第十八話 勝負に向けて
「はぁっ!」
「ふっ!」
カインとの勝負に向け、毎日の稽古にも一段と身が入る。
元通りになった空き地にて火花を散らしながら剣と槍を交えるワシとアンナ。
もうかれこれ3時間は続けておるだろうか。
「『絶槍』!」
「なんのっ!」
疲れも見せずにアンナが槍技を鋭く放ってくる。
ワシは冷静に剣で払ってさばきながら、すかさず手首を返して剣を振りぬいた。
「その手は食わないわよ!」
攻撃は当たらず、アンナに槍で間合いを取られ後方に逃げられてしまう。
「むっ……」
やはり若いせいかアンナの飲み込みは早いのう。
一度でも同じような手の内を見せているとあっという間に対応されてしまうわい。
「やるのう! ワシに敗れた頃のお主とは段違いじゃ」
「そりゃそうよ。あんたを倒すためには立ち止まっていられないんだから!」
アンナは日々の稽古のたび、着実に力を増しておる。
ワシもうかうかしておれんのう!
目の前で成長していく相手の姿を見て気分の高揚と若干の嬉しさを覚えつつ、ワシは再び剣を振り上げた……。
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陽も沈み、辺りも暗くなってきたころ。
ワシとアンナは得物を収め、持っていた布で噴き出る汗を拭く。
「ふう、今日はここまでじゃな」
「あたしはまだまだやれるわ! ……と言いたいけれど、さすがに朝から夕方近くまでぶっ通しだと疲れちゃうわね」
「休むことも鍛錬のうちじゃ。良く寝てよく動きよく食べる。強くなる秘訣はまずこれじゃからのう」
「ふふっ、そうね。ミランダさんのご飯が美味しいおかげでよく食べるは問題ないわ」
「お主の場合、食べすぎの域じゃと思うんじゃがなあ……」
カインの帰還予定をワシが伝えてから、アンナは自分の宿舎にも帰らず月の盃亭に泊まり込んでワシとの稽古に付き合ってくれている。
食事も一緒になって摂っているのだが、運動で腹を空かしているというのを差し引いても女性が食べるとは思えないほどの量をペロリと毎日平らげており、少々驚いているところだった。
「あたしは食べてもすぐに消化される身体だから大丈夫なのよ」
「そうか? 自分を過信してあんまり食べ過ぎておると……」
稽古用の薄着の下からのぞく、アンナの鍛えられた腹部にちらりと目をやる。
「あんた、今どこ見たの?」
「別に? ワシはどこも見ておらんぞ?」
「……槍でそのイヤらしい目玉を突いてあげましょうか?」
アンナが笑顔を引きつらせながら背中の槍に手をかざす。
「おっと、遠慮しておくわい」
とまぁこんな風に和やかに談笑するワシとアンナのそばでは、真っ青な顔で地面に大の字になり、気を失っているマイクの姿。
「もう……だめ……」
やれやれ……毎日諦めずにワシらについてくるのはええんじゃが、体力のなさはどうにかならんかのう……。
素振り一万回とか大人一人分の重さの石を担いだままの屈伸100回なんぞ稽古では楽な部類であろうに。
仕方なくワシがマイクを担ぎ、3人でミランダの食事が待つ月の盃亭へと戻ることにした。
「お帰りなさい! ……ってマイク、またなの?」
ミランダに呆れられながら部屋に運ばれていくマイクを横目に、ワシらは食堂のテーブルに座る。
すでに目の前にはミランダに頼んでおいた夕食が並べられていた。
「さあ、食べるわよ!」
「食事の前に女神にお礼を言っておかねばのう……」
早速がっつくアンナを尻目に、ワシは手を組んで目を閉じ、軽く祈りを捧げてから食事に手を付ける。
「いつも思うけど、強いのならば女神すら倒すって言いそうなあんたにしてはえらく信心深いわよね」
「まぁのう、これにはちょいと理由があるんじゃよ」
「ふーん」
もしアンナに実はワシ、もとは70過ぎの老人で女神様によって15歳に若返ったんじゃぞって言ったらどんな顔するじゃろうな?
「そういえば今日はカインが帰還する予定の日よね? ギルドから連絡は来てないのかしら」
「さきほどミランダにちらりと聞いてみたが連絡は来なかったそうじゃ。まぁ予想はしていたがのう」
「えっ? なんで?」
「多分フランクのことじゃ。ワシにカインが帰ったことを報告すれば、矢も楯もたまらずワシが勝負を挑みに行くのではと思っているじゃろうからな」
「あっはっは! 確かにあんたなら居場所を知ったらすっ飛んでいきそう! で、本当のところはどうなの?」
「無論、勝負を仕掛けに行くぞい」
「だろうと思った」
そうしてワシはアンナとマイクの3人で稽古に励む日々が1週間続いたある日、いよいよギルドからの連絡がやってきた。
カインは挑戦を了承し、3日後に王都にある闘技場で勝負するとの内容だった。
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