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第十九話 双剣のカイン

 ギルドから連絡を受けて3日が経ち、いよいよカインと戦う日がやってきた。

 すでに剣も研ぎ終わり、身支度も整え準備は万全。


「それでは行ってくるぞい」


「いってらっしゃいファルコさん」


 月の盃亭前でミランダに挨拶し、マイクを伴って一路闘技場へ向かう。


「ついにファルコがあの双剣のカインと勝負か……どんな戦いが見られるのか楽しみでしょうがないよ」


 闘技場までの道すがら、マイクが興奮気味に話しかけてくる。


「うむ、ワシも楽しみで昨日からワクワクしておったんじゃ、じゃが勝負までの間に色々と聞いて回っても肝心のカインの情報はとんと得られんかったのう」


「俺もカインはギルドで数回見ただけだからなあ。ましてや戦ってるところなんてお目にかかったこともないし」


「フランクにもそれとなく聞いてはみたが、知らないのはお互い様ですとけんもほろろに情報提供を断られてしもうたからのう」


「一応聞いた噂だと、双剣による目で追いきれないほど高速な剣さばきと一瞬で間合いを詰める足の速さって言われてるけど……それがどれくらいまでなのかはさすがに見当もつかないな」


「ワシが冒険者たちに聞いた話もそんなところじゃな」


 まぁ基本は自分の手の内なんぞ隠すものじゃからな。

 そうそう他人に見せつけるものでもなかろうて。


「まぁどんな相手だろうとワシの剣で叩き伏せるのみよ」


「おお、勇ましい言葉なことで」


 そんなこんなでワシらは闘技場に到着。

 石造りの巨大な円形の建物は遠目から見たことはあったものの、間近で見たのはこれが初めてのことだった。


「おお、でかいのう!」


「この国では最大の大きさを誇る場所らしい。年に何回か捕獲した魔物を使って軍事演習なんかも披露されたりするから、その時は周辺に屋台が立って大賑わいさ」


「ほお……」


 これまた大きい正門をくぐり、中に入るとそこではアンナがワシらを待っていた。


「遅い!」


「すまんのう、マイクとしゃべりながらのんびり歩いておったわい」


「もうカインはとっくのとうに到着してるわ。挑戦状叩きつけた相手を待たせるなんてどういう神経してんのよ」


「どうもなにもワシは前からこんな男じゃ。常に平常心で相手に向かうという精神を忘れておらぬだけじゃよ」


「はぁ……屁理屈はいいからとっとと会場に上がりなさい!」


「ほいほい」

 

 アンナに尻を叩かれ、ワシは闘技場中央にある一段高く石が積み上げられた会場へと上がる。

 かなりの人数が入れそうな観客席には人一人おらず、静かな闘技場内にはアンナやフランク、マイクなど数人しか見当たらない。

 しばらく待っていると、ワシが上がってきたのとは反対側にある階段から、スラリとした金髪の男性とも女性ともつかない中性的な人物がやってきた。


「お主がカインか?」


「そうです。お初にお目にかかりますね」


 ワシの方が年下じゃというのにえらく礼儀正しい奴じゃのう。


「まずは初対面のワシの挑戦を受けてくれて礼を言う」


「こちらこそ、フランクさんからあなたのうわさを聞いてぜひ戦ってみたいと思いましてね。依頼から帰って来たばかりですが挑戦をお受けすることにしました」


「ほう……?」


「新人冒険者なのにバルザス一家を壊滅させたり、鮮血の槍のアンナを破ったりと私がいない間にかなりご活躍をされているようでしたから。それに、あなたの使う剣筋とお名前にも少々興味がございまして……」


「ファルコという名になにかあるのか?」


「ええ、それはもう大いに。何を隠そう、私が剣を志したのはあなたの名と同じ最強と名高いファルコさまの勝負を見てからです。実際にお会いして直々に技も教わりましたし、私のことを弟子とも言ってくださいました」


 むむむ、ワシはこやつと面識があったうえに弟子とな?

 はて……とんと覚えがないのう。


 必死に過去を思い返してみるが全く思い出せない。

 フィッツのように、多くの人がいる場で剣技を見せたり確かに戯れで剣を教えたことは何度かあったが、やはり弟子まで取った覚えなどこれっぽっちもないのだ。

 

 じゃがのう……あやつの顔は真剣そのもの。

 嘘をついているようにも見えぬしのう……。

 ここは少しカマをかけて様子をみるとするか。


「お主が弟子じゃと? すまんがそれは間違いじゃのう」


「えっ?」


「ファルコより直々に剣を教わり、名をもらったワシこそが正式な弟子じゃよ」


 優越感を込めた意地悪い声で話しかけてみると、カインはピクリとまゆを動かす。

 

「どういうことですか?」


「なぁに、ワシは以前ファルコと同じ街に住んでいてのう。そこで何度も教えを請い、あらゆる剣の技を教わったのじゃ。彼からは弟子はお主だけじゃという言葉ももらったぞい」


「……——!」


 カインの目が険しくなってくる。

 面白くなってきたのう……もうちょっと煽ってみるとするか。


「どうせお主は彼から単に暇つぶしで剣を教わっただけのことじゃろう。そのようなものは弟子じゃとは言えまい」


「違いますっ!」


 ワシの言葉に対し、カインは大きく首を振った。


「あの人の弟子は……私です――!」


 刹那、殺意のこもった視線とともに腰に提げていた2本の小剣を抜き放った。


「……ふふっ、その意気は良いぞ」


 合わせてワシも剣を抜く。


「これ以上の言葉は不要。さあ……いざ勝負ぞ!」


これから毎日投稿頑張っていきます!


もし面白いと思っていただけたら、各話の下にある☆☆☆☆☆をぜひ★★★★★にしてください!


評価、感想、レビューが作者のエネルギーに変わっていきます!



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