第十一話 しばしの休息
「マイク、ファルコさん、朝食の用意が出来ましたよー!」
朝の走り込みを終え、月の盃亭前で剣の素振りに励んでいたワシとマイク。
そこにミランダが呼びかけてくる。
「おっ! 待ってました!」
「おう、すまんのう。今行くわい」
タオルで汗を拭きつつ、ワシらは中へと入る。
バルザス一家の賭博場に殴り込みをかけてから1週間。
残党どもの報復もなく、平穏な日々が続く。
ワシはというとミランダから、
「私たちを助けてくれたお礼に、王都にいる間は好きなだけこの宿を使ってね」
とありがたい言葉をもらった。
2食付きで温かいベッドに温かい風呂と最高の条件。
騒動に首を突っ込んでよかったと思ったもの。
じゃが王都での拠点確保に一つオマケがついてきた。
「頼む! 僕に剣を教えてくれないか?」
マイクが指南を頼んできたのだ。
「うーむ……」
正直面倒くさい。
身も蓋もないが最初に思ったワシの率直な感想。
「ギルドマスターから君の活躍の様子を聞かされてね。僕もミランダをしっかり守れるようもっと強くなりたいんだ。だから頼む! 僕に剣を教えてくれないか!」
外見は一応年下であるワシに対し律儀に頭を下げたマイク。
まぁギルドから情報を得るまでの間は暇じゃし、時間つぶしにでもよかろう。
ワシはマイクに基礎や簡単な技を教えてやることにした。
「剣の基本はいかに素早く振るかじゃ。攻撃なんぞ当たらなければ意味がないぞい」
「てぇりゃあ!」
「人を倒すなら胴体や首を狙うよりも足を狙って動きを鈍らせよ。仕留めるのはそれかでいいぞい」
「むっ難しい……」
「『縮地』は足に魔力を込め一気に爆発させて発動させるのじゃ。ただし速度に耐えられるよう身体を鍛えなければ自分を痛めるだけぞ」
「うぐぐ……!」
たとえ暇つぶしでも手は抜かぬと厳しめに教えていたのだが、意外にもマイクには地力があったようでなんとか食らいついてきた。
今では一緒になっての走り込みや模擬戦もするようになり、ワシ自身少々楽しくなってきたところである。
「それにしてもファルコくんはすごいね。僕より7つも年下なのにものすごく強い」
「なぁに鍛錬の成果じゃよ。差こそあれど誰でもしっかりと鍛えれば相応の強さにはなれるぞい」
食堂でマイクを向かい合いながら作り立ての食事を頬張る。
うーむ! やはりミランダの食事は旨いのう!
「それで今日はどうするんだい? 僕は久しぶりにギルドで何か依頼を受けてくるつもりだけど」
「ワシもギルドに寄ってみようかのう。フランクに強者の情報がないか聞いてみたいところじゃし」
「それじゃあ朝食を食べ終えたら一緒に行こうか」
「うむ」
その時入り口の扉が開き、備え付けのベルが小気味いい音を立てる。
「あっいらっしゃい! 月の盃亭へようこそ!」
厨房にいたミランダが慌てて受付へ走っていく。
そして入ってきた客に愛想よく対応を始めた彼女を見ながらマイクがつぶやいた。
「本当に君のおかげだよ……こうして宿屋を続けられるのも」
「そう言われるとあの時ミランダを助けた甲斐があったというものじゃ」
ワシの殴り込み後、バルザス一家は軒並み捕まり、賭博場も閉鎖された。
そしてギルドが集めた証拠によって不当に店を奪われた者たちにも所有権が戻されるとのことで、ミランダたちは以前の街が戻ってくると喜んでいた。
「さて、それじゃあ行こうか」
「そうじゃのう」
ワシとマイクは一路冒険者ギルドへ。
道中他愛ない会話をしながら到着したワシらは中で別れた。
「すまんがフランクはおるかのう」
いつものように受付に面会を申し込み、しばらく待つとフランクの部屋へ通された。
「カインくんはまだ帰ってきてませんよ?」
開口一番にそれかい……。
「さすがのワシもそこまでがっつくつもりもないわい。それよりも他の強者の情報はないかと思って来ただけのことじゃ」
「そうですねえ……」
フランクは机の上に置いてある書類をパラパラとめくりながら考え込む。
「それでしたらとある街にいる槍術の使い手などはどうですか?」
「ほう……」
槍術とな、なかなか面白そうなやつじゃのう。
「正確無比な突きに定評があり、数々の勝負でもいまだ負け知らずとのこと。どうです? 君の希望に叶いそうですかね?」
「うむ、そやつと戦ってくるとしよう。それでは居場所を……」
「でしたら一つ我々の頼みを聞いていただきたいのですが」
なんじゃと……?
「取引の基本でしょう。何かが欲しいのなら代わりに同等のものを渡す」
「バルザス一家を叩き潰したのじゃから、それでよかろう?」
「そのかわり我々はミランダさんとマイクの保護を請け負いましたよね?」
「むっ……」
「今回は槍術の使い手の居場所という情報の代価として、我々の頼みを聞いてもらいたいのです。反論はありますか?」
くぅ……上手い返しが思いつかんわい。
「……はぁ、分かった。それでその頼みとやらはなんなのじゃ?」
渋々頷いたワシに対してフランクはニコリと笑った。
「簡単なことですよ。あなたに1つ依頼を受けてほしいのです」
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