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年賀状に隠したアイコトバ

作者: 城河 ゆう

「……は? 私宛に年賀状?」


 年末年始で帰省していた私がこたつでトロケていると、「外寒っ」と言いながらコタツに飛び込んできた母が数枚のハガキを確認して、その内の一枚を差し出してきた。


「そうそう、ちゃんと宛名がアンタになってるよ」

「LINEで済まさずにわざわざ年賀状送ってくるような子いたかな……」


 高校生くらいまでは、イラストを描いたりして仲のいい数人に出す事もあったけど、大学も卒業して社会人になり、もう何年も年賀状のやり取りなどしていない。


 首を捻りながらハガキを裏返すと、そこには横向きに大きく印刷された『謹賀新年』の文字と……埋め尽くさんばかりにプリントされた大量のイラストだけで、差出人の名前はなかった。


 --でも。


「……母さん、ちょっと出掛けてくる」

「雪もちらついてたから、厚着して行きなさいよ~」


 コタツにもぐり込んでヒラヒラと手を振る母をしり目に支度を整え、うっすらと白くなった道を歩いて行く。


 初詣の参拝客でごった返す神社を通り過ぎ、そのまま裏手の山に入ってしばらく歩くと、視線の先に“ソレ”が見えてきた。


「……『ふゆといえば?』」

「『こたつとみかん!』……久しぶり、ハルカ」


 木と木を繋ぐようにロープを通し、布やビニールシートをテントのように張っていた人影に声をかけると、楽しそうに笑いながら名前を呼ばれる。


「ハルト……あんたさぁ、私がアレの読み方忘れてたらどうするつもりだったの?」

「ちゃんと来てるじゃん。 “合言葉”も覚えてたし」


 コロコロと笑うハルトとは、いわゆる幼馴染みだ。


 大学が離れて疎遠になるまでは一緒にいる事も多く、周りからはよく“夫婦”とか言ってからかわれたものである。


「ど真ん中に鏡餅みたいなビジュアルで“こたつとみかん”が描かれてたら嫌でも思い出すよ」

「暗号の方は?」

「何年使ってたと思ってんの?」


 ジト目を向ける私に「たしかに~」と楽しそうに笑って見せるハルトだったが、急に真面目な顔になってゆっくりと口を開いた。


「……じゃあ、答えも聞きたいな」


 年賀状に隠されてた言葉は2つ。


 1つは、沢山のイラストの一番小さい物の頭文字を左から読んだ時の「ひみつきち」と--


「まぁ……それも、良いかなぁ、とは思うよ?」


 真ん中の“こたつとみかん”を除いて一番大きい“柿、象、栗、人参、茄子、蝋燭、兎”--




 --新年を迎えた今日。



 私達は、互いに姉弟(兄妹)のようだった関係から、一歩踏み出す決意をしたのだった。

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