エピローグ沈黙の棘
昼下がりの執務室。
紫は次の任務の呼び出しを受け、メンバーが揃うまでの時間をやわらかすぎる椅子で潰していた。
何気なくつけたラジオから、とある歌手の訃報と共に追悼の曲が流れる。
耳に馴染んだ旋律に、紫は自然と声を合わせた。
低く抑えた声で、ほんの断片だけ。
それでも音は確かに空気を震わせ、場を静かに染めていく。
「……紫、このバンド好きなんだ。意外」
開いたままの扉から、レイの声がした。
自分が無意識に口ずさんでいたことに紫は驚いたが、否定はせず、ただわずかに目を伏せる。
「……あー、まぁ」
歯切れの悪さに小さな違和感を覚えながらも、レイは追及しなかった。
「ファンなら、任務担当になれば良かったのに、運悪いね」
今頃アサヒたちは、その歌声の主の告別式に出ているはずだった。
「……そうだな」
その言葉もさらに意外だった。
紫の短い返事は、さらに意外に思えた。彼女がエンタメに興味を示す姿など、誰も想像しないからだ。
「……ミーハーすぎ」
扉の影から、焔羅が不機嫌そうな顔で現れる。扉の前で実に面白くなさそうな顔をみせ、紫を見つめる。
「こんななよなよした声の、どこがいいのかねぇ」
語尾を嫌味っぽく伸ばしながら、紫の隣に腰を下ろした。
ぴりつく空気に、レイは少し居心地悪そうに息をつく。
「ファンに刺されるよ……」
軽く忠告しても、焔羅は「知ったことか」と言わんばかりの顔で返した。
紫はその反応に気づいたのか、気づかなかったのか。
ただ短いフレーズを最後まで口ずさみ、静かに唇を閉じた。
――その沈黙は、小さな棘のように三人のあいだに残り続けた。




