34.資源を確保しよう
昭和5年(1930年)3月
昨年、アメリカで発生した大恐慌の波は、たしかに日本へも押し寄せた。
しかしそれを見越していた諮問委員会と高橋蔵相の手腕で、その影響は最低限に抑えられている。
史実ではこの1月に実施された金解禁もスルーしているので、株価、生糸価格、米価の暴落も避けられた。
そしてそんな日本と連動しているのが、新生清国と正統ロシア大公国だ。
両国はどちらも体制が固まって間もなく、しかもアメリカと日本の後見を受けている。
そして清は中華民国、ロシアはソ連という元同胞から圧力を受けているため、必死に国力増強に励んでいるのだ。
そして日本にとって両国は、ソ連に対する盾にもなるので、積極的に協力している。
近隣にある工業国として、さまざまな物が輸出されているし、国内の開発にも共同で取り組んでいた。
両国から買えるものとしては、やはり地下資源がメインだ。
正統ロシアには石炭やすず、鉛やタングステンが眠っているし、満州は石炭、鉄鉱石が有名だ。
さらに満州については、とうとう油田が発見された。
元々、南満州鉄道株式会社を設立する際に、満州の地下資源開発は、共同で進めることになっていた。
しかし中国は情勢が流動的なので、油田のことは黙っていたのだ。
やがて辛亥革命が起こり、清の満州撤退へとつながる。
そのうえで現地の情勢を見守っていたのだが、ようやく安定しそうだと判断されたのが1925年。
そこからアメリカも巻きこんで、清国に共同で油田探索の申し入れをした。
その結果、満州石油開発という会社が設立され、清51%、日米24.5%ずつの出資比率となった。
そして1年ほどの探鉱で、肇州直隷庁で油田が発見され、肇州油田と呼ばれるようになる。
これは現代の大慶油田に相当するもので、俺たちの誘導で発見が早まった形だ。
その後、アメリカ製の機材が輸入され、採掘が進められた。
おかげで今は50万キロリットル/年もの原油を、産出するようになっている。
その多くが日本向けに輸出されており、今後も順調に伸びそうな状況だ。
そして肇州産の石油は、その比重を示すAPI度は33程度と、中質油に相当する。
ただしワックス分が多く粘度が高いため、重質油と言われるが、質としては中東産原油と大差ないのだ。
ちなみに現代で北朝鮮への経済制裁が実施されるなかで、”中国が北朝鮮への石油供給を止めていない”、として非難されることがある。
しかし実はあれ、止めたくても止められないのだ。
なぜなら大慶油田の石油を送っているため、一旦止めると、パイプ管内がガチガチに固まって詰まり、復旧に相当な労力を要するからだ。
そのためなんだかんだ理屈をつけて、北朝鮮へ石油を送っているんだな。
そんなわけで取り扱いには難があるが、肇州の石油は中質油相当であり、ガソリンが採れる。
なので清国内に製油所を作り、各種製品に加工してから、日本へ輸入する流れができつつある。
史実ではほとんどをアメリカに頼っていたのが、樺太、蘭印、清国と、仕入先を分散できてるわけだ。
アメリカにガソリンを止められて、逆ギレする可能性が減ったのは喜ばしいかぎりである。
ちなみに同じ満州にある遼河油田は、重質油なので手を出していない。
清が勝手に発見するかもしれないが、そうなってから開発に参加すればいいだろう。
満州では鉄鉱石の採掘も進んでいる。
有名なのが鞍山鉄山だ。
鉄鉱石としての質は高くないが、その埋蔵量は膨大で、日本の旺盛な需要を補ってくれている。
そのおかげもあって国内の製鉄量は、年々成長をとげているのだ。
またこの他にも、セレベスのニッケル、バンカ島のスズ、ビンタン島のボーキサイト、海南島の鉄鉱石などの採掘も検討していた。
それぞれ宗主国に探鉱を打診し、見込みがあれば採掘の許可を取る方針だ。
これらが軌道に乗れば、比較的防衛が容易な地域で資源を獲得できるようになるので、ぜひ進めたいものだ。
そして石油の安定供給に目処がつきつつあるのと並行して、新たな技術も誕生していた。
「ハイオクガソリンの製造に成功したで」
「お~、おめでとう~」
「やったな」
「俺の貢献も忘れるなよ」
「よっし、これで飛行機もガンガン飛ばせるな」
佐島がとうとう、ハイオクガソリンの製造法の開発に成功したのだ。
これは史実ではフードリー法と呼ばれる製法で、シリカとアルミナからなる触媒を利用している。
史実で1936年に実用化されたそれは、ガソリンを効率的に産むだけでなく、オクタン価も高いという特徴があった。
日本でもこのライセンスを得ようとしたが、その前にアメリカの経済制裁で頓挫してしまった。
しかしこの世界では、佐島が未来知識を活用し、6年も早く実用化したのだ。
その陰には、高温高圧下で水素を添加できる特殊鋼の容器を開発した、後島の尽力もあるのだが。
この技術の特許は、日本国内で極秘登録され、一般には非公開としている。
海外でも特許を取れば、高額の使用料が期待できるが、それは本家に譲ることとした。
その代わり信頼できる国内企業には安価で提供し、国内でハイオクガソリンの需要を満たせるよう、活用する予定だ。
それが実現すれば、たとえアメリカから経済制裁を受けても、航空機の性能を保つことができる。
”ハイオクガソリンさえあれば、疾風や紫電改がもっと力を発揮できたのに”、なんて状況が回避できるのだ。
これでまた一歩、日本の強靭化が進んだと言ってよいだろう。
戦争なんてないに越したことはないが、いざという時の備えは、必要だよな。




