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 ルベル達が王宮結界の門の外で戦いを始めようとする一日半前。勇者選抜試験はまだ続いていた。マナとライカの戦いは日が昇り切ってすぐ始まったが、日が傾こうとしても決着がつきそうになかった。二人には疲労が見られるものの、まだ魔力も体力も尽きていなかった。


 観客は退屈していた。二人の戦いを楽しむ力量がある者がいないからだ。早すぎる動作のため、何をしているか分からない。魔法の打ち合いは地味で見ていて飽きる。二人は大きな魔法を放つと、観客を巻き添えにしてしまうと思い、避けていたのだがそれが逆に観客を退屈にさせてしまっていた。


 ただ二人の戦いを嬉々として、いや見惚れるように見ている者が二人いた。一人は審判をしているアンフィス、そして王の側に控えているランクルだった。この素晴らしい戦いをずっと見ていたいとさえ思っていた。


 たが、彼らのそんな希望はヘンリル王の一言にひれ伏すこととなった。


「もうよい。戦いはこれで終わりにしよう」


 ヘンリルも観客と同じく退屈していたようで、戦いの閉幕を宣言してしまった。


「ヘンリル様、今、何と?……」


 ランクルは自分の耳を疑った。


「聞こえなかったのか? この戦いはもう十分だ。やめにしよう、と言ったのだ」

「私も父上に賛成です。この戦いはこれ以上続ける意味がない」


 王の横に座るセントル王子も同意した。だが、ランクルには承服できなかった。今やめてしまっては勇者選抜試験をこの後どうするのか? そんな疑問が浮かんだが、それよりもこの戦いを終わらせることの無念さに当惑していた。


「ランクル、王の決定に意見するというのか?」

「い、いえ、そのような……た、大変失礼致しました」

「お前は、ここで試合をやめた後勇者選抜はどうするのか、が気になっているのであろう? それについては心配ない」


 ランクルはセントルに思いの一部を言い当てられた。


「心配ない、と申しますと……?」

「一次試験はこれで終わりだ。二人とも合格とする。父上、それでいいですね?」

「ああ、問題ない」


 思ってもみない結果となり、ランクルはまだ頭の中が整理できずにいた。


「二人とも、合格……ですか? それで、一次試験はこれで終わりだと?」

「そうだ、二人とも合格だ。カリム、予定変更だ。二次試験の準備にはどのくらいかかる?」


 外套を纏ったカリムがスッと前に出てくる


「そうですね、二日、と言ったところでしょうか?」

「遅い、明日のこの時間までに準備しろ。時間がないんだ」

「かしこまりました。ではすぐに準備に取り掛かります」

「ああ、頼んだぞ」


 カリムは静かにこの場を去って行った。


「せ、セントル様、え、ええと……」


 完全に状況が飲み込めていないランクルは狼狽えることしかできていなかった。


「ランクル、落ち着け。ちゃんと説明する。実力的にあの二人を一次試験を通過させることには誰も異論はないだろう。そして、もうここには他の応募者はいない。アンリと共に王宮結界に行ってしまったからな。あの二人の戦いに決着がつかないのなら、二人とも合格にして、二次試験に進ませるのが合理的だろう。ランクルよ、ぺリルがいないのだ。ここはお前の仕事だ。この試合を終わらせ、二次試験への通過を宣言させるのだ」





 マナとライカの戦いはランクルの宣言により終わった。観客も疲れていたのか、二人の戦いだけでなく今日をもって一次試験が終わったことも含めて苦情が出ることはなかった。観客達が楽しめるのは一次試験までだ。二次試験からは極秘裏に行われ、結果だけが発表される。それでも観客はマナとライカの戦いを見るのに疲れて、ランクルの宣言後、静かに帰って行ってしまった。


 控え室に通されたマナとライカは静かに椅子に座って向かい合っていた。二人の間には机があり、飲み物と食事が置かれていた。


「これ、食べていいのかな?」


 マナは我慢できないといった表情だ。


「あ、ああ。ここに案内されて二人分の食事。これは私達のものと考えていいではないでしょうか?」


 ライカもまんざらではなさそうな顔をしている。二人は休みなく長時間戦ったあとなのだ。腹が減るのも無理はない。


「よし、では頂きます!」


 二人は一気に貪り始めた。


 調子に乗って一気にたくさん口に入れ過ぎたマナが苦しそうにもがいていると、ライカがスッと飲み物を差し出した。


「一気に食べ過ぎです。落ち着いて下さい」

「そうだね」


 二人は少し笑い合った。マナはライカから差し出された飲み物を飲み、今度はゆっくり食べ始めた。


「ところでさ、さっきの話本当なの?」


 ライカの食事の手が一瞬止まる。


「はい、本当です。いつになるかまでは分かりませんが。でも急いだ方がいいです。二人とも合格したのは運が良かったのかも知れません」


 マナは食べながら続ける。


「だとしたら、二人が合格したのも何か裏があるかもね。向こうさんにも急ぐ理由ができたのかも」

「そうかも知れませんね。ですが、私達がするべきは一刻も早く勇者となることです」

「そうだね」


 ライカは用を足すために一旦席を外した。廊下を歩きながら一先ず二次選抜に進めたことに安堵していた。


「やはりマナさんは段違いの力だった。戦闘中に説得するのは賭けだったが、上手くいった。早く勇者になって結界を守らければ……」



 部屋に残されはマナは食事を終え、一人天井を見上げていた。


「ふうっ、大変なとこになってるなー。取り返しのつかないことになる前に、早く勇者になって結界を解かなきゃ」

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