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第十二話 楽な依頼

「やれやれ……ワシがなぜお手紙なんぞ運ばねばならんのじゃ」


 フランクから頼まれた依頼。

 それは王都の中央にある宮殿にいるという、フランクの友人である役人に手紙を届けることだった。


「全く……フランクはワシを体のいい小間使いとでも思っておるのか?」


 こういう仕事はギルドの職員にでもやらせればいいじゃろうに。


「手紙の中身は……見るなと言われると見たくなるもんじゃが……」


 道すがら手紙を太陽にすかしたり、何度も裏表を確認する。

 特になんの変哲もなく、質の良い白い封筒に入った手紙で、裏はしっかりとギルドの印が入った封蝋でしっかり綴じられている代物だ。


「はぁ、考えても始まらん。楽な依頼で情報を教えてくれると思って、とっとと手紙を渡して帰るとしようぞ」


 時間も惜しいので特に寄り道もせず、宮殿へと到着。


「すまんが、ギルフォードという役人はおるかいのう?」


 フランクに言われた通り正門ではなく裏にある通用門から入る。

 そして衛兵に事前に知らされていた役人の名前を出した。

 

「ん? 君みたいな少年がギルフォード様に用でもあるのか……? 失礼だが名前は?」


「ファルコじゃ、冒険者ギルドの遣いでギルフォードとやらに手紙を届けに来た」


 手紙を懐から取り出し2人いる衛兵の片方に渡す。


「確かにギルドの印だが……少し待っていてくれ。確認してくる」


 手紙を受け取った衛兵は宮殿の中へと入っていき、ワシは残った衛兵と二人きり。

 衛兵はワシのことが気になるのかちらちらとこちらを見るものの、お互い会話もないまま時間だけが過ぎていく。


「待たせたな。ギルフォード様より確認を取った。この手紙は持って来た君が直接届けるとの連絡を受けているらしい。案内しよう」


 しばらくして衛兵が戻ってくると、ワシはそのまま中へと通された。


「ほう……これがこの国の宮殿か……」


 衛兵の後を歩くワシは周りの光景に目を奪われる。

 ピカピカの壁や窓、素人のワシでも分かる高そうな絵画やツボなどおおよそ縁のなかったものたち。


 別にこういうものには興味はないのじゃが、やはり物珍しさには敵わんのう。


「着いたぞ、ここがギルフォード様の執務室だ」


 衛兵がとある一室の扉の前で止まり、ノックをする。


「失礼します! 冒険者ギルドの遣いをお連れしました!」


「入れ」


 部屋の中から渋い男の声。

 衛兵によって扉が開けられ、ワシは中へ通された。

 

「わざわざありがとう。私はこの国の第一軍の軍団長ギルフォードだ。手紙をこちらに」


 部屋の奥にある机に座っていたのは、優しそうな口調とは裏腹に白髪交じりだが体格のがっしりした男。

 昔の戦いで出来たのか右頬に大きい刃傷があり、体格も相まって歴戦の戦士といった風貌だ。


 見た目もそうじゃが軍団長というからにはなかなか腕が立ちそうなやつなのじゃろう。

 少々戦ってみたい気もするが、まずは槍使いの方が。

 さっさと手紙を渡してしまうとしようかのう。


「依頼は終わった。それではワシは帰るぞい」


 ギルフォードに手紙を渡し、ワシは部屋から出ようとする。


「ちょっと待ってくれないか」


 唐突にギルフォードに呼び止められる。


「なんじゃ?」


「フランクからは届けてくれた君の前で手紙を読むようにと言われている。だからもうすこしだけこの部屋にいてくれないかい?」


「むう……仕方ないのう」


 そしてギルフォードは封筒の口を開け、中に入っていた手紙を開く。


「『僕の友人であるギルフォードへ。今そこにいるであろうファルコくんはバルザス一家撲滅の立役者だ。彼の望みはうちのSS級冒険者であるカインくんなど強い相手との勝負らしい。だからギルドでも彼にはそういった相手の探索と紹介という条件で冒険者になってもらっている。ついては今回、彼の果たした王都治安向上の功績として、また君が望んでいた件と合わせて、部下である槍使いのアンナとの勝負を調整してもらえないだろうか?』……ふむ」


 手紙を読み終えたギルフォードは苦笑しながらあごひげを撫で始める。


「やれやれ……フランクめ。久しぶりに友へどんな手紙を送って来たかと思ってみれば」


 なるほどのう……フランクの言っていた槍使いというのはこの国におったのか。

 そやつと戦えるようにちゃんと手配をしてくれていたというわけじゃな。


「まだ少年にしか見えないが……君がバルザス一家を倒したファルコくんか」


「そうじゃ。だが少年だからと思って甘く見ておると、痛い目に合うやもしれんぞい?」


「甘く見たつもりはない。この目で見るまでは少々信じられなかったものでね。だが、こうして会った瞬間に分かったよ。君は強い」


「お世辞は良い。それで? そのアンナとやらと戦わせてくれるのか?」


「それに関してはこちらもやぶさかではない」


「ほう……」


「最近アンナの相手が務まる人も少なくなってきてね。以前、練習相手としてカインくんと戦わせてくれないかとフランクに聞いたくらいだからね。」


「ならば話が早い。早速勝負といこうぞ」


「ははっ、分かった分かった。それじゃあ私に、ついてきてくれ」


 そしてギルフォードは立ち上がり、ワシを部屋の外へと誘った。


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