62.ルーズベルトを追いこもう
昭和16年(1941年)5月 東京砲兵工廠
「「「かんぱ~い」」」
また砲兵工廠に集まっていた俺たちは、立て続けの明るいニュースに、祝杯を挙げていた。
「いや~、念願の西海岸攻撃がうまくいって、よかったな~」
「ああ、西海岸の主要都市は、大騒ぎらしいぞ」
「これも飛行爆弾 ”桜花”のおかげだよな。苦労した甲斐があるってもんだ」
「まったくだ。潜水艦隊の方も、よくやってくれてるしな」
ハワイをボコボコに破壊した日本はその後、ハワイや西海岸を孤立化させるよう、動いていた。
最新の伊100型潜水艦を含む、50隻以上の潜水艦部隊を派遣し、大規模な通商破壊戦を展開したのだ。
さらに音響魚雷を駆使した戦法は、アメリカ輸送船団を翻弄し、多大な損害を与えていた。
おかげでハワイの軍事施設復旧は進まず、その脅威度も格段に下がっている。
たまに爆撃機がミッドウェーに飛んでくるものの、その被害は大したことがなく、潜水艦の前線基地として、立派に機能していた。
さらにアメリカに打撃を与えたのは、伊400型潜水艦による、西海岸爆撃である。
現代の巡航ミサイルに近い”桜花”を運用する伊400潜らが、20隻も西海岸に展開していた。
そして主要都市の沖合から、”桜花”を射出するのだ。
この”桜花”の開発には、俺たちもそれなりに貢献している。
音響魚雷ほど高度な制御は必要ないものの、信頼性の高いジェットエンジンに仕上げるには、俺と後藤が汗をかいたものだ。
そんな”桜花”だが、それは射出したら狙いも何もなく、ただ突っ走るだけの爆弾である。
しかし800kgもの爆薬が、毎時650キロもの高速で飛来するのだ。
それはどうやっても防げるものではなく、現実に西海岸に大きな被害をもたらしていた。
もっとも、”桜花”の落下地点のほとんどは、無人の山林や農地である。
そのため人的被害はさほどでもないのだが、どこに落ちるかという恐怖感をあおり、さらに山火事による2次災害も発生していた。
そしてまれにだが、人口密集地帯や住宅地にも落下するので、その威嚇効果は、実態をはるかに上回っている。
ちなみに3発だけ撃って、ミッドウェーに戻るのは、あまりに効率が悪いので、敵の哨戒範囲外に、母艦を派遣して補給している。
太平洋の制海権をほぼ完全に握っているがゆえの、荒業である。
そしてこの攻撃は、アメリカに大きな打撃を与えていた。
元々、ハワイの無力化と、西海岸航路の封鎖だけでも、相当な衝撃が走っていたのだ。
そこに正体不明の爆撃が加わり、西海岸のほぼ全域が、パニックに陥っていた。
多くの住民が沿岸地帯から逃げ出そうとしたり、政治家を使って国に対応を迫ったりしている。
その混乱たるや、想像以上のものだったらしいが、日本はそこへさらなる口撃を仕掛けた。
「ルーズベルトの支持率が、激減してるらしいぞ」
「お~、やったな。ざまあみろってんだ」
「だよね~。基本的に嘘は言ってなくて、自業自得だしね~」
この機に乗じて、アメリカがどうやって日本やイギリスを、戦争に巻きこんだのか、暴露してやったのだ。
その情報は今までも、大使館経由で流してはいたのだが、あまり効果はなかった。
ルーズベルト率いるOWI(戦争情報局)が、やっきになって情報を統制していたからだ。
しかしアメリカ国民自身の身が危うくなれば、さすがにそれも効かなくなる。
西海岸の住民が、なぜ恐怖に震えねばならないのか?
その犯人を探しはじめると、それまでは気にならなかった情報も、急に気になるものだ。
結果、ルーズベルトが日英を戦争に引きずり込んだという悪評(事実)が、急速に浸透していった。
おかげでルーズベルトのみならず、民主党への不信感も、急速に高まっているという。
はたして民主党は、どう動くのか?
ちなみに大陸側でも、日清露韓同盟軍はソ連の攻勢を見事にしのいでおり、今は小康状態である。
この隙に少しでも早く、アメリカを脱落させたいものである。
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昭和16年(1941年)7月 東京砲兵工廠
「イギリスが東海岸の爆撃に、成功したってか?」
「ああ、日本から輸出した伊400型と、桜花を使ってな」
「ようやくか。けっこう時間かかったよな」
「まあ、それは仕方ないだろ。潜水艦を大西洋に回航するのも、楽じゃないからな」
日本が西海岸の爆撃を続けている中、イギリスがアメリカ東海岸の爆撃に成功した。
これは西海岸の爆撃のみでは、インパクトが弱いと見た日本が、イギリスに伊400型潜水艦と”桜花”を、売却した結果である。
別に日本海軍として攻撃をしてもよかったのだが、やはりイギリスにもメンツがある。
あちらも国民の手前、戦果を必要としていたので、日本からの兵器買い取りとなったわけだ。
そしてイギリス海軍がそれを使い、ようやく東海岸の爆撃に成功したのだ。
ここまで来るには、けっこうな手間が掛かっている。
なにしろインド洋からスエズ運河を使って、はるばるイギリスに潜水艦を届けたのだ。
運河を使えるだけよほどマシだが、それでも遠いことには違いない。
しかしその甲斐あって、アメリカ国民に与えた衝撃は大きかった。
「それでアメリカの様子はどうなんだ?」
「そりゃあもう、大パニックさ。今までは西海岸だけだと安心してた連中も、そうではないことに気付かされたんだからな」
「だよね~。これで一気に、停戦に動いてくれるといいんだけど」
「う~ん、まだまだそれは難しいだろうな。ルーズベルトは、必死で国民をあおってくるだろうし」
「だけど欧州戦線だって、英独伊の方が優勢なんでしょ?」
「ああ、日本の大勝のせいで、アメリカも思ったように戦力を送れてないからな」
アメリカはすでに、太平洋で13隻もの戦艦と、4隻の空母を失っている。
おかげで大西洋の海軍戦力が太平洋に回されており、アメリカは大西洋の制海権を取れていなかった。
さらに大海軍国のイギリスと、ドイツのUボートが、アメリカのシーレーン遮断に動いているため、フランスや北アフリカへの補給が滞っていた。
アメリカにとって幸いなことに、ドイツがソ連を攻撃しはじめたため、米仏軍はなんとか保たれている。
しかし本来は圧倒的であるはずのアメリカ軍が、その実力を発揮できないでいるのだ。
それもこれも、日本という予想外の強敵によるものであり、ルーズベルトはさぞ苦々しく思っているだろう。
「まあ、大西洋に送った伊400潜も、たったの5隻だ。アメリカ国民の戦争継続意欲をくじくには、まだまだ時間が掛かるんじゃないかな」
「う~ん、そうすると、アメリカの戦力がまた整ってきちゃうよね。なんとか早く、終わらせられないかなぁ」
「戦争なんて、そんなに都合よくいくもんじゃないさ。今後も油断せず、やってくしかない」
「まあ、それしかないわな~」
光明が見えてきたかと思えば、まだまだ終戦には遠そうだ。
それでも史実よりは、はるかにマシなのだから、今後も腐らずにやっていくしかない。
しかし状況は俺たちの予想を超えて、意外な展開を見せることとなる。




