052 晒される正体
ルイン・ドレイクは、今にも上空から中央広場へと降り立とうとしていた。
(急がないと…!)
イネスは速度を上げながら、改めて自分の持つ武器を整理する。
まずは【共鳴】。
彼女だけが持つユニークスキル。
これがあれば敵の狙いを読み取り、最適な行動を取ることができる。
他にも、彼女が持つ武器は幾つかある。
そのほとんどが、ここ数日のダンジョン攻略で手に入れた報酬アイテムだ。
中でも、これだけの強敵に通用するものとなれば限られてくる。
――――――――――――――
【風纏の絶弓】
・攻撃力+1500
・ダンジョン【風絶楼閣】の攻略報酬。
・この弓から放たれる矢は風を纏い、速度と貫通力が大きく上昇する。
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【錬魔の短剣】
・攻撃力+1600
・ダンジョン【ファントム・レギオン】の攻略報酬。
・魔力を注ぐことにより刀身が伸び、切れ味と威力が大きく上昇する。
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【無貌の仮面】
・ダンジョン【神の土塊】の攻略報酬。
・装備中、一度だけ受けたダメージを肩代わりする。ただし、肩代わりできるダメージ量には上限がある。
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「シモンが譲ってくれたマジックアイテムたち……私には身に余るものばかりだと思ってたけど、まさかここにきて頼ることになるなんてね!」
現在、イネスのレベルは1400を超えたところ。
特にデメリットもなく、これらの武器を扱える水準にまで達していた。
イネスが無貌の仮面を装備するのと同時に、とうとうルイン・ドレイクが中央広場に降り立つ。
そこに避難していた市民たちは、混乱のただなかにあった。
「うわああああ! 魔物だ! 魔物が下りてきたぞ!」
「誰か助けてくれ!」
「外にいる冒険者たちは何をやってるんだ!?」
『■■■■■■ォォォオオオ!』
市民たちの悲鳴に応えるように、ルイン・ドレイクは大きく腕を振り上げ――
「はあッ!」
『――ゥウゥ!?』
瞬間、イネスが後ろから錬魔の短剣で斬りかかった。
「くっ、硬い……!」
しかしその刃は硬い鱗に阻まれ、わずかな傷しか付けることができなかった。
『…………ゥゥ』
それでも、意識をこちらに割くことには成功したようだ。
攻撃を受けたルイン・ドレイクは、警戒するようにイネスに視線を向ける。
そして彼女に注目しているのは、ルイン・ドレイクだけではなかった。
「お、おおっ! 助けが来てくれたのか!」
「けど、いったい誰だ!? 仮面をつけてる冒険者なんて、聞いたこともないが……」
歓喜と共に、困惑の声を上げる市民たち。
イネスは現在、仮面に加えフード付きのコートを身に着けていた。
彼女の正体が分からないことに一抹の不安を覚えながらも、市民たちはとりあえず窮地から脱することができたと安堵しているみたいだ。
(っ! あそこにいるのは……)
そんな中、イネスは気付く。
集まった人々の中には、イネスと仲の良い少女――ミアの姿もあった。
(わたしが、守るんだ……!)
決意を固めたイネスは風纏の絶弓に持ち替えると、次々と矢を放ち始める。
「はぁっ! はぁっ!」
風を纏った矢は、硬質な鱗に対し着実にダメージを与えていく。
しかし、それでもまだ決定打には程遠い。
自らの不甲斐なさに、イネスは思わず歯嚙みした。
(まだ……ダメージが足りない!)
『■■■■■■ァァァァァ!』
そんな中、ルイン・ドレイクは口内に魔力を溜め始める。
それは間違いなく、強力なブレス攻撃の予兆だった。
ユニークスキル【共鳴】によって、イネスはその狙いを看破する。
このタイミングなら、攻撃を回避することは可能だ。
だが――――
(今ここで、私が躱しちゃったら……)
今、イネスの後ろには多くの市民がいる。
彼らを犠牲にしてまで、攻撃を避けるわけにはいかない。
「……っ!」
覚悟を決めたイネスは、真正面からブレスを受け止める構えを取った。
『■■■■■■ォォォオオオオオ!!!』
そしてとうとう放たれる、圧倒的な魔力によって生み出された破壊の奔流。
イネスが攻撃を受けた瞬間、【無貌の仮面】の効果によりダメージの大半は消失する。
「ぐっ……!」
だが、わずかに残った余波は、仮面を砕き、フードを吹き飛ばすほどの威力を持っていた。
その衝撃をなんとか耐えきったイネスは、紙一重ではあったものの、敵のブレスを無効化できたと理解する。
これで自分だけじゃなく、後ろの人々にも被害は出ずに済み――
「おい、アレって……」
「あ、ああ。そうだよな……」
――ざわざわと、背後では何かに気を取られたような声が上がっていた。
イネスは咄嗟に振り返り、そして気付く。
彼らの視線が、ルイン・ドレイクではなく自分に向けられていること。
もっと言ってしまえば、イネスの顔に集まっていた。
「あっ……」
彼らが見ているのは、今の攻撃によって曝け出されたイネスの顔と――人間よりも長く、エルフよりは短い耳だった。
つまり、それが指し示す事実はただ一つ――
「――――ハーフエルフだ」
そんな声が、辺り一帯に木霊するのだった。




