第十話 成敗
「うっ嘘だろ!? 俺が見たファルコ様の技と同じ――!?」
フィッツは目を見開き、驚愕の表情。
やはりワシの戦いをどこかで見ておったのじゃな……。
「さて、では改めてファルコを愚弄した罪を償ってもらおうかのう」
「くっ、くっそおぉ!」
「言っておくが、分身とはいえ実力はワシと同等。どこまで耐えきれるかのう?」
とは言ったがこの身体の魔力量ではそう長くも分身を維持し続けられぬ。
ちゃっちゃと片付けさせてもらうかのう。
フィッツに剣先を突き付け、一斉に分身を動かす。
「こんな……こんなガキにこの俺があぁぁぁ!?」
分身たちによる一糸乱れぬ怒涛の攻撃。
フィッツは瞬く間に剣を弾かれ、全身に傷を負い、ついには膝をついて動けなくなった。
「ここまでのようじゃのう」
分身たちに一旦攻撃をやめさせ、後ろに引かせる。
「はぁ……はぁ……くそ! 一体何なんだお前は!?」
「ワシか? ワシはまだ15歳の少々剣が得意な子供じゃよ」
「嘘をつけ! あのファルコ様と同じ奥義を使える子供なんていてたまるかぁ!」
ふふっ、さすがにワシが本物のファルコとは思うまいか。
「この広い世の中には、そういう子供もおるということじゃよ。ではそろそろ̪仕舞いとしようかのう」
ワシは剣を構える。
「くそっ! このまま終わってたまるか! 俺はファルコ様のように世界最強の剣士になるんだ!」
フィッツは剣を拾い、足元をふらつかせながらも剣を振り上げ攻撃を仕掛けてくる。
「うおおおぉぉぉ!」
「はっ――!」
振り下ろされた剣を弾き上げ、ワシは拳をフィッツの腹にめり込ませた。
「ごふっ!?」
「ファルコのように強くなりたいのなら、目先の技ばかり磨かずもっと剣と肉体を磨くがよい」
「ははっ、子供に説教……されるなんて……な」
フィッツは白目をむき、地面に倒れ伏した。
「さて……あとは残りの雑魚とバルザスを叩きつぶすだけじゃが……」
分身を消し、辺りを見渡すが倒した者たち以外の姿は見当たらない。
「中に逃げ込んだか……」
ううむ、少々戦いに気を取られてしもうたわい。
ワシは賭博場の中へと戻り、しらみつぶしにバルザスを探し始めた。
「どこにおるんじゃバルザス? 殺しはせぬから安心して出てこい」
途中で襲ってくる雑魚どもを蹴散らしつつ、奥へ奥へと歩いていく。
「後はここかのう……」
行き着いたのは最奥の部屋。
頑丈な鉄でできており、ド派手に色が塗られたいかにもな扉である。
「ふむ……」
剣を構え、魔力を込める。
「『斬鉄』」
斬れ味を上げる剣技を使い、扉を真っ二つに斬り裂く。
鈍い轟音を上げて崩れる扉。
その向こうでは、数人の部下とともにバルザスが青ざめた表情で立っていた。
「ちくしょう! なんなんだ……なんなんだ貴様は一体!」
「バルザスよ、大人しくその首を差し出すがよい。であれば手荒な真似はせぬからのう」
「てめぇミランダにでも惚れたか!? いや……もしかして王国の差し金か! ちくしょう! 俺があれだけ大金をばらまいてやったっていうのに!」
「さてのう……ワシはミランダのために動いたわけでもないし、どこからも金などもらっておらぬぞ?」
「そんなわけあるか! じゃなきゃ俺たちを敵に回すなんてこと!」
「はっはっは!」
やはり凡人ではそう思うのも無理はないかのう。
「知れたこと、お主たちの雇ったあのフィッツと戦いたくて牙をむいただけのこと」
「……は?」
バルザスは意味が分からないといった感じにポカンと口を開けていた。
「ワシはのう、強い奴と剣を交えたいんじゃ。そのためならばたとえお主らのような悪の集団だろうが国だろうがケンカを売る。ただそれだけのことじゃよ」
「狂ってる……お前みたいないかれたガキがこの世にいてたまるか!」
「元気いっぱいな少年と言ってほしいもんじゃのう……」
「うるせぇ!」
バルザスは最後のあがきとばかりに部下とともに剣を持って迫ってくる。
「しっ――!」
ワシは一足飛びに剣を煌めかせ、全員叩き伏せて気絶させた。
「ふうっ、終わりじゃな」
剣を収め、ワシは賭博場を離れて冒険者ギルドへと戻る。
▼
「おう、帰ったぞい」
すでにギルドの営業時間は過ぎている。
だが事前に裏口を開けてもらっており、中ではフランクやミランダ、マイクらが待っていた。
「ファルコさん!」
「よかった! 無事だったんだな!」
「監視していた職員からも報告は受けてるよ。さすがだね」
3人から祝福を受けつつ、ワシはニッコリと歯を見せて笑った。
「うむ、噂の剣士とも戦えたし、バルザスも叩きのめしたぞい」
「ああ、君のおかげでこちらの首尾も上々さ」
フランクが意地の悪そうな笑顔を見せる。
「君が暴れているうちにちょっと賭博場や一家のアジトやらに部下を動かしてね。奴らが今までやってきた不正や不法行為の証拠を手あたり次第に確保させてもらった」
「ほう……」
ワシを動かしている間に自分たちはそういうことをしておったとは。
じゃからド派手に動けと言ったんじゃな。
「同時に王国の軍隊もバルザスのアジトへ突入して、一家の関係者全員を確保している。集めた証拠と合わせれば奴らも終わりさ」
「ワシと戦った剣士……フィッツはどうなるんじゃ?」
「そうだねえ……今後明らかになる罪状にもよるね。良くて長い牢獄生活、最悪バルザスと一緒に縛り首になるんじゃないだろうか」
「そうか……」
……少々寂しい気分じゃのう。
バルザスという悪人に雇われはしたが、戦ってみてあやつからはワシと同じ強くなりたいという思いがヒシヒシと感じられた。
実際にワシが弟子にしていたら、ひとかどの剣士にはなれておったのかもしれぬな。
「君のおかげでこの都に巣くう悪を一つ潰せたし、国に対してもデカい貸しを作れた。全く……頭が上がらないよ」
「そうか、じゃったら早く次の強い奴を教えてくれぬか?」
「気が早いねえ……まぁ今日はもう遅いし君も疲れてるだろう? 明日からの話にしようよ」
「むう……」
フランクの言う通り、久々にとっておきを使ったせいかいつもよりも身体が重く感じる。
今日は大人しく寝るとするかのう。
こうしてワシはミランダとマイクと一緒に月の盃亭に戻ることにした。
これから毎日投稿頑張っていきます!
もし面白いと思っていただけたら、各話の下にある☆☆☆☆☆をぜひ★★★★★にしてください!
評価、感想、レビューが作者のエネルギーに変わっていきます!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
≪書籍化作品≫
https://book1.adouzi.eu.org/n0011fd/
只今一巻発売中!
【勇者に幼馴染を奪われた少年の無双剣神譚】




