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 ランクルの執務室でのドタバタは一旦落ち着きを取り戻した。ランクルはようやくゆっくり話ができると思い、アンフィスに飲み物を持ってくるよう指示を出した。アンフィスは飲み物を持ってくるため、一旦部屋を出て行った。


「で? ホムとヘイアンの街で一体何があった? 報告書を見ると、二件ともお前が当事者だろう。立て続けに結界内への魔物の侵入があり、分体結界核が狙われた。王宮内でもかなり問題になってるぞ。詳しく教えてくれ」


 ランクルはホムとヘイアンの事件での報告書は目を通していた。その報告書の作成者に二件ともマナの名前が記されていたのを確認していた。ランクルが知る限りマナは良くも悪くも問題児であったため、絶対に何か隠してると確信していた。自分にとって都合の悪いことか、はたまた面倒くさいという理由だけで、全てを詳らかに報告するのを放棄しているに違いないと考えている。そのため、マナが王都に向かう馬車の中にいると分かった時点で、身柄を拘束するためにマナの元へ走って行った。


 たが当の本人は、王宮結界を傷つけた罪人として連行されていたにも関わらず、呑気に昼寝をしていたことや、事の重大さを全く理解してないような素振りであったため、ついカッとしてしまったのであった。


「報告書の通りだよー。逆にそれ以上あったらまずいでしょ。報告書の意味がないよ」

「おい、お前が何か隠してるのは分かっているんだぞ。報告書に書いてないことがあるだろう。話せ」

「人聞きが悪いなあ、何もないってば」


 あくまでマナは惚けた姿勢を崩さない。客用の椅子に座ってのんびり寛いだままだ。


「ほう、じゃあ今回の勇者選抜試験に出場する『ライカ』という名の女に聞き覚えはないか?」


 流石にマナも一瞬時が止まった。ライカのことは報告では死んだことにしていた。魔物に連れ去られたと分かれば、説明がややこしくなるからだ。しかもルベルの話ではライカには角が生えていたことが分かっている。騎士団に魔族がいたとなれば大問題になりかねない。


「えっ、何でライカが出ることになってるの? 彼女は死んだ筈だけど」

「そうですよ、何言ってるんですか? ライカが出てくるはずがありません」


 ルベルも反論を試みる。生きていて欲しいと願っているが、魔族に連れ去られているならその保証はない。連れ去られたということはその価値があったということだ。価値がないのであればあの場で殺してしまえばいい。そうせずに連れ帰ったのには訳があるはずだが、マナにもルベルにもその検討がまったくついていなかった。


「先日、王宮結界の門を通過したという報告が上がってきている。元々は出場予定だったからな。門番は何の違和感もなく通過させたそうだ。騎士団の身分証も持っていた」

「それは……、不思議な話ですね」

「マナ、答えろ! ライカは本当に死んだのか? お前はどうやってそれを確認した? 報告書には『魔族の攻撃を受けて死亡』としか書かれていない。死体はどこにある? 辻褄が合わんぞ」


 ルベルは考えた。門を通過したのがもし本当にライカなら、ライカは何かしらの理由で戻ってきたということになる。自力で抜け出して来たのか? それとも別の理由があるのか。考えても分からないため、どう答えたらいいか分からない。ここまでのことは想定していなかった。ルベルはマナに一縷の望みを賭けるしかないと思い始めていた。


「えっ、そもそも王宮結界って門があるの? 知らなかったなー。知っていれば最初からその門を通ってきたのに」

「貴様! 誤魔化すな。質問に答えろ? さもなくば……」

「さもなくば……どうするの?」


 マナの誤魔化しは通用しなかった。ランクルはあくまでも問い詰めるつもりでいた。だがマナもランクルの喧嘩を買う形で、何とかこの場を収めようとした。


「貴様、本気か? 本気で隠し通すつもりか?」


 ランクルは強気に出たものの、マナと真正面からやり合うつもりはなかった。ランクルは思ったより抵抗してくるマナに対して、逆に興味が湧いてきた。基本的に物事にはあまり興味を示さず、こだわりが薄い人間だと思っていただけに尚更だった。何か裏がある。そう感じたが、それが何かまではまったく想像がつかない。


 するとこの緊張の糸を溶かすのにおあつらえ向きなほど呑気な音が響いて来た。


「ランクル様、温かい飲み物をお持ちしました」


 アンフィスだった。アンフィスはそのまま部屋に入ってきた。アンフィスは室内の緊張感のある空気に一瞬たじろいだが、マナが向けた笑顔で気持ちを落ち着けた。


「アンフィスさんありがとー」

「アンフィス、すまないな。お前にこんな用立てをしてしまって」

「いえ、ランクル様のご命令ですから」


 アンフィスはランクルとマナに何かがあったのは察していたが、これ以上踏み込んではいけないことも瞬時に理解していた。あくまで飲み物を持ってきた部下として振舞うことで、この場の空気を取り持とうとした。


「あ、あのー……」

「どうしたの? ルベル」

「ぼ、僕の飲み物……は、ないんですよ……ね?」


 自分だけ飲み物がなかったルベルはちらっとアンフィスを見てみたが、相変わらず汚物を見るような目で睨まれたため、諦めた。





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