幕間: とある艦攻乗りの述懐
俺の名前は、鈴木健一。
海軍で艦攻乗りをやっている。
操縦員じゃなくて、偵察員だけどな。
敵が近寄ってこないか、目を皿のようにして見張る役目だ。
3年前に入隊して、日々訓練に励んでいたら、とうとう戦争が起こっちまった。
なんかアメリカが、ケンカを売ってきたんだってさ。
列強でも随一の大国が、なんで日本をいじめるんだ?
でも我が大日本帝国だって、世界の列強の一角なんだ。
しかもイギリスやドイツと一緒に戦うんだから、そうそう負けはしないだろう。
最初はグアムのアメリカ軍基地と、そこに駐留してる艦隊が相手だった。
我が第1機動艦隊に比べれば、なんてことない相手だったんで、戦闘はわりとあっさり終わったな。
それで艦隊の編成と休養をしながら、しばらくはのんびりできたんだ。
しかしとうとう西太平洋にも、アメリカの大艦隊が押し寄せてきた。
奴らはまずマーシャル諸島を占領して、このグアムに攻めてくるらしい。
へっ、来るんなら来やがれってんだ。
我が軍自慢の99式魚雷を、どてっ腹にぶち込んでやるぜ。
そんな勇ましいことを言ってるうちに、本当にアメリカ艦隊が攻めてきやがった。
そこで俺たちは空母翔鶴に乗って、迎撃に向かったんだ。
そしたらあれよあれよという間に、出撃命令が下る。
「我々はこれから、敵艦隊の攻撃に発進する。敵は金持ちアメリカ軍だが、なに、そう心配することはない。普段の訓練どおりにやれば、必ず敵に打ち勝てるはずだ。それから万一、撃墜されても、簡単に諦めるんじゃないぞ。お前らの訓練には、莫大な金が掛かっとるんだ。なるべく助けに行くから、生き残る努力をしろ。それでは解散」
「「「はっ!」」」
うわ~、とうとう発進だよ。
緊張するな~。
だけどうっかりしてドジを踏まないよう、がんばんなきゃ。
そうこうするうちに、指揮官機に導かれた俺たちは、とうとう敵艦隊に遭遇する。
どうやら敵の直掩機は、戦闘機隊が先に片付けてくれたらしい。
よ~し、次は俺たちの出番だな。
やがて指揮官機から攻撃目標の指示があり、機長が本機を攻撃コースに乗せた。
するとどんどん、目標の戦艦が視界に入ってくる。
まだまだ遠いから、今は辛抱だな。
うおっ、敵の砲弾が向かってきやがった。
だけどちょっとやそっとの攻撃で、この97艦攻はやられはしないぜ。
なんてったって防弾ガラスや、防弾鋼板が仕込まれてるからな。
俺も万が一に備え、見張りを怠らない。
多分そろそろ、投弾距離だろうな。
やがて下部に搭載されていた99式航空魚雷が投下され、機体が浮き上がる感覚を味わう。
それと同時に機長(操縦員)が左に向きを変え、敵艦から距離を取ろうとする。
当たるなよ~、当たるなよ~、敵の弾。
よしっ、どうやら敵の攻撃圏は抜けたようだな。
良かった~。
するとやはり安心した機長から、声が掛かる。
「ふうっ、なんとか無事に切り抜けられたようだな。みんなもご苦労だった」
「いえ、機長こそお疲れさまです。やっぱり敵に突っこむのって、怖いっすね」
「はっ、こんなの昔に比べたら、屁でもねえよ。以前の魚雷は、もっと近くまで突っこまないと、絶対に当たらなかったからな」
「あ~、そうらしいっすね。ほんと、99式航空魚雷さまさまっす」
そうなんだ。
ひと昔前は、魚雷は目標の未来位置に向けて撃たなきゃ、絶対に当たらなかったんだ。
しかも目標から、2千メートル以内には近づかないとならなかった。
それが99式航空魚雷は、敵のスクリュー音を追ってくれるから、ある程度方向が合っていればいい。
射程距離も3千メートル以内に緩和されてるから、被弾する可能性が激減してるんだぜ。
なんてすばらしい兵器なんだろう。
その開発者になら、俺の妹をくれてやってもいいと思うくらいだ。
まあ実際には、妹なんかいないけどな。
そうこうするうちに、目標の戦艦から、水柱が上がった。
1、2、3本、全弾命中だ。
「敵戦艦に水柱3! 当機の攻撃も、当たった模様です」
「お~、やったな。ほんと、99式航空魚雷さまさまだ」
「そうっすね~」
「だけど油断するんじゃねえぞ。敵は世界一の金持ち国家だからな」
「「はいっ」」
おいおい、これでも油断できねえのかよ。
見た感じ、我が軍が一方的に勝ってると思うんだけどなぁ。
あ、でも帰ってみたら、翔鶴が沈められてるって可能性もあるのか?
ほんとに、なんでアメリカなんて国と、戦争になっちゃったかなぁ。
だけど向こうからケンカを売ってきたんだから、反撃はしないとな。
早く戦争、終わらないもんかね~。
ちなみに翔鶴に帰り着いたら、全然無傷だった。
なんか一発も攻撃を受けなかったんだって。
日本の技術力、すげえなぁ。
あくまで現場の雰囲気を描きたかっただけなので、細かいところは気にしないでください。




