共同戦線
◆暗黒騎士クロキ
コウキとテス含むエルフ達を伴い、自分とドワーフ達はクタルまで戻る。
そして、戻ると鹿車から出てきたテスが自分の腕に抱き着く。
このままくっついたままクタルに入るみたいだ。
「ねえテス。ちょっと離れて……。歩きにくいよ」
「ええ~。良いじゃないクロキ。折角再会出来たのだから」
自分はテスに抗議するが、テスは聞く気がないようだ。
そのため、テスにくっつかれたままクタルまで戻る事になる。
一緒にいるドワーフの野伏達の視線が痛い。
他のエルフ達は特に気にしていないようだ。
オレイアドらしきエルフはクタルの里の中に入ると鹿を門の脇に繋いでいる。
ナパイアらしきエルフは興味深そうにクタルの中を見て、エルフの姫はコウキを伴い先頭を歩いている。
そこで、コウキの視線に気付く。
コウキはじっと自分の様子を見ている。
「そういえばコウキ君はエルフじゃないけど、エルフの里に暮らしているのかい?」
コウキに聞く。
実は自分はそこまでエルフの事に詳しいわけではない。
知っている事といえばエルフは女性だけの部族という事だ。
まあ、エルフの国に人間が住んでいたら悪いわけではない。
妖精騎士は元々人間のはずだ。
「あの……違います先生」
コウキは首を振る。
そこで疑問に思う。
では何故エルフ達と一緒にいるのだろう?
「お客人。どうやら、その子は最近攫われて来たという事じゃよ。そうじゃろエルフ共よ」
答えたのはドワーフの野伏だ。
そこで察する。そう言えばエルフは将来有望そうな子どもを攫う事があると聞いた事がある。
「本当なのテス?」
「そうだけど、それがどうかしたの? クロキ?」
「いや……、それは良くないでしょ」
「えっ? どうして?」
テスは不思議そうに首を傾げる。
悪いとは思っていないようだ。
「あら、すぐに枯れてしまう人間の娘よりも、永遠の美しさを持つ私達と一緒にいる方が良いはずよ。そうよねコウキ」
話を聞いていたエルフの姫ルウシエンがさも当然のように言う。
だけどコウキは首を振る。
「あの……、御免なさい。約束をしたのです母様とあの国で立派な騎士になると……」
コウキの反論。
それを聞いてルウシエンが驚く顔をする。
それに対してドワーフ達の笑い声。
「はあ……、駄目よコウキ。貴方は私の騎士になるべきだわ。立派な騎士になるのなら、別にあの国でなくても良いはずよ」
ルウシエンが膝をついてコウキの頬に手をあてる。
「でも……。母様が……」
コウキは何とか反論しようとしている。
この子にとって母親との約束はきっと重いのだろう。
「エルフの姫君。コウキ君は帰りたがっています。母親の元へ戻すべきです」
自分はルウシエンに言う。
コウキははっきりと自分の意思を伝えた。だったら自分の取る行動は1つだ。
この子を母親の元に戻さなければいけない。
するとルウシエンは冷たい目でこちらを見る。
「母親の元に? 何を言っているのかしら? コウキは母親と一緒に暮らしていなかったわよ」
「えっ?」
そこで驚く。
どういう事だろう?
「コウキ君。君はお母さんと一緒に暮らしていなかったのかい?」
テスから離れると、自分もコウキの側に膝を付いて聞く。
「はい。お母様とは一緒に住んでいません。お母様はエリオスにいらっしゃいます」
そのコウキの言葉に頭が殴られたような衝撃を感じる。
人間の言い伝えでは、死んだ時に善良な者はエリオスへと迎え入れられ、悪しき者はナルゴルへと堕ちると言われている。
つまり、コウキのお母さんは既に死んでいるという事だ。
コウキは死んだ母親との約束を大切に守ろうとしている。
何故だろう、その事に涙が零れそうになる。
「そうか……。それじゃあ、お父さんは……」
再びコウキに聞く。
するとコウキは首を振る。
「父様には会った事はありません。ただ、ナルゴルにいると聞いています」
その言葉に再び殴られたような衝撃を感じる。
お父さん悪人かい!! しかも死んでる!!
何とも言えない気持ちになる。
この子は良い家庭環境に恵まれなかったのだろう。
だけど、かなり良い子に育っている。
きっとこの子の資質だろう。
「話は終わったかしら、この子には家族がいないの。だったら私がこの子の家族になる。問題ないはずよ」
ルウシエンが立ち上がり、こちらを見て言う。
確かにコウキに家族がいないのなら、それも良いかもしれない。
だけど、コウキは母親との約束を守ろうとしている。
どちらが良いか迷う。
「おお!! お戻りになりましたか、クロキ殿!! うん? そちらの女性は?」
迷っている時だった。
アーベロンが奥から出てくる。そして、側にいるルウシエンに気付く。
「お久しぶりですね。アーベロン王。私の事は覚えておいでかしら?」
ルウシエンはアーベロンの方を向くと棘のある言葉を放つ。
「ふん。覚えているとも、小生意気なエルフの姫。何故ここに?」
アーベロンも不機嫌そうだ。
「もちろん、エルフとドワーフで共同戦線を張るためよ。天上のお方から聞いていないのかしら?」
「共同戦線!?」
アーベロンが驚いた顔をする。
そんなに意外な事だったのだろうか?
エルフや妖精騎士は機動力はあるが正面からの戦いに弱い。
それに対して機動力はないが正面からの戦いに強いゴーレムやタロスを要するドワーフ戦士団。
協力すればかなり強くなるだろう。
「私は何も聞いていないぞ、エルフの姫よ。共同で戦う等今までなかった。その話は本当なのか?」
アーベロンは疑いの眼差しを向ける。
「あら、疑うというの? 失礼ね。天上の御方の話がなければ私だってこんな所に来たくなかったわよ」
ルウシエンが言うとお供のオレイアドとナパイアが頷く。
テスはそうでもないようなのでほっとする。
「うーむ。確かに嘘ではなさそうだが……」
アーベロンが考えている時だった。
1名のドワーフが慌てた様子でアーベロンに駆け寄る。
そのドワーフがアーベロンに耳打ちする。
「何だと!? 馬鹿な!? 天上の御方がこちらへ!? 今までこんな事はなかったぞ!! わかった、すぐに向かう!! エルフの姫よ急用が出来た! 取り合えず客室を用意しよう。そこで待ってもらおうか」
アーベロンが立ち去る。
どうやら、エリオスから誰かが降りて来たようだ。
ヘイボス神だろうか?
しかし、アーベロンの様子からそうではないようだ。
正体を隠している以上はなるべく目立たないようにしよう。
ふと横を見るとルウシエンがアーベロンの様子を冷たい瞳で見ている。
「どうやら、天上の御方も動いているみたいね。さて、部屋に案内してくれるかしら。行きましょうコウキ」
ルウシエンはコウキの手を引いて歩きだす。
コウキを元の場所に戻すかどうか迷う。
しかし、取り合えず今は様子を見ようと思うのだった。
◆蛇の王子ダハーク
山間のカウフの地、そのとある場所にオークとゴブリンの大軍が集結しつつあった。
このオークとゴブリンはボティスが呼んだ者達だ。
今後の作戦に使うつもりらしい。
「偉大なる蛇の王子ダハーク様。お初にお目にかかるよ。あたいの名はボルダ。この薄らバカ共の大将さ」
一匹のオークの雌がこちらに来る。
巨大な全身を宝石で飾り、手に持つ棍棒にも宝石が埋め込まれている。
オークの大族長ボルダは強欲な事で知られている。
手下であるオークの猪騎兵に命じて人間の国やドワーフを襲い、あらゆるものを奪い取る。
今回この雌が来たのも、エルフやオークの宝に目が眩んだからだ。
「お初にお目にかかります。蛇の王子ダハーク様。私の名はジャーギ。偉大なるゴブリン大王ゲスティラの第一子でございます」
ボルダの後ろから角の生えたゴブリンが出てくる。
その周りには首輪をつけられた人間の雌がいる。
このジャーギというゴブリン王子の愛妾だろう。
ジャーギは今実の弟と王位を巡って争っている。
そして劣勢である。
今回こちらに来たのは俺達に協力する事で、こちらの力を借りたいからだ。
連れ来ているゴブリンの軍団は奴の部族の規模のほんの僅かだが、それでも数千匹はいる。
その中でもゴブリンの蜘蛛騎兵は精鋭だそうだ。
ボティスの考えでは突破力のあるオークと機動力の高いゴブリンに共同戦線を張らせて、エルフとドワーフに対抗させるそうだ。
質ではどうかわからないが、数だけは多いので、充分に対抗できるだろう。
「そうか、お前達の力、期待しているぞ」
俺は冷めた目で嘘を言う。
こいつらは囮だ。
せいぜい頑張ってもらおう。
俺は冷めた目でこいつらを見るのだった。
うん短いです……。やっぱり立ち直れていないや……。
実は「小説家になろう」から移転を考えています。
詳しい理由は活動報告で。
移転先は「ノベルバ」様と「マグネット」様。
書籍化された内容そのままのUPはダメだけど、原作部分ならOKらしいので。
移転したら、「小説家になろう」には3章までは残すつもりだったりします。
もちろんすぐにではないです。
そもそも「ノベルバ」の方には環境が整っていない。スマホとか持ってないしね。
まずは「マグネット」と同時に連載して、「ノベルバ」の環境が整ったら、「小説家になろう」の4章以降を消そうかなと思います。




