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15

 ルベルはライカ達に遅れて走り出した。


「ち、ちょっと。二人とも待って下さいよ!」


 ルベルの呼びかけに応じることなく、二人は走り続ける。


「くそっ、俺だって先輩に付いていっぱい現場を踏んで来たんだ。負けてられない」


 自分を鼓舞してルベルは全力で二人に追いつこうと本気を出したが、二人からは離される一方で、遂には追いかけるのを止めた。


「はぁ、はぁ。な、何だよあの二人。体力馬鹿か……」

「ノロマさーん、無理しちゃ駄目ですよー。ゆっくりでいいから着いてきてね!」


 遠くなっていくライカがルベルを煽る。


「よせっ、変に煽ることないだろう。それともしかして、あいつに支援魔法かけてないのか?」

「えっ、ああ……。かけたと思ったんですが、かかってなかった……かもです」


 明らかにバツが悪そうにライカが答える。


「おいっ、今は非常事態だぞ。私情を挟むな! 俺は先に行ってるから、ルベルにも支援魔法をかけてやってこい」

「で、でも、そんなことしたらパリストさんは一人で……」


 パリストは心配するライカに向かって優しく語りかける。


「心配いらない。昨日の魔物くらいなら、俺だけでも何とかなる。さあ、早く行け!」

「わ、分かりました。すみません、すぐ駆けつけますね」 


 ライカは急反転して、そのままルベルの方へ向かう。パリストはそれを見送ったまま、魔物の音がする方へ駆けていく。


「ったく、あいつは実力は申し分ないのに、精神的にまだ子供だな」


 ライカは間違いなく数十年来の逸材だ。体力、剣技に関しては並だが、それに余りある魔法の才がある。攻撃魔法から支援魔法まで使いこなし、敵を近づけさせたことがない。


 パリストは魔物に滅ぼされた街でライカを拾った。その時はまさかここまでの逸材だとは思っていなかった。王都の訓練期間に何があったのか、余程の指導者に出会ったのかは分からない。だが、今こうしてバリストの前に立ち、立派に戦っている。パリストはその姿を見る度に、自分にもいたはずの幼い影と重ねられずにはいられない。


 パリストは実戦でライカに教えるべきことはもう何もない。ライカが王都に戻って勇者になりたいというなら、送り出してあげるのが親心だと、パリストは自分に言い聞かせていた。





「こら、グズ。何モタモタしてるのよ」


 戻ってきたライカは開口一番、腕組みをしたままルベルに辛辣な言葉を投げつける。


「こら、じゃねえよ! お前、支援魔法使ってるんだろ? それなら俺にもかけていけよ」

「本当にグズだな。お前、何で魔法が使えるのに使わない? それだけの魔力を持っているのになぜ使わない?」


 ライカは単にルベルがノロマだと言っているのではない。魔法を使えるだけの力があるのに、なぜそれをしないのかが疑問だった。


「ふん、それが分かるってことは、流石だな。先輩と同じか、それ以上の実力があることは認めてやる。でも、俺には俺の事情がある。行きたきゃ先に行け。俺は後から駆けつける」


 ライカは黙ったままだ。何か言うことを躊躇っているようでもある。


「な、何だよ。急に改まって」

「お前、初めて見た時から思っていたが、まさか私と同じ『候補者』か?」


 ルベルの目が一瞬大きく見開かれる。ライカの質問には答えられず、沈黙することしかできなかった。


「そうか、それなら話は早い。勇者に最初に辿り着くのはこの私だ。お前は後ろからそれを眺めていろ」


 ルベルを一瞥したあと、振り返り走り出そうとするライカをルベルが止めた。


「ま、待て。お前、パリストさんに恩があるんじゃないのか?そう見えたぞ。それを無視して勇者になろうとするのか? それは矛盾だ。お前が勇者になったとして、パリストさんはそれでいいのか? お前がやることに喜んでくれるのかよ!」


 ライカは後ろを向いたままだ。


「パリストさんには感謝している。情がないと言えば嘘になる。だが、私は勇者にならなければならない。そして世界を救うのだ」

「それで本当にいいのかよ。パリストさんはお前がそんな風に生きることを……」


 ライカの脳裏に幼い頃の記憶が蘇る。母は最初から記憶にない。優しかった父は何があったのか知ることもなく死んでいった。一人になって泣いていたところ、優しく頭を撫でてくれたのがパリストだった。


「うるさい! 黙れ黙れ黙れ! だったらお前は何だ? その余りある魔力を使わずに、出し惜しみしてどうやって勇者になると言うんだ! お前も『候補者』なのだろう? だったら私を蹴落としてでも、先に進まないといけないんじゃないか?」


 ライカは感情を露わにしてルベルに言い放つ。ルベルには心の行き場がなくなった子供が八つ当たりするかのように見えた。


「お前の言いたいことは分かってるよ。でも俺には俺の道がある。『候補者』にだって考える権利がある。俺も世界を救いたいのは同じだ」

「ふん、強がるな。お前のことなどもう知らん。好きなように私の背中だけ眺めていろ。私は先に行く」


 ライカはそのままパリストの後を追いかけて行った。ルベルはその背中を眺めることしかできなかった。


「ライカ。確かに俺は腑抜けかもな。でも世界を救う気持ちは負けてるつもりはねえよ。自分が勇者になるより、もっと近道を見つけたんだよ。俺は」






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