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 ルベルは、パリストとライカに連れられてヘイアンの街に到着した。ヘイアンの街はホムの街よりも少し小さいが、出店が出されていて、とても賑やかで楽しそうな雰囲気だった。


「何か、賑やかですね。お祭りでもあるんですか?」


 ルベルが素朴な疑問を口にする。


「昨日、大物がこの街に侵入しかけてな。それを追っ払ったばかりだからまだお祭り気分で騒いでるのさ。刺激が少ない街だからな、騒ぐどきは思いっ切り騒ぐんだよ」


 ホムの街では、魔物が街に近づくことが滅多にないため信じられないが、この街では結構あることなのだろうか。


 三人は大通りを真っ直ぐ進み、その先にある小さな建物の前まで来た。建物というより、小さな家だった。五人家族が住む程度の大きさだ。パリストは扉を開けて中に入り、扉を開けたまま、ルベルを促す。


「入れ」

「えっ、ここは……?」

「何をしておるのじゃ、馬鹿ルベル。早く入らんか。パリストさんを待たせるな」


 ライカが早く中に入るように促す。


「ま、まさか。ここが拠点?」

「ああ、そうだ。ここが領域騎士団ヘイアンの拠点だ」


 ホムの街の拠点もそんなには大きくはないが、いくらなんでもここは小さ過ぎる。ここに騎士団員は何人いるのか分からないが、今の人数で既に手狭な感じがする。


「ルベル、お前の疑問は最もだが、これが現実だ。まあ、取り敢えず入ってくれ」

「は、はい」


 ルベルは中に入り、勧められるままに席に着いた。椅子は四つしかなく、机も質素なものだった。


「ライカ、すまないが。茶を頼む」

「は、はい。すぐに準備します」


 ライカはお茶の準備のため、そそくさと奥に消えて行った。


「さて、まずは長旅ご苦労だったな、ルベル。まさか本当に増員要請が通るとは思わなかったから驚いたぞ」

「えっと、そんなものですかね。ホムの街にいたときは結構人が増えたり減ったりしたものですが」


 実際は騎士団員が死んで減ったり、少し多めに増員してまた死んだりの繰り返しだ。


「ああ、ここは変な噂が立ってしまってな。人があまり来なくなってしまったんだ」

「噂……?」

「ああ、ここは『あの世への片道切符』だってな」

「えっと、それは……」

「そうだ、ここに来た者はみんな帰ることなく死んで行くという意味だ」


 ヘイアンの街は交代がないことは知っていた。だからライカの噂はただの噂でしかなく、都市伝説くらいに感じていた。だが、それが事実だとしたら、実はこの街はとんでもなく危険な街というとになる。ルベルは今頃になってとんでもないところに来てしまったと思った。


「パリストさん、それは大きな間違いです。パリストさんはここに来た人を立派に守ろうと必死になって戦ってます。悪いのはここに来た奴らですよっ!」


 お茶を持ってきたライカが、急に声を上げて話に入ってくる。


「よせ、死んでしまったのは事実だ。死なせてしまった俺の責任でもある」

「で、でもっ……」

「ライカ、お前は特別だ。ここで遭遇する魔物を簡単に倒せるのはお前くらいだからな」

「何を言ってるんですか。パリストさんだって」

「あ、あのっ……」


 ルベルは堪らず手を上げた。


「ところで、なぜ増員が必要なのでしょうか?」


 二人は会話を止めてルベルを見た。


「増員がそんなにおかしいか?」

「いえ、そこのライカは、十分に強いと思います。あれだけ強ければ、魔物を倒すのは問題ないでしょう。魔物だって毎日出る訳ではありません。それにパリストさん、あなたも相当の腕前ですよね。流石に僕でも分かります。全く気配もなく僕たちに近づいてきて、それでいて立ち振る舞いに全く隙がありません。お二人がいれば少人数でも警備はできなくはないかと」

 

 あの時、マナが横槍を入れる隙がなかった。マナはいつでも魔物の毛の中から出て来られる筈だったが、恐らくパリストを警戒したのだろう。少しでも変な動きをすれば、あの長い棒の餌食になる。あのマナがそれを警戒したのだ。相当の腕前に違いない。単に魔物の毛の中を堪能していただけかも知れないが……。


「そんなに褒められるとくすぐったいな。でも人数不足なのは間違いない。というか、ライカはもうじきここを離れることになる。だから流石に俺一人じゃ厳しいからな。だから増員が必要なのだ」

「……パリストさん。本当にいいんですか?」

「ああ、お前は勇者になるのが目標なんだろ? お前ならなれるかも知れないと俺は本気で思っている。なら送り出したいと思うのが親心ってもんだろう」

「でも……このままパリストさんだけにここを丸投げしていくなんて……」


 勇者になるためには王宮守護者による『勇者選抜試験』を受けなければならない。各国から集まった候補者達が年に一度競い合い、勝ち残った者だけが『勇者認定』を受ける資格を得る。だが、これまで勝ち残った候補者から『勇者認定』を受けて勇者と認定された者は一人もいない。狭き門だ。


「ライカ、お前、選抜試験を受けるのか。でも、あれは18歳にならないと受けられないんじゃ……」

「私は、今年十八になったんじゃい!」

「なっ、そんな馬鹿な。年齢詐称はよくない。お前にはまだ時間がある。焦らなくてもいいぞ」

「き、貴様。相変わらず失礼な男だの」


 見兼ねたパリストが頭を抱えながらルベルを宥める。


「ルベル、信じられないかも知れないがライカは本当に十八なんだ」

「えっ!? し、信じられません。どっからどう見てもまだ子供ですよ」


 ライカの怒りと共に、周りに魔力が満ちてくる。


「ライカ、落ち着け。まあ、そんな訳でな。これからもよろしく、ルベル」


 ライカが魔法を発動しかけたところ、パリストがギリギリのところで止めた。


「ところで、ルベルの先輩はどこにいる? もうヘイアンの街には着いてるんだろう?」

「あ、ああ、先輩ですよね。先輩ならもう着いてると思います。ちょっと探してきます」

「おい、ところでお前の先輩の名はなんと言う?」

「えっ、言ってませんでしたっけ?」


 すると、街の外から大きな音がした。ルベルは耳を澄ます。ホムの街の時と同じ。嫌な予感がする。


「パリストさん!」

「ああ、これで二日連続だな」


 パリストとライカが脱兎のごとく、拠点を出て行った。






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