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未来から吹いた風 ~5人でひっくりかえす太平洋戦争~  作者: 青雲あゆむ
第4章 太平洋戦争編

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後日談: 大和よ永遠に

新作の宣伝を兼ねて、後日談を投稿します。

完結後の世界情勢と、書きそこねた大和ネタについて書いてみました。

昭和22年(1947年)4月 横浜


――ドーン、ドーン、ドーン


 横浜の地に、戦艦大和、武蔵の主砲音が響き渡る。

 それは現役を退く金剛こんごう比叡ひえい霧島きりしま榛名はるなの4艦に対する、祝砲だ。

 そして俺たち5人は、金剛シリーズの退役を祝うパーティに招かれていた。


「おお~、やっぱすげえな、戦艦の主砲ってのは」

「ああ、なんか腹に響くような重厚さがあるな」

「まあ、実際にごっつい火薬を爆発させとるんやからな」

「だよな~。惜しむらくは、あれが46センチ砲じゃないってことだ」

「アハハ、まだそんなこと言ってるの? さんざん話し合って、16インチ(40.6センチ)砲に決めたんじゃない」

「それとこれとは、別なんだよ。やっぱり大和には、世界最強であって欲しいじゃないか」


 中島のツッコミに対して、熱弁を振るっているのは後島だ。

 艦艇オタクの後島は、最後まで大和の主砲の18インチ化にこだわっていた。

 しかし航空機の著しい発展を知る俺たちは、断固として高速で対空戦能力に優れる仕様に決定したのだ。


 その結果うまれた大和の仕様は、こんな感じだ。


【大和】※カッコ内は史実仕様

全長・全幅:245 x 34.6m(263x38.9m)

基準排水量:4万5千トン(6万4千トン)

出力   :18万馬力(15.4万馬力)

最大速力 :30ノット(27ノット)

機関   :川崎重工製 重油専焼缶x8基

      三菱重工製 ギヤードタービンx4基、4軸

主要兵装 :50口径16インチ3連装砲x3基(46センチ砲)

      38口径5インチ連装高角砲x12基

      25ミリ連装機銃x40基


 おかげで大和や武蔵は、空母機動部隊に同行し、対空戦闘の要となって、敵の航空攻撃をふせぐことができた。

 その結果、日本はほぼ一方的に敵の艦隊を叩くことができ、さらには潜水艦による通商破壊や西海岸攻撃で、アメリカを停戦交渉の席につかせることに成功したのだ。


 その後、日本はグアム島とウェーク島を割譲され、フィリピンは独立。

 さらに中華民国や新生清国のアメリカ利権も、いくらか放棄させていた。

 イギリスもカリブ海や中南米の利権をむしり取って、日米英は終戦協定を結ぶことができたのだ。


 これに対し、独伊が勝手な離脱に文句をつけてきたが、元々、日英は中立だったのだと言って、つっぱねた。

 その後は米仏が全力で反撃をしたため、フランスはその領土の大半を奪回。

 しかしアメリカ国内で厭戦気分が高まったため、反撃はそこまでで停止してしまう。


 結局、米独仏の交渉で、第1次大戦前の国境線を暫定的に認めることで、停戦が成立した。

 あくまで停戦だが、その後、独仏間で戦闘は起こっていない。

 なにしろフランス本土は、ごっそりとドイツに略奪・破壊された状態で、戦争を続ける余裕などありはしないのだ。

 さらに米国もフランス本土をほぼ回復したことで、自由主義陣営の義務は果たした気分になっている。


 一方、対戦国であるドイツは、その後もウクライナ周辺でソ連と殴り合っていた。

 この世界のソ連では、正統ロシアという敵が存在したため、大規模な粛清が起こっていない。

 おかげで赤軍の戦闘力には高いものがあり、キエフを起点に抵抗を続けていた。


 ちなみにドイツからは、日韓清露4国に対し、東西からのソ連挟撃を持ちかけられた。

 しかし極東同盟の目的は、あくまで防衛にある。

 正統ロシアの一部はやりたがったのだが、ソ連の抵抗も頑強だ。


 結局、イルクーツクを突破する目処が立たないということで、ソ連と極東同盟の間にも停戦が成立した。

 最もこれに喜んだのは、スターリンだったろう。

 ただちに東から兵を引き抜き、劣勢の西部戦線に叩きこんだのだ。


 これによってソ連は、リトアニアやベラルーシの大半を取り戻すことに成功したものの、戦線は膠着した。

 その戦いはまだまだ続くんじゃないかと思われていたが、思わぬところで終息に向かう。

 スターリンが1946年に、死亡したのだ。

 脳内出血らしい。


 これによって疲弊しきっていたソ連が、ようやく外交的妥協に舵を切った。

 秘密裏に独ソ間で交渉が持たれ、現状の実効支配領域を暫定的に国境と認めることで、休戦が成立した。

 ソ連はウクライナの西半分を失った形になるが、それでも妥協したのである。

 しかし今後、正式な終戦に至るかどうかは、微妙なところである。


 その他にイタリアは、北アフリカやバルカン半島の一部を占領した状態で、停滞している。

 これはムッソリーニが暗殺されて、国内にまとまりが欠けるせいだ。

 いずれ内乱に発展する可能性も、指摘されているほどだ。


 それからドイツの占領地には、それぞれ傀儡政権が立てられ、欧州に一大勢力圏が構築されつつある。

 ただし当然のことながら、各地には反乱勢力が乱立し、どこも安定にはほど遠いらしい。

 一見するとこの大戦は、ドイツの大勝ちに見えるが、その内部には多くの火種を抱えているのが実情だ。


 そして核爆弾だが、今までに日米英が実用化を公表している。

 アメリカの公表に合わせて、日英も公にした形だ。

 そうでもしないと、アメリカがまた言いがかりをつけてくるかもしれないからな。


 おそらく今は、独ソも必死で核爆弾を開発していることだろう。

 いずれ主要国が核武装をして、冷戦みたいな状況になる可能性は高い。


 とはいえ事実上、第2次世界大戦が終了したために、日本でも軍縮の機運が高まった。

 それゆえの金剛級戦艦の退役であり、陸海軍の整理も進んでいる。

 願わくば、この平和が長続きしてほしいものである。


「大和もいつまで、現役でいられるかな?」

「だよな~。この世界でも、戦艦は確実に陳腐化してるからな」

「おいおい、何いってんだよ。史実ではアイオワ級が、90年代まで使われてたんだぜ」


 川島と俺の指摘に、後島が強い調子で反論してきたので、呆れた視線を返す。


「そっちこそ何いってんだよ。あれはアメリカみたいな超大国だからできたことで、しかもちょくちょく予備役入りしてるじゃないか」

「そうそう。イギリスも50年代には、ヴァンガード級を退役させてたからな」

「ぐっ……それはそうかもしれないけど」


 実際にアイオワ級は朝鮮戦争後、モスボール状態で保存され、ベトナム戦争や湾岸戦争で復帰している。

 その間、何度か改修されてミサイル攻撃能力なども備えているが、その維持運用費に見合わなくなって退役した。

 イギリスはずっと見切りが早く、1960年にはヴァンガードを廃艦にしていた。


「この世界でも、陸地の砲撃ぐらいしか、使い道なくなるからな。それにしたって、運用コストが高くつきすぎや」

「だよな。そういえば、史実の大和は当初、蒸気タービンとディーゼルのハイブリッド機関になる予定だったらしいな」

「ああ、そうだよ。燃費性能を向上させるために、低速や巡航はディーゼルで動かそうとしたんだ」

「それがなんで、蒸気タービンだけになったの?」


 中島の質問に、後島が苦い顔で答える。


「当時のディーゼルエンジンの信頼性が低かったから、平賀さんが採用を止めたんだ。戦艦は簡単に機関の修理や交換とか、できないからな」

「たしかに、史実の日本の技術力じゃあ、どこまでまともに動いたか、分からないな。案外、英断だったんじゃないか?」

「まあ、そうなんだけど、関係者は大変さ。蒸気タービンも圧力を低めに設定してたから、燃費が悪くてなぁ。結局、目標の航続距離分の燃料を確保するため、排水量が3千トンも増えた」

「うわぁ、なんか関係者の混乱が、目に浮かぶわ。そんな思いまでして造ったわりに、ほとんど活躍しなかったのが、惜しまれるよな」


 俺が残念そうに言うと、後島がおもしろくなさげに反論する。


「悪いのは海軍の上層部さ。本来はちゃんと保有を宣言して、示威効果と技術力の誇示を狙えばよかったのに、秘匿しちゃったんだからな」

「だよな~。一大決戦で大和と武蔵をこっそり出撃させて、敵を撃破するつもりだったらしいぞ」

「馬鹿だよね。そんなの仮に効果があっても、1回しか使えないじゃない。総力戦の意味を、全く分かってなかったんだろうね」

「まあ、それも後になってから、言えることだけどな」


 なんとなく気まずい雰囲気が流れる中、中島が思いついたように言う。


「で、でもさ。史実の大和って46センチ砲艦にしては、コンパクトで安く造られたんでしょ?」

「お、おう、そうなんだって。いろいろと関係者が苦心して、安くコンパクトに仕上げたんだ。排水量が半分程度しかないノースカロライナ級戦艦と、変わらないんだぜ。アイオワ級に至っては、3~4倍も高価なほどだ」

「うわ、アイオワ級ってすっごい高価なんだね。どうりで長く使えたはずだ」


 実際、大和の建造費1億3780万円に対し、ノースカロライナ級は3.7万トンにもかかわらず、1億4千万円と同等だ。

 アイオワ級に至っては5億円以上(1ドル4.5円換算)という、超ゴージャス仕様である。

 日米の物価の差もあると思うが、大和が安く造られたのは事実だろう。


 そんな話をしながら俺たちは、改めて大和や武蔵に目を向ける。


「ま、史実の大和や武蔵は不幸だったけど、日本人の誇りになったのは間違いないな」

「まあな。世界最大最強の戦艦を、俺たちは造ったんだっていう、自信にはなったかもな」

「まあ、大和が最強だったかどうかは、ちょっと疑問が残るけどね」

「おい、なんでそんなこと言うんだよ?!」


 中島の否定に後島が反応すると、中島が豆知識を披露する。


「だって大和はレーダー照準に対応してなかったから、遠距離で夾叉弾きょうさだんを出すのに8分以上かかったって話だよ。それがアイオワ級だと、その半分以下でできたんだって。よほど運が良くない限り、大和が先に被弾して、戦闘能力を失う可能性が高いんじゃない?」

「ぐっ、それはだな……」


 光学照準しかない大和では、試射を3回して、4発めでようやく夾叉弾が出る計算になる。

 これがレーダー照準を実装するアイオワ級では、1回の試射で照準を修正し、2発めで夾叉が可能だ。

 距離3万メートルでの所要時間はそれぞれ、8分15秒と3分45秒になるそうだ。

 この時間差によって、大和が先に被弾し、戦闘能力を喪失する可能性は高かっただろう。


 それに史実でも、大和はサマール島沖で100発以上射って、1発も当たらなかったという実績がある。

 もちろん、何かの拍子で遭遇戦が発生し、1万メートル以下で撃ち合うなら、大和が有利にはなるだろう。

 しかしそんな状況は狙って起こせるものでもない。


 それ以前に敵に発見され、航空攻撃を受ける可能性の方が、圧倒的に高いのだ。

 残念ながら史実の大和は、太平洋戦争時の状況に、適応しそこねたと言うしかない。

 そんな話に落ち込む後島を慰めるように、俺たちが声を掛ける。


「まあまあ、そういう意味では、目の前にある大和と武蔵こそ、世界最強ってことだろ? たぶんモンタナ級とやり合っても、勝てたぜ」

「そうそう。モンタナはレーダー照準を実装してなかったから、たぶん勝てたよ」

「ああ、そうやろうな。それにほれ、大和はかっこええやないか」

「ああ、そうだな。大和のシルエットは、一級品だと俺も思う」


 この世界の大和は16インチ艦ながら、そのシルエットは史実のものに酷似していた。

 これも歴史の修正効果というものだろうか。

 そんな俺たちの慰めで、後島も気を持ち直す。


「そ、そうだよな。大和や武蔵って、かっこいいよな……そうだ! このうえは主砲を18インチに改造して、本当の世界最強を目指さないか?」

「馬鹿いってんじゃねえよ」

「誰が喜ぶんや、そんなもん」

「税金の無駄、だよね」

「まるでやる意味を感じないな」


 こうして後島の野望は、粉々に砕かれたのだった。

三国志モノで新作を始めましたので、よければ覗いてみてください。


【それゆけ、孫紹クン! ~孫策オヤジの夢はオレが継ぐ~】

https://book1.adouzi.eu.org/n6181hf/

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それゆけ、孫策クン!の改訂版を投稿中です。

それゆけ、孫策クン! 改

がっつり校正して、ストーリーも一部変更予定です。

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