表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/65

38

 ライカが正面から向かってくる。剣は既に抜刀されていた。ついさっきまで、隙だらけで佇んでいたとは思えない切り替えの早さだった。マナは咄嗟に剣を抜くが、間に合わず体を大きく横に逸らしながら、抜きかけの剣でライカの斬撃を受けた。激しい金属音が鳴り響く。ライカは自身の剣を、マナの剣の上で滑らせながら、体を回転させて、その勢いのままマナに斬りかかった。


 マナは体を横から後ろに反らし、回転の剣軌道から逃れた。そのまま、後方へ宙がえりをしつつ、ライカの空いた脇腹へ蹴りを入れた。ライカは身を捩り、腰の鞘でその蹴りを受けた。マナの蹴りは身体強化魔法がかかっており、金属製の鞘が見事に砕け散った。マナはそのまま後方に下がり、ライカと距離を取る。


 ライカの鞘の上部は粉々になってしまったが、ライカへのダメージはまったく残っていない。マナはすぐさま魔剣で風魔法を起こす。


「行くよ! 風の巻っ」


 ライカは咄嗟に剣鞘の下部を掴んでマナの足元へ投げた。マナがそれを後方へ飛びながら避ける。が、マナが地に着く前にライカの火炎魔法が飛んで来た。


「まずいっ!」


 マナは咄嗟に風魔法を上方へ向けて。ライカの火炎を上方へ逸らせた。そのまま二人の攻撃の手はいt一旦止んだ。


「ふう、ライカちゃん。凄いね。ルベルから話には聞いてたけど実際に戦うとやっぱり違うよ」


 マナはそう言いながらも笑みがこぼれている。


「マナさん、あなたもね。流石に簡単にはいかない。だが、あまり時間をかけてもいられません。行きますっ」


 ライカはマナと同じ感情で揺さぶられたように答えて、次の攻撃に移る。マナの目の前から一瞬ライカが消えたような気がした。


「えっ、早いっ」


 マナは攻撃を受けきれずに、左肩に一撃を食らってしまった。肩から鮮血が滴り落ちる。


「いててて、身体強化したとはいえ、その速さは反則だね。私にもそこまでの動きはできないよ」

「そうですか、では次はどこを狙いましょうか」

「言ってくれるね。でもこんなことでは私は倒せないわよ」

「強がりはみっともないですよ、マナさん」


 ライカはまた一瞬で目の前から消えた。だが、今度はマナがライカの攻撃を楽々とかわした。ライカは脇腹に痛みを感じて片膝をつく。


「な、もう見切られた……のか}


 ライカが信じられない、という風にうろたえている。


「身体強化はこちらの専売特許だからねー」


 だが、すかさずライカが同じ攻撃をかけてきた。またしてもマナはするりとその攻撃をかわす。その様子を観察して、ライカは何かに気が付いた。


「……分かりましたよ。マナさん、あなた目に身体強化魔法をかけましたね」

「せいかーい。よく分かったね」

「全身の筋肉を魔法で強化するだけでもかなりの鍛錬が必要なのに、目にまで強化をかけるなんて……」

「すごいでしょ。隠すつもりもないよ。目だけじゃなくて、鼻や耳までかけられるんだから」





 観客たちには二人の動きが速すぎてどう戦っているか全く分からなかった。観客たちの歓声は止み、会場中が静まり返っていた。そんな中、観客の中で唯一状況を把握できているルベルは、一人でハラハラしていた。


「ああ、まずい。ライカの動きは予想以上に早い。いくら先輩でもあの動きのまま連続で攻撃されたら分が悪い。先輩の魔剣がちゃんと発動できればいいんだけど。何とかしないと……」





 王座の横で観戦していたアンリにも、何が起こっているか完全に把握できていなかった。思わず斜め後ろに控えているランクルに状況を聞いてみたが、ランクルも首を横に振るだけだった。二人の強さが桁違いなのだけは分かるが、自分との差が大き過ぎて愕然とするしかなかった。


「これほどまでとは……。だが、この二人は国の宝ではないか。これだけの強者がいるから、結界領域の治安が守らているのか……。私が行った遠征などただの遊びではないか。くそっ、ぺリルめ。私が対応できる魔物だけを相手にさせたな」


 かつて行った遠征でついたアンリの二つ名『戦女神』。この名はアンリにとってとても誇らしかったが、二人の戦いを見て、自分が担がれていた事実を目の当たりにした後では、ただの飾りとしか思えなくなってしまった。いやむしろ恥とさえ思えてしまう。


「この二人こそ。いや、この二人のような強者こそが国の戦士に相応しい。『戦女神』の称号に相応しい。私など、ただの飾りに過ぎない。この結界の権威と同じだ……。ただの飾り。真実を知るものだけの空虚な器……」


 その時、王座に急報が届いた。その報は、まずランクルに伝えられた。ランクルをその報を聞くとすぐに、王へ耳打ちした。王はその報を聞くと、一瞬空を見上げて、とても寂しそうな眼で呟いた。


「間に合わなかったか……」


 アンリは王の様子がおかしいことに気づいて、ランクルを呼び止めた。


「ランクル、何があった?」


 ランクルは王を一瞥し、王が頷いたのを確認した。


「アンリ様、緊急事態です。東の要所デンジャの街の分体結界が破られました」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ