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28 行動開始

 




「あくまで占いだからね? 未来は決まってないし、油断なんて絶対にしちゃダメ。分かった?」


 店先で二人の男女が立ち話をしていた。


「セナは俺のカーチャンかよ。分かってるって」


「とにかく仲間とよく話し合って、行くなら準備をしっかりと」


「だぁー! そんなに心配ならついて来い! 案内してやる!」


「え? やだ」


「コ、コイツ……」


 滞りなく占術は終了し、大筋では依頼を請けることが望ましいと出たのだ。ただあくまで「大筋」と言うのがポイントになっており、セナはしつこいくらいに注意を促してくる。


 カードが示したのはある種の幸運。ややこしいのは危機と困惑、弓矢などが現れ、不穏な雰囲気もありありと出た。受け取り方によっては危なそうだったらしい。


「囁きの森にはいつ頃行くの?」


「まだ決まってないぞ。これから内容を詰めて、準備も始めないといけない。ただウェリズンは待ってくれないし、被害が出た後じゃ寝覚めが悪いからな。出来るだけ早く出るさ」


「そっか」


「な、なあセナ」


「ん?」


「無事帰ったら俺と」


「うわぁ! それは言っちゃダメ!」


「な、なんだよ」


「いやほら、フラグ的な」


「はあ?」


 ドティルとしてはセナとまた酒でも飲みたいだけだった。もちろんその先に進めたらこれ以上ない幸せだろう。しかし、残念ながらお相手の黒エルフの女性は手強いようだ。まあ簡単に口説けたら拍子抜けだし、それでこそセナだと思うドティルだった。いつの日か目の前に立つ女を彼女にするのだと誓う一人の男。"ふらぐ"と言う単語の意味はよく分からなかったが。


「と、とにかく、気を付けて」


「おう。ありがとな、セナ」


 ドティルは後ろ髪を引かれる思いで店を後にした。もっと一緒に居たい、話したい、出来るならあの褐色の肌に触れたい。そう思うのも本当だが、嫌われたら目も当てられないのだ。男女の距離間とは何と難しいのか、ましてや相手は別種族ときている。


「はあ、今の俺ってマジで餓鬼みたいだな」


 暫く歩き何となく後ろを見れば、扉の前に立って手を振るセナが見えた。


「ちくしょう。可愛いかよ。あれで見た目までエロい美人なんて絶対に反則だ。あー、まじで思い切り抱きてえ」


 そんな本心からの台詞を聞かせるわけにもいかず、ドティルは笑顔で手を振り返すしかなかった。










 ◯ ◯ ◯



 その日の夕方。


 冒険者ギルドから帰る途中、うーむと悩みを浮かべるセナが居た。


 オーフェルレム聖王国に来て三度目のギルドへの訪問。一度目は依頼を、二度目はその確認、三度目は依頼内容の小さな変更と追加だ。二度目まで受付も含めて変な空気は感じなかった。だが、さっきは何やら違ったのだ。


「んー、バレた? いや、疑ってる感じかな」


 焦茶色したローブを深く纏い、周りに聞こえない独り言を呟く。


 黒エルフであるセナ=エンデヴァルは、以前に冒険者として活動していた時期がある。元々()()()()()持っていた才能に加え、長い年月を掛けて磨いた実力は伊達ではない。ましてや「アダルベララ」を手に入れてからは、自分でもおかしいと思える程の戦闘力を発揮する。


 引退したとはいえ逸話や冒険譚は残ったままで、冒険者ギルド内で共有されている可能性は十分あった。


「さっきの受付のひと、様子がおかしかったよなぁ」


 いつかバレると覚悟はしていたが、思ったより早い気がする。まあ確証を得ない限りは大丈夫だろう。そもそも今の立場はギルドへの依頼者であり、報酬もちゃんと支払っている。つまり、余計な干渉をしてきたら接触を絶ってしまえば良いのだ。


「ううん、分かってて距離を取ってくれてるかも。多分、そんな気がする」


 どれだけ力を持とうとも所詮は一個人である。数の原理には勝てないし、手間が掛かりすぎる。今頼んでいる調査依頼は余りに範囲が広過ぎるのだ。一人でなんてやってられないし、専門家の知識にも敵わない。つまり、ギルドに頼るのが最も効率的となる。


「敵とかじゃないし、今は考えないで良いか」


 それよりも、集まって来た情報を整理すべきだろう。


 三度目の訪問で新たな調査書を受け取ることが出来たのだ。これに関しても非常に早く、セナとしても感謝しかない。恐らくだが、聖都レミュのギルドには戦闘より調査に長けたパーティが豊富なのだろう。


 色々と考えながら歩いていると、あっさりと家に到着する。場所的に冒険者ギルドに近いところを借りたのが良かった。「貸店舗ラウラ」はやはり優秀だねと、セナとしても我が事のように誇らしい。


 ローブを掛け、そのまま椅子に座る。


 そして、先程受け取った調査書に再び目を通し始めた。流し読みした際、幾つか気になった箇所があったのだ。


「泉の水量に僅かな違和感あり……周辺の乾燥に強い植物に変化は無いが一部に兆し? どれだけ詳しいんだ、この人って。イラストまで添えてあるし、植物学者だったりするのかな」


 前世の日本や世界ではないのだ。植物の研究だけで生活など出来ないし、そこに特化した職業なんて存在しないはず。


「うへぇ、最近の雨量と地下水脈まで表にしてくれてる。まさかこっちの意図に気付いてるとか?」


 調査そのものは珍しくない。ないのだが、依頼内容に含んでない事柄まで入れてあるのだ。嬉しいと言うより寧ろ怖い。とりあえずは追加報酬を払うべきか。


「場所は……シグソーの森? 何だかパズルみたいな名前だ。へー、そんなに遠くないな。此処なら行ってみても良いかも」


 幾ら調査を依頼しても、判明しない事がある。最終的には精霊力のあるセナ自身が赴かないとダメなのだ。調べているのは精霊絡みなのだから。


 ヴァランタンに頼んだアダルベララの整備も完了し、危険な場所に立ち入るのも可能となった。全盛期並みとは言えないが、その辺を探索するくらいは全く問題ない。ましてや今回の目的地は森ときている。森と言えばエルフの故郷。それは黒エルフも変わらないのだ。まあ正確には微妙に違うが、些細な問題だろう。


 軽く準備したら近いうちに行ってみよう。


 そんな風に決めたセナだが、彼女には知らない事がたくさんある。世界は思うよりずっと広くて深い。


 正式名称は「シグソーの森」で合っている。


 調査書に書き記すには公式な名前を使うのが当然だ。しかし、あの森には別の呼び名が付いていたりするのだ。


 そう。


 その別名を「囁きの森」と言う。












 数日後……




「よし」


 久しぶりに装備を整えた気がする。それが鏡の前に立つセナの気持ちだった。


 後からローブを羽織るが、あっちに防御力を期待出来ないのは当たり前だ。もちろん虫や小さな獣たちなら十分ではある。しかし、もしかしたら遭遇する肉食獣や魔物相手では心許ない。そのため、戦闘に向いた装備がどうしても必要になる。


 黒のライダースーツ。各所に小さく白と灰色のラインが入り、デザイン性も感じられる。


 前世の誰かが見ればそう答えるはずだ。当然に女性用で、胸部と臀部は大きくなっており、逆に腰や肩、腕などは男性用と比べて細い。


 かなり身体に密着しているようだ。そのため、肌の露出などなくとも強く女性らしさが現れた。これは別に視線を集めたい訳でなく、総合的防御性能を求めているのが理由になる。


 動き易さ、周囲への警戒、黒エルフ特有の気配察知など、それらを邪魔しないために作られた。また重量を減らすこと、衣服の引っ掛かりなども要らない。そもそも弓や魔法を主とするセナは接近戦を好まないため、敏捷性に振るのも当然だろう。


 とは言え使われた素材はかなりの強度を誇り、しかも通気性まである稀少なものだ。もし金銭に換算すると、今のセナでは到底払えない額になる。


 潤沢な資金のあった冒険者時代の装備である。身体に大きな変化の起きない黒エルフならではと言えるだろう。


 あとは"ロズダマスク"が描かれた籠手をしっかりと固定すれば防具類は完了となる。


 余談だが、胸部には胸当てが仕込まれている。強く押さえ付けているのでちょっと苦しい。だが、矢を放つ時に大きい胸は邪魔にしかならないのだ。


「矢筒と、あとは」


 お尻辺りに矢筒を傾けて装備し、幾本か矢も入れる。知らない者が見れば足りないのではと心配になる数だ。肩から腰にかけては肩掛けの装備品収納ベルト。両胸の間を通り下へと繋がった。そこにはナイフや小物類が収納される。


 手櫛で纏めた後髪を髪留めでくくり、忘れずローブを羽織ったセナは、最後にアダルベララの紅弓を背負う。勿論周りに見えないよう革袋に包んだまま。余程のことでもない限り使う気はないようだ。


 準備を終えるとお店の正面から外に出た。しっかりと鍵を閉め、占術師の看板も裏返し。まあ客なんて殆ど来やしないが。


 街の外まで暫く歩かないといけない。


 ただ、幾ら目的地であるシグソーの森が比較的に近いと言っても徒歩は厳しい。つまりあちら方面に向かう乗り合い馬車に便乗して向かうことになる。護衛も付き、遠くなら簡単な食事と水も提供されたりする公共の交通機関だ。


 その護衛だが、いわゆるベテランと新人のセットが多い。これは新人教育を兼ねているからだろう。国が運営することで、料金もかなり安価に設定されている。


 変な輩が国に入り込まないよう監視の意味もあり、決められた行程を踏むことで周辺監視の役割もしているのだ。つまり、周囲の治安維持にも一役買っているのが乗り合い馬車である。


「あそこかな。場所が変わってなくて良かった」


 しっかりと料金を払うと面相の確認があった。これはさすがに断れず、セナは少しだけローブをずらす。


「……占術師殿、これは失礼した。では、どうぞ」


「ありがとう」


 酷く珍しい他種族であり、ローブを深く被る理由も理解してくれた。何より占術師の資格証を見せたのも大きい。


 今回は乗り込む人も少ないようだ。ホッとしたセナは一番奥の席に腰を下ろし、あとは出発を待つだけとなる。








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― 新着の感想 ―
弓を使う機会がついに来るのかどうか気になりますね! ついに正体がバレる日が来てしまうのか…それはそれでアリですねb
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