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「ああ、こんにちは。エルト」
鬼の少年エルトはミラベルの協力者だ。ホムの街でもエルトと連絡を取り合い、魔物たちを襲撃させた。その際、彼は魔族軍の隊長クラスの者を連れて来きたが、領域騎士団の女にあっさりやられてしまった。次はもっと強力な者を連れてきてもらわなければならない。
「ホムの街では残念でしたね。あと一歩のところでエラルさんにバレてしまいました」
屈託なく笑みを浮かべながら、まるで世間話をするかのように話す鬼の少年エルトは、とても楽しそうだ。
「どういうことだ? エラルというのは誰の話だ?」
「あっ、そうか。知らないんですよね。ホムの街の結界はほぼ力を無くしているんですけどね、エラルさんって言うとっても強い鬼が、魔族を結界内に入れないって、人間側と約束しちゃったんですよねー」
「な、何だとっ! それでは私のやったことは意味がなかったのか?」
初めて聞く重要な情報に、ミラベルは焦りを隠し切れない。
「いや、完全に誤算でした。ごめんなさい。魔族も一枚岩ではなくて。『結界を無くす』という目的は同じなんですけど、方法論で割れているんですよ」
「それは、どういう…」
「時間がないので簡単に言うと、僕みたいに力ずくで崩していく派閥と、内部からバレないように崩していく派閥があるんですよ。今回はこちらの企みがもう一つの派閥にバレてしまいまして、邪魔されちゃったという訳です」
「そうか、でも我々のやることは変わらない。そうだな?」
「その通りです。今回も前回と同じ手筈で結界の操作をお願いしますね。昨日、無理矢理一体を侵入させたんですが領域騎士団にやられちゃいましたからね。やっぱり、数で押さないと」
鬼であっても結界内に簡単に入れないし、他の魔族を侵入させられない。数で押し込むというのは、結界の操作あっての作戦だ。
「ミラベルさんは結界の操作はもう完璧ですか?」
「ああ、ホムの街でかなり練習したからな」
「素晴らしい。こんな頼もしい味方がいて僕たち魔族は幸せですよ」
「私は私の意志で動いている。たまたま魔族と利害が一致しているだけだ」
と、エルトの体がブレて安定しなくなってきた。
「ああ、そろそろ時間のようですね。では明日の日が沈む前に、ホムの街と同じ手筈で結界を操作して下さいね」
「ああ、分かった。魔族の侵入の方は任せたぞ。そのエラルとかいう鬼に邪魔されないようにな」
「エラルさんは今後片付けで忙しいですからね。大丈夫ですよ。ではまた」
エルトの姿が見えなくなった。こちら側に呼び寄せるのに必要な魔力が尽きてしまったのだ。ミラベルは次の仕事の準備に取り掛かる。しばらくするとここの守護者たちがやってくる。彼らを一人残らず外に逃がさないように始末しなければならない。一人だと多勢には不利だ。ホムの街でやったように罠を張って、確実に一人一人仕留める。この街でも失敗はできない。使命を果たすため。世界を救うためにも。
ミラベルは自らに課した決意を胸に、明日への準備を進める。




