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『ロックミュージック研究会』  作者: たうゆの
アンコール
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2.Epilogue

 ロックミュージック研究会は俺を先頭にステージに向かう。自然と四年前と同じ順番になっていた。ライブ中ずっと客席の一番後ろで俺の到着を待っていたユリハ会長には、四年前と同じように舞台袖にいてもらうことにした。


 四年前と違うのは俺だけが自分のギターを持ってステージに向かっているということだけ。ケイガのナビゲーターやナナカのミュージックマンはステージ上のスタンドに置かれている。それが観客に対する合図になっていたらしい。アンコールがありますよという無言の合図だ。

 真っ先にステージに登場したのが俺ということで、客席が一瞬どよどよと困惑の音を響かせる。そらそうだ。ほとんどの観客にとって、ロックミュージック研究会はスリーピースバンドだ。「真っ先に出て来やがったこいつは何者だ」ということだろう。そんなこと想定内だがやっぱり気持ちがいいものではない。


 少しだけ怯んでいると困惑の音を制するように「おかえりーーー!!」という声が聞こえた。聞き覚えのある声。ミズキだ。真っ暗な客席にいる観客の顔は、はっきりと見えない。けれど、その声がミズキだというのは分かる。

 声のする方に手で応える。するとミズキの声が伝播するように色々なところから「おかえり!!」という声が上がった。あっという間に全部の声に応えることができないくらいの「おかえり」が広がった。


 俺は、大声で「ただいま!!」とだけ叫んだ。俺の声に応えるようにまた「おかえり」の声がいたるところで上がる。


 さすがは親父の店、アナーキー。完全にホームじゃないか、と全く関係ないことを結びつけて、嬉しくなる。


 四人が所定の位置までたどり着いてしばらくすると、客席は静かになった。みんな俺たちの第一声を待っている。全く打ち合わせをしなかったが、ここはおそらくナナカがしゃべるだろうと思って黙っている。

 明るいスポットに照らされたステージ上から会場に目をこらす。目が慣れてくるといくつか知った顔が見えた。

 ミズキ。アヤさんとマリちゃん。それからリサさん。意外な顔もあった。遠山瑛里華とおやまえりかだ。俺が離れている四年の間に何があったのかは分からないが、ライブを見に来るくらい関係は改善したらしい。あの顔は冷やかしのために来ている顔じゃない。


「お待たせしました。アンコールありがとう!」


 やっぱりナナカが話し始める。


「ライブ中のMCでも言ったとおり、あたしたち、四人が揃いました。四人でのライブは久しぶりで少し緊張だったり気恥ずかしさだったりあるんだけど、一曲だけやらせてください」


「「うおーーーーー!!」」という野太い声と「「いいよーーー!!」」という黄色い声が混ざる。


「でもその前に一人一人、何か喋ってもらってからにしようかな。えっと、まずはエリから」


 急に話を振られて慌てたのかカツーーンとスティックを落とす音が鳴る。


「えっ!? えっ!? わたし!?」


 ナナカにマイクを向けられたエリは、誰に確認を取りたいのかわからないが、キョロキョロと辺りを見回すように首を振っていた。ナナカは有無を言わさずうなずき、マイクを向け続ける。


「えっと……おかげさまで、わたしたちは四年ぶりに四人揃うことができました。一曲だけですけど、精一杯やるのでお付き合いください。それと、このメンバーでまたライブをやります。必ずやります。そのときはまた遊びに来てね」


 深呼吸した後に喋り出した言葉は、スラスラと淀みなく続いた。こんな風に人前でしっかり話すエリは初めてだった。


「エリ、ありがとう。それじゃ次、ケイガ」


 指名されてしばらくしてもケイガは言葉を発しなかった。一点を見つめて動かない。その目線の先にケイガのお母さんがいた。


「ケイガ……?」


 ナナカが再度呼びかける。それでもケイガは反応しなかった。少しずつ客席に動揺が広がる。ざわざわとし始めたとき、ケイガはおもむろに大きく一度うなずいた。なにに対してうなずいたのか俺だけは分かる。


「すまんすまん!! 俺の番か。えっとだな……」


 何事もなかったかのように話し始めると客席から愛のこもったヤジがとぶ。


「うるせー!! ちょっとボーッとしただけじゃねぇか。そんくらい落ち着いてるってことだよ。久しぶりって感じがしねーんだ。四年ぶりなんて嘘みてーだ。昨日まで一緒にスタジオ入ってたんじゃねーかって気さえする。だから大丈夫だ。お前らしっかり耳に刻めよ!!」


 最後は大声で客席を煽るとさっきまでのヤジが大歓声に変わる。ケイガは本当に人を乗せるのが上手い。俺の気分まで上がっていた。


「それじゃあ、最後。ケイ。ちゃんと挨拶してね」


 最後は俺の番だ。今日の主役にしてくれたみんなに感謝する。


「どうも、植村ケイです。久しぶりの人も初めましての人も、今日は来てくれてありがとう。今日は一曲しかできないけど、精一杯やるからついてきてください」


「なんだよ。かしこまっちゃって。そんなんでいいのか?」


 会場全体を代弁するようにケイガが言った。


「ごめんごめん。俺は……ロックミュージック研究会が大好きだ!!!!」


 ケイガに背中を押されてそれだけ叫ぶと客席が、大歓声で応えてくれた。この勢いのまま曲を始めよう。そう思って四年前と同じようにナナカに目をやる。ナナカは深くうなずいてマイクに向かった。


「ロックミュージック研究会、行きます!!」



【了】

本作品『ロックミュージック研究会』は、これにて完結です。


三十万字を超える長編を最後まで読んでくださった読者様にまずはお礼の気持ちを伝えたいと思います。本当にありがとうございました。


本作品は、『音楽』『絆』をテーマに執筆を開始し、あえて視点を固定しない方法で物語を紡ぎました。途中で一度投げ出してしまい再考を重ねて再執筆した経緯がある作品ですが、最後まで執筆することができて一安心している次第です。


本作品で得られた経験を元にさらなる良いものを生み出せるよう努力してまいりますので、機会がありましたら是非またページを開いてみていただけるととても嬉しく思います。


最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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