第十三話 鮮血の槍 アンナ
ギルフォードに連れられて、ワシは宮殿を奥へと進む。
「今はどこへ向かっているんじゃ?」
「この先にある訓練場さ。アンナは今そこで私の軍団に所属する兵士たちとともに訓練の真っ最中だよ」
「ふむ……そのアンナとやらはどんなやつなのかね?」
「彼女はうちの第一大隊の隊長でね。まだ18歳だけど山賊や盗賊討伐では多大なる功績を上げている。槍さばきも見事なもので多分私の軍団……いや世界でも屈指の上手さだろう」
世界屈指の槍さばきとな。
いよいよもって歯ごたえのありそうな相手じゃわい。
「いざ戦いに出れば、彼女の持つ槍についた血が乾くことのないことから鮮血の槍なんて二つ名までもらっているよ」
女だてらになかなかすごい名を持っておるのう……。
ワシは昔自分が戦った女性たちのことを思い出してみる。
基本的に、魔法を使う者以外は身軽さを武器に戦いを挑んできた。
男が使うような巨大な剣や斧は使わず、片手で取り回しのしやすい細剣など。
槍も柄で攻撃を受けるよう芯に鉄棒などが入っていないのであれば、先に重りとなる刃があるので振り回しやすく女性でも扱いやすい部類の武器だ。
「ところで私の方からも君に聞きたいことがあるんだけど」
「なんじゃ?」
「どうして君、そんなしゃべり方なんだい?」
「うーむ、変かのう? 今まで何度も聞かれたが」
「そりゃあねえ。どう見てもまだ少年という容姿なのに、ずっと長生きしている人みたいな口調だし。この国の将軍である私に対しても臆さない態度や立ち振る舞いなんかを見ても年齢相応には見えないよね」
「どうじゃろうな。案外見た目と実際の歳が食い違っておるかもしれぬぞ?」
「ははは、もしかして物語で聞く不老不死ってやつかい? もし本当にいるならお目にかかってみたいものだよ」
ギルフォードが笑い出すのを見ながら、ワシは小さく微笑んだ。
ワシは不老不死ではないが、女神のおかげで若返りを果たした男じゃからな。
本当のことを知ったらこやつはなんと言うじゃろうか……。
「それともう一つ聞きたいんだけどさ、まだ若い君なのにどうしてそんなに強い相手と戦うことを求めているんだい?」
「知れたことよ。強くなるためじゃ。それ以上に理由などあるか?」
「ふふっ、いや……一番説得力のある答えだね。きっとアンナともいい友達になれそうだよ」
「どういう意味じゃ?」
「彼女も君と同じ考えってことさ」
「ほう……」
彼女もまた強くなるために槍を選んだということか……。
「彼女はもともとさる良家の娘だったんだけどね。世界で一番強くなりたいと言って家を飛び出して私の軍に入ったんだ。最初はすぐに諦めるだろうって思ってたんだけど、今じゃ軍で敵う者なしの有様だよ」
「聞いた感じだと、だいぶ気の強そうな女性じゃのう」
「ああ、たとえ訓練でも手を抜かないせいで彼女の相手はいつもケガだらけ。おかげで思うように練習もできず、あげくに私がフランクと友人なことにかこつけてSS級冒険者のカインを練習相手にとまで言う始末。私としても扱いに困っていたところさ」
「そこでワシに白羽の矢が立ったということか」
「バルザス一家を叩き潰し、凄腕の剣士を破ったという君ならきっとアンナを満足させてあげられるだけの力はあるだろう。遠慮はいらないから全力で彼女と戦ってあげてくれないか?」
「承知した」
「さあ、着いたよ。ここが我々の訓練場だ」
たどり着いたのは宮殿の中央にあるただっ広い空き地。
そこには訓練用の人形や木剣などがきれいに整頓されており、青で統一された動きやすい服装を着た男女が訓練に汗を流していた。
「アンナは……ああ、いたいた。あそこだ」
ギルフォードが指さす先には、柄を真っ赤に塗った槍を一心不乱に人形に向けて突き続ける顔立ちの整った女性。
髪も燃えるような朱色をしておるし、二つ名もあわせると赤色によほど縁があるのじゃろう。
「閣下に敬礼!」
突然訓練をしていた男女が一列に並んでギルフォードに向けて直立不動となり、敬礼の格好を取る。
ギルフォードも続けて同じ格好を取った。
うーむ、気さくに話しかけてくれておったがそういえば一軍の将なのであったな。
「アンナ! アンナ!」
だが肝心のアンナは敬礼どころかこちらを振り向くこともせず、ひたすらに槍を突き続けている。
他の兵士が何度も呼びかけ、袖を引っ張ってようやく気付いたほどであった。
「アンナ。君が望んだカインくんではないが、相手としてこの上ない人物を連れてきた」
「ファルコじゃ。よろしく頼む」
ギルフォードに促されてワシは一歩前に出る。
「へえ、まだあたしより若そうなのに相手が務まるの?」
「この子は以前話題に上がったバルザス一家を壊滅させた少年だよ。冒険者ギルドのフランクからの推薦だし、君の全力にも耐えうるだけの実力はあるだろう」
「ふん、どうだか……」
アンナはワシを見ながらにやりと笑う。
これは完全にこちらを舐め切っている態度のようじゃな。
「ふっ、ワシは強いぞ? 残念ながらこの後お主はワシの前で膝をつくことになるじゃろうなあ」
生意気な女じゃし、少々からかってやるか。
「はぁ!? 何言ってんの? じいさんみたいなしゃべり方のくせして気持ち悪い奴!」
「のう、ギルフォードよ。この女を相手にするのは構わんが、別に叩きのめしてしまってもよいじゃろう?」
アンナに返事をせず、後ろにいたギルフォードに尋ねた。
「ああ、構わないよ。彼女には全力で当たってくれ」
よし、承諾は取ったな。
あとでケガをさせた責任を取れとか言われても困るからのう。
「……あたしを叩きのめすですって――!?」
アンナの方はワシの安い煽り文句に乗って、真っ赤な顔で怒りをあらわにする。
こんな簡単な挑発に引っかかるようでは、まだまだ精神面の修行が足りんのう。
「いいわ! 目にもの見せてあげる! さあさっさとその剣を抜いてかかってきなさい!」
「いやぁ、ワシは木剣を使うとするぞい。まだうら若い女の顔に傷でもつけたら大変じゃしのう」
さらに煽りつつ訓練用の木剣を持つワシ。
「ふっ……ふざけるんじゃないわよ!」
アンナは今にも槍でワシを突き殺さんばかりに殺意をむき出しにしている。
ふふっ、ワシに煽りつくされ怒りで完全に我を忘れておるようじゃ。
戦いにおいてそのような気持ちではどうなることか教えてやるとしようかのう。
そしてワシとアンナは広場中央にある石畳の敷き詰められた円形の台座の上へ。
「勝負は相手が行動不能になるか降参するまで。それでは……始め!」
ギルフォードの合図とともに、ワシとアンナの勝負が始まった。
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