幕間: 日本潜水艦隊、奮戦す
昭和16年(1941年)3月 ハワイ東方沖
【伊号第100潜水艦】
「艦長、聴音機に感あり。大船団です」
「ほう、進行方向と艦種は分かるか?」
「ヘい、それはもう。西海岸からハワイに向けて航行中で、アメさんの駆逐艦も含まれてるようでやす」
「フフフ、ということは、遠慮なく攻撃できるな」
「へい」
ハワイ近海でパトロールに従事していた伊100潜水艦は、アメリカ軍の補給船団と思われる船団を察知していた。
当然のことながら伊100潜は、船団の攻撃を試みる。
「98式魚雷を、1番から4番まで装填」
「了解、1番から4番まで装填します」
やがて装填が完了すると、艦長から攻撃指示が下る。
「右に回頭しつつ、1番から順に3秒ごとに発射。回頭開始」
「了解、回頭開始」
伊100潜は敵船団の先頭付近から、時計回りに向きを変えつつ、魚雷を4本発射した。
それは潜望鏡すら上げない、完全な見越し射撃であるが、音響追尾機能を持つ98式魚雷にとっては、さほど無謀ではなかった。
98式魚雷は昭和13年に制式化されたもので、99式航空魚雷よりも大型だ。
その分、設計には余裕があり、航続距離や炸薬量は大きい。
そんな日本軍の放った強力な矢が、アメリカ船団に向かっていく。
98式魚雷は、進行方向で最も反応の強いスクリュー音を捕らえ、その敵に迫っていた。
その間、伊100潜ものんびりはしていられない。
「針路40、両舷前進、強速」
「了解、針路40。両舷前進、強速」
そのまま留まっていては、敵駆逐艦の攻撃を受けかねないので、敵の後方に位置を変えるのだ。
この当時の潜水艦としては、圧倒的な水中速度を持つ伊100潜は、やすやすと敵後方に抜け出した。
当然、再攻撃は不可能だが、それは僚艦に任せればいい。
伊100潜はまず生き残ることを優先し、それを実現させた。
そしてその間に敵船団方面において、爆発音がいくつも発生する。
「どうやら4本とも当たったようです。敵さんの駆逐艦が、しゃかりきに動き回って、爆雷を叩きこんでますよ」
「ああ、そのようだな。駆逐艦の動きには、引き続き注意していてくれ。それが治まったら、浮上して連絡を行う」
「了解です」
その後、伊100潜は無事に敵の攻撃をくぐり抜け、浮上して通信を行った。
それを受けた日本海軍の潜水艦が、船団の予想位置に集結し、また攻撃を繰り返した。
これによって米補給船団は、多大な被害をこうむったという。
潜望鏡すら見せない日本潜水艦の神出鬼没さに、アメリカ国民が恐怖したことは、言うまでもない。
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昭和16年(1941年)4月 ロサンゼルス沖 200キロ地点
【伊号第400潜水艦】
「そろそろいいだろう。潜望鏡深度へ浮上。到達しだい、電探と潜望鏡を展開」
「了解。潜望鏡深度へ浮上~!」
艦長の指示に従い、伊400潜が浮上を開始する。
そして潜望鏡深度に到達すると、電探のアンテナと、潜望鏡が海上に伸ばされる。
「電探に感なし!」
「よし、周囲に艦影もないな。海面に浮上。”桜花”の射出準備に取り掛かれ」
「海面に浮上します。砲術班は準備~!」
伊400潜が海面に浮上すると共に、艦内が慌ただしく動きはじめた。
艦長と見張り員は航海艦橋へ上がり、周囲の警戒に入る。
ちなみに時刻は真夜中で、周囲は満天の星空だった。
さらに砲術長の指揮で水密格納筒が開かれ、新兵器の射出準備が始まる。
その新兵器とは、零式飛行爆弾 ”桜花”である。
【零式飛行爆弾 ”桜花”】
長さx幅x高さ:7x5x1m
全備重量 :2140kg
弾頭重量 :800kg
機関 :空技廠製 ジェットエンジン
最大速度 :毎時650キロ
航続距離 :250km
それは史実の特攻兵器”桜花”によく似ているが、あくまで無人の飛行爆弾である。
終戦間際に実用化された桜花43型同様、ジェットエンジンを搭載し、250kmほどの航続距離を持つ。
現代風に言えば、潜水艦搭載の巡航ミサイルであるが、当然、それほど高度な制御システムは持たない。
短いながらも翼を持つが、折りたたみが可能なため、狭い水密格納筒でも、3機が搭載可能だ。
そしてこの桜花を運用するのが、伊400型潜水艦である。
【伊400型潜水艦】
全長・全幅:109x9m
基準排水量:水上2180トン、水中3560トン
出力 :水上7千馬力、水中6千馬力
最大速力 :水上15ノット、水中16ノット
機関 :三菱重工製ディーゼル2基、2軸
主要兵装 :53センチ魚雷発射管 艦首4門、魚雷数12本
水密格納筒に桜花3機を搭載
史実の400型(水中6560トン)よりもだいぶ小さいが、”桜花”を運用するには十分だ。
生産性が高いためすでに20隻以上が造られており、またその取り回しの良さも好評である。
格納筒の水密扉が開くと、作業員が桜花の射出準備に取り掛かる。
「1号機の引き出し、急げ!」
「「「おう!」」」
人力で甲板に引き出された桜花が、射出カタパルトに載せられる。
このカタパルトは空母にも採用されているもので、油圧で2トン以上の射出が可能だった。
作業員が折りたたまれていた翼を広げ、固定すると、次の作業へ移行する。
「翼展開、よし。エンジン始動に掛かれ!」
「はっ、エンジン始動します」
するとジェットエンジンに火が点され、甲高いジェット音が響き始める。
やがて十分に推力が高まったところで、射出指示が出た。
「桜花、射出せよ!」
「射出!」
ものすごい勢いでカタパルトが作動すると、桜花が飛び上がると同時に、それを支えていた台座が分離し、海中に落ちる。
そして桜花がグングンと高度を上げると、また砲術長が指示を出した。
「そろそろいいだろう。水平飛行に移行」
「はっ、水平飛行に移行します」
作業員が操作盤をいじると、桜花が上昇をやめ、水平飛行に入る。
それは無線による操作で、以降はジャイロセンサで高度を維持し、まっすぐ飛ぶだけだ。
桜花は500メートルほどの高度を維持しながら、ロサンゼルスへ向かって飛んでいった。
「よし、みんなご苦労だった。敵さんが来る前に、逃げるぞ」
「はっ、潜行準備~!」
その後、遅ればせながらアメリカ軍の哨戒機が到着しても、そこには何も残っていなかった。




