31.After.世界(2)
ラスト2話
長いです
国には必ずダンジョンが五か所存在する。国土の大きさは関係なく、五ケ所だ。
先進国に分類されるイギリス、アメリカ、オーストラリアは軍がダンジョンを抑えていた。もちろん探索者もいるが民間よりは軍人が多い。
巨大モンスターが出現したときも軍が対応した。百人単位の死者を出しどうにか撃退したが引き連れていたモンスターらはダンジョンの外にあふれてしまっていた。民間の被害は千人単位にのぼり経済的ダメージはさらに大きなものになっていった。
南米は巨大モンスターに対してなすすべもなく崩壊。各国にあるダンジョンからはモンスターが溢れアマゾン川流域にモンスターが拡散、手が付けられなくなっている。今のところ政府は機能はしているが都市がモンスターに蹂躙され沈黙しているので国家がなくなるのも時間の問題だった。
欧州の大国は巨大モンスターと互角に戦っているが軍事物資は有限なので突破されるのは確実と思われた。欧州はその防衛をアメリカに頼っており、軍事費は減少の一途だったツケが回った形だ。
バチカン市国、ルクセンブルグ、モナコ、アンドラなどの小国では全く対応できず、モンスターに蹂躙され通信の応答もなくなっている。キリスト教は聖地を失い、原理主義者による十字軍の組織も叫ばれているが応ずるほど余裕のある国家はないようだ。イギリスもこの件に関しては沈黙している。
ローマからあふれたモンスターは北部の山脈に阻まれ南に移動、地中海に到達した。アンドラからはフランスとスペインに向かった。ルクセンブルクからはフランスとドイツとベルギーに侵入を開始した。汚職が激しいギリシャもモンスターを阻めず、モンスターが隣国のトルコへなだれ込んでいる。
国境の封鎖もできず、軍と探索者らは都市に立てこもって応戦していた。これにより都市間が分断され物流が滞り始め、欧州は大混乱に陥ると予想された。
中国は北京、西安、成都、昆明、上海にダンジョンがあるが西安、成都、昆明は汚職がひどく杜撰な管理だったためになすすべなく巨大モンスターを解き放ってしまった。各都市とその周辺に被害が及んだ時点で人民解放軍は中国共産党の意見を無視して弾道ミサイルで攻撃を開始した。
魔石圧縮を利用した新型弾頭で巨大モンスターを破壊することに成功したが、多数の住民を巻き込んでしまった。詳しい死者数は発表されていないが数百万人は犠牲になっていると思われた。
弾道ミサイルは都市周辺をも破壊しつくし、近代都市は人の住めない荒れ地と化した。またダンジョンからはモンスターがあふれ続けるので定期的に弾道ミサイルを撃ち込むことになる。そして中央アジアへの道は閉ざされた。
ロシアは極東にダンジョンがあったが放置しあふれるに任せている。そのモンスターが連邦国家を踏みつぶしながらじりじりとモスクワに迫っているがミサイル攻撃するかは不明だ。運がよかったことにサハリン半島にはダンジョンがなかったので北海道に直接被害が及ぶことは当面なさそうだった。
朝鮮半島では、北朝鮮がモンスターによって崩壊。モンスターはそのまま南下。韓国軍が必死に応戦しているが38度線を維持できず、首都のソウルは放棄された。現在の暫定首都は南部の釜山だ。日本とアメリカに救援を打診しているが日本は憲法九条を盾に応じていない。野党が騒いでいるが憲法を盾にしているので歯切れが悪い。
インドはあふれたモンスターを人海戦術で倒したが死者行方不明者は二五〇万人を超えた。また西安成都昆明が更地になったのを見て紛争地帯であるカシミール地方に軍を差し向け侵略を開始した。中国は中央アジアへの道にある都市を潰してしまったので軍の増援部隊を派遣できずにいる。ミサイルも自国へ撃つために自重しているようだった。
インドは隣国のパキスタンにも軍を送り領土拡大の意思を隠していない。パキスタンもインドに対して反撃しており、同じくイスラム教の国インドネシアも参戦を表明した。戦火はアジア全域に拡大しそうだった。
中東地域は砂漠がモンスターを食い止めているが空からのモンスターを阻止できず、各都市は攻撃を受け続けていた。迎撃ミサイルがある大都市はいいがそれ以外は惨憺たるたるものだった。
スエズ運河も閉鎖され、地中海にいる米軍艦船もモンスターによる攻撃で沈没する軍艦もあった。
太平洋の諸島は軒並み壊滅した。諸島であり、そもそもダンジョンを抑えるだけの戦力がなかったこともあり、国民はすべて死亡と推測された。海洋型のモンスターは太平洋に広がり、海を支配下に置き始めた。漁船などの小型の船舶はモンスターの襲撃を受け損傷または撃沈され始めていた。
カリブ海も同様であり、その影響でパナマ運河は使用できなくなってしまった。世界的な海洋物流が止まる恐れが出てきた。
アフリカ大陸も西部海岸に小国が多く、ダンジョンからのモンスターがじわじわと広がっているが砂漠隊を超えられないようで赤道付近の緑豊かな地域に向かっている。軍が都市に立てこもって防衛しているが補給もままならない状況で絶望が支配しつつあった。
そんな中、ダンジョンからモンスターがあふれたことによる被害を、マスコミは迷宮探索庁のせいにしていた。探索者がダンジョンで活動しているからだと決めつけたのだ。
「誰かを悪者にしないと気がすまないのかねこいつら。日本だけじゃなくって世界中の現象を何で日本の迷宮探索庁のせいにするかね」
「ほんと、無責任だよねー」
ふたりが見ているテレビには防衛大臣の記者会見が流され、そこで記者が大声で怒鳴っていたりとカオスだった。
「大臣はこの責任をどうとるおつもりですか!」
「防衛大臣として国家防衛の職務を全うするつもりです。今この職を放り投げてよい時ではありませんので」
「責任は放棄ですか!」
「責任とおっしゃいますが、そもそもダンジョンからモンスターがあふれたことの原因は不明です。あなた方メディアがなにやら探索者と迷宮探索庁のせいにしているようですが、根拠もないデマを流布している責任は感じないのですか?」
「質問に質問で返すなッ!」
「言論弾圧でしょそれ!」
「ふむ、では迷宮探索庁が原因であるという証拠をお見せいただきたいですな」
「報道の自由を害している!」
「ふざけるな! こっちはヘリも飛ばせないで取材もできないんだ!」
「取材もできずにどうやって証拠をつかんでいるのでしょうかね。自由とは責任が伴うと認識しておりますが、報道機関として責務は果たされておりますかな?」
「詭弁だ!」
「話を逸らすな!」
記者がイキっている。大臣を怒らせて失言を取りたいのだろうが記者のほうが頭が悪いようで空振りしていた。大臣は大臣で記者を煽っている。
日本は魔石による発電で電力を賄っているので、迷宮探索庁はエネルギー源を管理することになる。その電気を大量に消費するメディアを減らしたい。同じ番組しか放送できないのなら多数の局は必要ない。いっそふたつほどの国営放送にまとめてしまえばよい、とまで考えている。
言いたい放題を放置しておけるほど、今の状況は甘くはないのだ。
「大臣も大変だ」
「記者はらくちんそうだね」
「無責任に騒いでりゃいいだけだしな」
ふたりはまったりお茶をすすった。
割とのんびり構えていられるのは、現在日本が置かれている環境にある。
船舶による貿易はモンスターの跋扈で壊滅しそうだ。今も海岸には小型ではあるがモンスターが出現しており、探索者及び自衛隊がこれにあたっている。
空では、やはり飛行タイプのモンスターが世界中に散らばり、旅客機が撃墜されるなどの被害が出ていた。日本も例外ではなく、島国であるがゆえにあらゆる方角から襲来しているが、今のところは航空自衛隊が撃退している。このため日本上空は自衛隊が許可した航空機のみが飛ぶことを許されている。
マスコミも自社のヘリを飛ばせなくなってイラついているのだろうが、飛んだところでモンスターにあって撃墜されるだけだし、実際に何人かが犠牲になっていた。
「海も空も封じられたことで輸入ができなくなっておりますが、大臣としましてはどのように対処するのでしょうか?」
フリーランスの肩書の男性が質問している。
「現在、日本周辺の航海の安全は海上自衛隊が担っておりますがそれも限界があります。エネルギー政策については経済産業省から発表があると思いますが、エネルギー源に関しましては、防衛省としましては魔石の供給を最大限にすることでエネルギー危機に対応する予定です」
「ダンジョン探索を再開するということでしょうか?」
「エネルギーがなければ社会の維持ができません。日本で産出する原油と天然ガスの量では到底賄えませんので、唯一余裕がある魔石エネルギーの割合を増やす方向にいかざるを得ません。そのためにもダンジョン探索を再開する決定をしました。これは閣議決定されております」
「危険ではないのですか?」
「危険度合いはわかりません。他の安全かつ合理的な方法があればご教授いただきたい。政府は建設的な意見を募集しております」
「横暴でしょー」
「無責任なこと言うな!」
「国民はそんなことは望んでいない!」
大臣が言い終えるや否や関係ない記者ががなり立てる。大臣はやれやれという顔でマイクをとった。
「世界中から物資が手に入る夢のような環境は無くなってしまいました。物流と外交が途切れた世界は石器時代に近い社会になっていくと思われます。現在の文明を維持するためにはリスクが伴うようになります。メデイア各社が大量に浪費する電力も、魔石発電が中心になっていくはずです。あなた方も探索者を組織して魔石を収集してもよいのですよ?」
大臣はにっこりと笑みを浮かべマイクを置く。記者が挙手する中、大臣は新聞社の女性記者を指名する。
「一昨日発生した一般人の探索者化についてお聞きします。政府として原因及び対策は決定されましたでしょうか」
「一般人の探索者化については現在調査中でありますのではっきりした事実はございません。そのうえで、あくまで個人的な見解と前置きいたしますが、私としましてはダンジョンへのゲートが変化して地上と一体化したからではと考えております。ダンジョンの魔素が地上へ流出したために職業を得て探索者化したのではと。あくまで私個人の意見ですので政府の回答ではないことは重ねて申しておきます。これを政府の意見として報道した場合、法的措置を取ります。今は世界中が緊急事態ですので、軽はずみな報道はやめていただきたい」
「それは事実上の検閲では?」
「デマや虚偽を報道しなければよいだけではないのでしょうか」
「報道の自由を侵害する行為です!」
「自由には責任が伴います。あなた方は責任を全うしているようには見えないのですが」
「暴言です!」
「では、次の方」
大臣はぶった切った。次の記者を指名する。
「輸入食料が途切れるとなると国民生活に多大な影響があると思いますが、政府としてはどのような対策を考えているのでしょうか」
「所轄が異なりますので詳しい回答はできませんが、ダンジョンの資源を活用していく方針は閣議で決まっております。所轄の省庁へお問い合わせください」
「……ありがとうございます」
「まだ探索者を野放しにするのかッ!」
「まだ質問上があるぞ!」
「これで防衛大臣の会見は終わります」
「逃げるなー!」
ここで中継が切れた。画面がニュース番組に戻る。
「一昨日発生した、一般人が職業を得てしまう事件について続報です。日本各地で高校生以上の国民が何らかの職業を得るという現象が――」
影勝はそこでテレビを消した。
「一般人の探索者化、かー」
「坂本ギルド長は地上のダンジョン化だって言ってた」
「どうなっちゃうんだろ、日本てか世界は」
「偉い人たちがあれこれ考えてるんじゃないかなー」
影勝と碧はそろってお茶をすする。緊張感が感じられないが、あまりの激変に現実感が乏しいせいだった。




