宮結界に関してはお前さんたちには手が出ねえだろ」


 サリュはそれを聞いても余裕の表情のままだ。


「どうした? お前たちはここで俺たちを殺すことができてもそれ以上は何もできない。違うか

?」

「ふん、そうでもないぞ。魔族にも頭があってな。この結界をどうしたらいいか日々研鑽を積んでいるんだよ」


 ガンマはサリュの言葉に嫌な予感を感じた。


「へっ、まさか。お前さんたちはこの結界を破る目途がついていると?」

「さあな、これから死にゆくお前が知る必要はない」

「何だ。ただのはったりじゃねえか。所詮は頭の悪い魔族だな」


 その言葉にサリュは激高した。全身から魔力が溢れ、周囲をサリュの殺気で満たした。


「どれだけ魔族に知恵があってもよ、この結界だけは手出しできねえぜ。なんせ人間様が作った最高傑作なんだからよ」

「そこまで愚弄するか、人間っ! そこまで言うなら教えてやろう。魔族には転移魔法が使える者がいる。それは結界の中でも他ではない。だが、ただ結界中に入ろうとしても結界の力で長くは転移することができない。だが、その術者の身体の一部が結界の中にあった場合、その一部が結界からの障壁になってくれて、長くいられることになるんだよ」


 ガンマはにやりとしてサリュを睨み付けた。


「何が可笑しい! 魔族を愚弄するな!」

「へっ、やっぱりお前たちは頭のできが悪いようだな。これでお前たちの企みが分かった」

「馬鹿な、お前にそれを伝えることはできないだろう」


 さらに強い力でガンマは締め付けられる。


「そ、そうだな。だが、この話を聞いていた奴がいたとしたらどうだ?」

「そんな奴がいるものか。この騒がしい中でこの話を聞くことができるものか」

「ところがそうでもないんだな」


 サリュははっとして周囲を見渡した。だが、それらしき人間はいない。


「まあ、いい。そんな奴がいたとしてもこの場所ごと焼き払えばいい」



 


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