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近江影勝は森のエルフさんで影のない男  作者: 海水


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27.空を駆ける影勝(2)

「ゲート過ぎて百メートルほどにあるって」

「そんじゃ行ってみるか」


 時折現れるモンスターを蹴散らしながら二人は歩く。落ちる魔石は拾っていた。僅かだが電気の元だ。

 影勝は正面に向かって軽く矢を射る。不可視の壁は見えないので歩いていると顔面を強打して痛い。特に鼻が。

 矢は数メートル飛んだところで何かにあたって地面に落ちた。そこがダンジョンの壁だ。影勝は手を前に突き出しながら進み、不可視の壁に手をついた。


「うーん、触った感じ、いつものダンジョンの壁って感じだけど」

「同じだね」


 影勝は手のひらで、碧はぺしぺし叩きながら壁に触れている。冷たく硬く、その壁の厚さなどが推しくできない、材質も不明な壁だ。


 ※八王子の飲んだくれ:その壁に攻撃できるか?


「攻撃って……」


 ※八王子の飲んだくれ:すげー衝撃を与えてみてーんだよ


「壊れるとは思わないですけど……」


 影勝の脳裏には鹿児島ダンジョンで試射した火龍の鱗の矢が思い浮かぶ。あの大爆発でもダンジョンの壁はびくともしなかった。八王子でも同じかはわからないが壊れないだろうなとの予測くらいはできる。


 ※八王子の飲んだくれ:壁の外からやってくれなー


「外から!?? いやそれはだめでしょ!」


 ※八王子の飲んだくれ:なんだよー、近江ならできんだろー?

 ※綾部巴:金井! お前は何を言ってるんだ?

 ※八王子の飲んだくれ:俺っちは正気だぜー? あの壁が壊れるとすりゃ中からじゃなくって()()()だろって考えるだろー?

 ※高知美人:金井、あなた言動はおきをつけなさい!

 ※加賀百万石:迂闊じゃのぅ

 ※通りがかりの探索者:壁の外ってなんだって話よ

 ※名無しの探索者:壊れるとか、さも当然のごとく何を言ってるんだ?

 ※孤独な探索者:エロフもできそうなことを言ってるのもおかしいぞ?

 ※カツオ大好き:どこぞでうちのギルド長が油売ってるって噂を聞いて駆けつけたら何これ


 初めて見るコメント主もいて、野次馬が増えてきた。壁の外から、という言葉に引っかかっているようなので意識を逸らさねば。


「じゃあ壁に攻撃してみましょうか。スキルはどうしよう。【貫通】はやるとして……」


 ※綾部巴:近江君最大の攻撃でお願いしたい


 綾部からリクエストが来た。影勝と碧は顔を見合わせる。流石にあれ(火龍)はヤバいよね、という暗黙の合意がなされた。


「うーん、では【貫通】と【加速】と【束射】を合わせてみましょうか。あ、【束射】ってのは矢をまとめて射ることができるスキルです。【誘導】スキルと合わせると【ミサイルランチャー】って言われます」


 ※孤独な探索者:ミサイルランチャー?

 ※くすみん推し:アニメのマクロスで見るアレですね

 ※加賀百万石:わしも見とったぞ。当時は何故年上がヒロインなのか理解できんかったが今ならわかる

 ※八王子の飲んだくれ:玄道と加賀のおっさんズなら世代はぴったしじゃね?

 ※高知美人:玄道さんみたいなまじめな人でもアニメを見るのね

 ※くすみん推し:子供の頃は今のように娯楽があふれてるような状況ではありませんでしたし、学校での話題にもなりましたし

 ※加賀百万石:わかります、わかりますぞ!

 ※八王子の飲んだくれ:おっさんども、それは酒の席でやってくれ

 ※高知美人:あなたも十分おっさんよ!


 コメントが飲み会のようになってきた。アルコールが入っていまいな?

 苦笑しながらも影勝は弓と十本の矢を手に持つ。


「あ、これは鉄の矢です。普通の」


 ※孤独な探索者:束ってマジ束なのなw

 ※通りがかりの探索者:どうやって射るんだよw

 ※探索者18号:うちにも弓使いがいるからこれ見ろって連絡するわ


「疑問はごもっともです。実際に矢を放つ自分でも納得できていません」


 影勝だってそれはスキルだから、と思っている。物理的に無理でもスキルならできるのだ。

 壁の前の地面に矢を突き刺し、境界が分かるようにする。壁から十メートルほど離れ、壁に向く。碧はカメラを三脚に固定し、両手で耳をふさいだ。


「今回は十本の矢は収束させます」


 影勝は矢の束を番え、全力で弦を引く。息を止め手を離す。

 スキル【加速】で加速された矢は弓を離れた瞬間、一条の光が鼓膜を破りかねないほどの轟音と共に壁に激突した。ゴゴゴドォォォォンと落雷に似た残響がダンジョンに広がっていく。


 ※探索者18号:うぉぉぉぉなんじゃこの音は!!

 ※孤独な探索者:轟音でタブレットが震えたんだけど?w

 ※通りがかりの探索者:ぎゃぁぁ耳が、耳が!

 ※名無しの探索者:イヤホン外す警告は欲しかった耳がタヒんだ


 やりすぎたらしい。

 矢は衝撃で圧縮されペシャンコになって地面に落ちた。不可視の壁はやはり不可視のままだ。影勝は壁に歩いていく。矢が当たったあたりを手で撫でたがヒビ一つ見つけられない。滑らかすべすべいつまでも触れていたい気持ちよさだ。


「これくらいじゃ何ともないですよね。以前はもっとやばいやつをぶつけたんですけど壊れませんでしたし」


 ※通りがかりの探索者:平然と壁を触ってやがる

 ※探索者18号:こ、これが(特)……

 ※孤独な探索者:矢の威力じゃねえw

 ※八王子の飲んだくれ:まぁこのくらいじゃ壊れねえよな

 ※くすみん推し:このくらいなら私でも出来ますしね

 ※綾部巴:米軍や人民解放軍はもっと派手にやったろうが壁が壊れたなど聞いたことはない

 ※防衛省迷宮探索庁二瓶:下手な対戦車ミサイル(ATM)よりも高威力ですね。街中では自重をお願いします

 ※名無しの探索者:ギルド長達の認識がおかしい

 ※エミちゃん:熊本じゃえみちゃんたちのはもっとやばかったし、死ぬかと思ったし

 ※ヨワヨワ弓使い:見ろって言われて見に来たけど見たってなにもわからないじゃん!

 ※探索者18号:まーそうだな

 ※ヨワヨワ弓使い:結局はスキルなのよ!

 ※八王子の飲んだくれ:あーそこ、仲良くやれな?


 カオスだ。


「壁はやっぱり壊れないと思いますけどー」


 影勝の率直な感想だ。意味のないことはやめてほしい。


 ※八王子の飲んだくれ:今度は上だなー。天井があるのか知りたい


「天井ですか」


 壁があれば天井もあるだろう。天井がなければ空を飛ぶダンジョン外のモンスターが中に入っててもおかしくない。外のモンスターを知っている影勝はそう見なしている。


 ※高知美人:過去に米軍が調べてるわね、確かなかったはず

 ※防衛省迷宮探索庁二瓶:自衛隊でも調査はしましたが、天井の確認はできませんでしたね

 ※綾部巴:米軍の()()()()は天井の確認はできなかった、だったな

 ※加賀百万石:ないわけではないじゃろうなぁ

 ※くすみん推し:ダンジョンの大きさから考えると高さも五〇〇〇メートルあると考えても良いとは思います

 ※八王子の飲んだくれ:上空五〇〇〇メートルまで歩いて行ってくれー

 ※孤独な探索者:おいおいおい、なんか無茶なこと言いだしたぞこのギルド長

 ※通りがかりの探索者:人間は空を歩けない……はずだよな?

 ※金沢のコメはうまい:ウチ(金沢)のギルド長は歩けるよ!

 ※エミちゃん:影っちは歩けるんだなー

 ※通りがかりの探索者:だれだよこのエミちゃんてのは

 ※エミちゃん:旭川のボンバーちゃんだよ!

 ※孤独な探索者:いや知らねーし


「あー、エミちゃんってアカウントはたぶん、旭川での同時期に探索者になった女の子で桜島噴火の際に、碧さんと一緒に救助やらでいろいろ駆け回ってました」


 ※くすみん推し:その節は大変お世話になりました、皆さんは息災でしょうか

 ※エミちゃん:みーんなげんきー! 

 ※高田製作所:元気でよかった

 ※エミちゃん:麗奈っちさんだ元気ー?

 ※高田製作所:麗奈は元気

 ※エミちゃん:そっかー、経過はどうー?

 ※高田製作所:順調

 ※エミちゃん:よかったじゃーん!

 ※綾部巴:堀内君近くにいるのだろう、彼女を止めたまへ


「ギルド長、そこは直接連絡してくださいよ……」


 配信で指示を出すのはどうなのか。さすがに影勝も苦言を申したくなる。 

 しかし、何の経過だろうか。



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