#339 Aims世界大会観戦旅行二日目その六 『分析』
『何という精度! 何という読み! 開幕直後に放ったSnow_men選手の射撃が、紫電戦士隊のアッドマン選手の頭部を撃ち抜いたァ~~~!!!』
実況の声がアリーナに響き渡ると同時、割れんばかりの歓声が沸き上がる。
アリーナの観客達がスタンディングオベーションで盛り上がる中、俺と厨二は顔を引き攣らせていた。
「……分かっちゃいたけど、読み合いえぐいな……Snow_men選手……」
「だね。……ほぼノーリスクハイリターンと言えど、まさか警戒している相手にこうも通すか……」
厨二の隣に座っていた雷人が、俺達の様子を見て不思議そうな顔をしながらこちらに問いかける。
「なあ、渚。やってる事自体はお前が日本大会の時やってた事と同じだよな? なんでお前がそんな反応してるんだ?」
「んー……跳弾リスキルってさ、言わば究極の読み合いなんだよ。確かに跳弾を駆使すれば相手のスポーン地点に弾丸を届かせる事自体は可能だ。だけど、当たるかどうかは相手の動きが絡んでくる。例を挙げると、俺が以前日本大会でやったのは2秒後に到達するラインを予測しての射撃だった」
「……つまり?」
「今Snow_men選手がやったのは、0秒位置への射撃──相手が跳弾を警戒して動かないと断定した上でそこを狙い撃ちしたんだ」
今しがたの射撃は、完全にスポーン位置だけを狙い澄ました一撃。ともすれば、全くの無意味な射撃だった可能性もある。
だが、その読み合いを制したからこそ、アッドマン選手のキルに繋がった。
「紫電戦士隊側の情報としては、新マップだからリスキルがあるか分からない状態。だから、リスキルを警戒せずに突っ込んだ可能性だって十分に考えられるんだ。だけど、紫電戦士隊は基本堅実な立ち回り──あるか分からずとも警戒してくるだろう、って予測したんだろうな」
「……なるほどな。チーム自体の性質を理解していた上でのリスキルだったってワケか」
「そう。しかも、今の弾道を見た感じ、走り出していた場合でも身体の一部を持っていったかもしれない。つまり、紫電戦士隊の面々が取るべきだった行動は、緩やかに動き出す事だった」
彼らが取れた選択肢は三つあり、全力で動き出す事、ゆっくり動き出す事、その場に立ち止まりやり過ごす事──その三つの選択肢の内、二つがアウトというかなり厳しい選択を強いられた。
Aimsでは、アイテムを使わない限り、プレイヤーが動けるスピードには上限が設定されている。今の弾道を見た限り、その上限でダッシュしていた場合でも、一人は致命傷を食らっていた可能性が高かった。
俺の言葉を隣で聞いていた紺野さんが、複雑そうな表情で呟く。
「でも、それを予測するなんて無理じゃないですか……? 初動を遅らせるにしても、ゆっくり動き出すなんて中途半端な動き方は……」
「まあ完全な初見殺しだよな。中途半端だからこそ、実質全力で動くか立ち止まるかの二択の選択肢しか彼らには存在せず、その二択のどちらもアウトなんだから」
俺でも今の一連の読み合いを制する事が出来たかどうかは怪しい。こうして客観的に見ているからこそどうしてその選択に至ったかの思考の言語化こそ出来るものの、実際に俺があの場に居てあのリスキルを通せたかは分からない。
だが──言語化出来るからこそ、学べる事もある。
「しかも、この読み合いの肝は、俺の跳弾リスキルの一件があったからこそって所だ。──紫電戦士隊には、初動を全力で動き出した結果、キルを取られた経験があるからな」
「……あ……」
動く事が危険という前提知識がある以上、立ち止まる事こそが最善──そう思い込んでしまったからこそ、このリスキルが通った。しかも、0秒位置への跳弾射撃なんて少しでも動いていれば回避出来てしまう荒業を、だ。
思わず顔をしかめながら、試合の様子を映し出す画面を眺める。
「これはただ1人欠けた以上の精神的ダメージが入っただろうよ。しかもキルされたのがよりにもよってアッドマン選手だ……この一戦はもう立て直しは利かないかもな」
以前、彼とスクリムで対戦した時に、リスキルでやられた事に大分苦しんでいた様子だった。汚名を返上しなきゃいけない大事な試合、その開幕でやられてしまったとなれば、精神的ダメージは相当な物だ。
彼らの心境を思い、少し汗ばんだ手を、ぎゅっと握る。
「串焼き先輩、シオン……お前達の腕の見せ所だぞ」
◇
「クソッ、やられた!」
アッドマンの身体がポリゴンへと変換されていくのを見て、串焼き団子は声を荒げる。
リスキルを警戒していたのに、それを通されてしまった。しかも、警戒していなければ決して通る事はない、スポーン位置に向けてのリスキルを、だ。
完全に読み合いで上をいかれた。大事な開幕の第一ラウンドでの失態に、串焼き団子達は焦燥感に駆られる。
……ただ一人を除いて。
「……落ち着いて。……相手は世界一。……日本一に叩きのめされてた私達が、一度読み合いで負けたからっていちいち取り乱してたら勝てるらうんども勝てない。……違う?」
エリアに向かって走りながら、シオンはチームメンバーに諭すように言う。
冷静さを欠きそうになっていた串焼き団子は、シオンの言葉にハッとして、バツが悪そうな顔で謝罪する。
「悪い。……リーダーの俺が取り乱すべきじゃなかったな」
「……良いよ。……にぃのミスは私がカバーする。……だから、私のミスはにぃがカバーして」
「ああ、任せろ! 皆、このラウンドは落としたとしても、情報だけでも取りに行くぞ!」
『了解!!』
紫電戦士隊の面々は、シオンの一声で冷静さを取り戻す事に成功した。
たかが一ラウンド、されど一ラウンド。勝てないと分かっていても、情報を取る事で後のラウンドの勝利に繋げられる可能性があるのなら。
そう意気込み、再び彼らの目に闘志が宿った。




