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『ロックミュージック研究会』  作者: たうゆの
8曲目 Welcome To Our Festival
67/87

Break 5

 あのあと、ナビゲーターはどうしたんだっけ。結局、俺たちじゃどうにもできなくて途方に暮れていたところに、たまたま通りかかったあっくんがやってきたんだ。それで、事情を話して修理を手配してくれたと記憶している。ケイガは修理が終わるまでの間、ナビゲーターが弾けなくて残念そうだった。


 ケイガのお母さんの曲は、完成しただろうか。


 昔のことを考えていると、ふと思い出すのは、バンドを組むことになったときのことだ。

 ナナカとエリは、ぱっと見、普通の女子高生でロックとは無縁に思えた。だから、あの時ケイガが値踏みしたのも分かる。

 でも、その見た目に反してニ人とも凄かった。

 演奏自体がって言うよりも空気感とでも言うのだろうか。もちろんエリは演奏も凄かった。俺たち四人の中でダントツで一番うまいのはいつだってエリだ。


 それから俺たちは四人、いや、ユリハ会長を入れて五人で文化祭ライブへの出演を目標に動き出した。

 今思い出すと無茶な目標だ。結成してから二ヶ月足らずで上級生たちを打ち破って、校内のオーディションを勝ち抜こうって言うんだから。でも、あの頃の俺たちは、本気で出演できると思っていた。だから、出られないと決まったときのショックは大きかった。

 俺たちは空中分解寸前になった。とは言っても、みんな音楽が好きなことに変わりはない。俺は、必ず文化祭ライブを勝ち取れると信じていた。

 そんなとき、どうしても二年目の文化祭ライブに出なければならない理由ができた。何が何でも出なければならないと俺は焦っていた。そのためには、メンバーの意識をなんとかしなければならなかった。二年目の文化祭ライブのためだけじゃない。その先の未来のためにも。


 エリのときは想定外だったけど、うまくやれた。

 きっとエリは、最後になるだろうと思っていた。エリに自信をつけさせるのが一番難しいと思ったからだ。だけど、その機会は俺が思っていたよりもずっと早く訪れた。それもエリ自身の頑張りによって。

 もしかしたら、俺が何もしなくてもエリは自分を変えることができていたかもしれない。エリは俺が考えていたよりもずっと芯の通った強い人間だった。

 あのとき俺は、エリに自信をつけさせることに加えて、妨害予防のための布石を打っておいた。それを使う機会はなかったけど、結果から言えば上手くいった。


 ナナカは頑固だった。

 持ち前の責任感のせいで、自分を認めることができなくなっていた。俺には持ち得ない、旺盛な責任感とプライドだ。

 親友のエリをもってしても、バンドに引き戻すことはできなかった。エリは心底残念がっていたが、できなくて当然だ。エリへの劣等感、エリとの実力差がナナカのプライドを傷つけていた。

 もちろんナナカは、エリを下に見たりはしていない。対等に見ているからこそ、エリに迷惑をかけ続ける自分が許せなかったのだろう。そして、そのうちエリを純粋な友達とは見られなくなり始めていたのかもしれない。だから、ナナカはバンドから離れた。

 そんなナナカをバンドに引き戻すために用いたイベントが夏フェスだ。俺は、あの夏フェスに『Pinky & Brack』が出演することを知っていた。リサさんの信奉者になりつつあったナナカなら「夏フェスに『Pinky & Brack』が出る」と言えば乗ってくると思った。けれど、そう上手くはいかなかった。もう一度リサさんのライブを見せれば、必ずまたバンドをやりたくなると思っていたのに、夏フェスに来ないのではそれが達成できない。

 そこで俺は、エリを使った。ナナカは、エリが遠山瑛里華を自力で退けたことを知らなかった。だから、そのことを伝えてナナカのプライドをくすぐってやった。すると、多少の抵抗はあったものの「夏フェスに行く」と言わせることができた。その時点で、バンドに戻る決意までしていたのかもしれない。けれど、あの状態のまま戻られてもまた同じように旺盛過ぎる責任感に押しつぶされてしまっただろう。だから、夏フェス参加は不可欠だった。


 ケイガは、なかなか隙を見せなかった。

 だから行動に移せたのが、二年目の文化祭ライブ直前になってしまった。

 ケイガは弱みを見せない。それをカッコ悪いことだと思っているからだ。だから、俺は嫌でも弱みを見せざるを得ない状況に持って行くことにした。二年目もオリジナル曲のバンド内オーディションをやる。我ながらいいアイデアだったと思う。その性格上、一人だけ「できない」とは言えないケイガは、必ず乗ってくると思っていた。ただ、ケイガが抱えていた問題は、俺が思っていたよりも遥かに重たかった。それでもあいつはしっかりそれを乗り越えた。俺はほんの少し背中を押してあげればいいだけだった。


 そうやって二年目の文化祭に確実に出られるよう、下地をしっかり作っていった。

 俺にはあのライブに出なければならない理由があった。あのライブしかなかった。


 夏フェスのとき、一つだけ想定外のことが起こった。

『Pinky & Brack』の活動休止。

 それでも、その時もうすでに走り出していた歯車は止められなかった。


 あの時、俺は混乱して動揺して、そして——。


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