表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックワームは書架へ潜る  作者: くれは
第十六章 凍刃の二足翼竜(ウィヴェルヌ・フォルジェ・パル・レ・グラシエ)
99/105

99 吹雪の中の戦い

 空の上で、リオンの乗った疾風の大鷲(ゲール・イーグル)と|凍刃の二足翼竜《ウィヴェルヌ・フォルジェ・パル・レ・グラシエ》がぶつかり合う。

 お互いが生み出す風がぶつかり合って、周囲は嵐のようにめちゃくちゃに風が吹き荒れていた。その風の中、大鷲(イーグル)二足翼竜(ワイバーン)はどちらも譲ることなく、空の王者は自分であると知らしめるように羽ばたいていた。

 大鷲(イーグル)の風が二足翼竜(ワイバーン)の翼を邪魔すれば、二足翼竜(ワイバーン)の風が大鷲(イーグル)の羽根を散らす。散った羽根は吹雪とともに、吹き荒れる風に乗って宙を舞った。


(大丈夫、この傷は表面だけだ)


 大鷲(イーグル)の背で、リオンは落ち着いて状況を見据える。二足翼竜(ワイバーン)の体は大鷲(イーグル)より一回り大きい。力も強く速い。

 それでもリオンは、二足翼竜(ワイバーン)の動きをなんとか押さえることに成功していた。

 大鷲(イーグル)の生み出す風を二足翼竜(ワイバーン)が生み出す吹雪にぶつけて、その威力を受けないようにすること。それから、その鋭い鉤爪の攻撃をかわすこと。

 そうやって翻弄しながら、二足翼竜(ワイバーン)への反撃の機会を伺っていた。


(どうやって攻撃する……どうやったら動きを止められる)


 主張してくる足の痛みを頭の外に追いやって、リオンは二足翼竜(ワイバーン)への攻撃を考える。

 鋼刺の山荒メタルソーン・ポーキュパインの棘は、この嵐のような風の中では二足翼竜(ワイバーン)には届かない。届いたとしても、小さすぎる。よほど良い位置に刺さらなければ、二足翼竜(ワイバーン)を傷つけることはできないだろう。


大鷲(イーグル)の鉤爪で二足翼竜(ワイバーン)の喉を捉まえられるか?)


 迫ってくる二足翼竜(ワイバーン)の鉤爪を避けて、大鷲(イーグル)は舞い上がる。今度は大鷲(イーグル)が急降下して二足翼竜(ワイバーン)に迫る。

 二足翼竜(ワイバーン)は吹雪を生み出して、大鷲(イーグル)と距離をとった。空中で、お互いに風をまとって睨み合う。

 吹雪で視界が悪い中、リオンは視線をちらと地上に向けた。そこではセティがセティの写し(コピー)と槍をぶつけ合っている。


(せめてセティくらいの武器があれば……)


 リオンは目を細めてセティの様子を見て、またすぐに二足翼竜(ワイバーン)に目を向けた。二足翼竜(ワイバーン)がその大きな体で迫ってくる。

 大鷲(イーグル)は風を生み出してその勢いを弱め、体を斜めにして二足翼竜(ワイバーン)を避ける。


(そうか、武器か……)


 リオンはもう一度、地上を見た。白い雪の上で戦う、黒い染みのような二冊。その姿を捉えて、頭の中で動きを組み立てる。


   ◆


 セティはセティの写し(コピー)と槍を打ち合わせていた。二冊とも、どちらも譲ることはない。

 さっきまでは音迷の跳鳴虫グリヨン・ドゥ・リリュゾン・ソノールの知識で写し(コピー)を翻弄するセティがわずかに有利に立っていたが、それも|凍刃の二足翼竜《ウィヴェルヌ・フォルジェ・パル・レ・グラシエ》が開かれるまでのこと。今は吹き荒れる吹雪の音にかき消されて最初ほどの効果を出せなくなっていた。

 吹雪で視界が悪くなっているのも、足元が雪で動きにくいのも、力を出しきれない理由だった。もっとも、それは写し(コピー)も同じことで、今も動きにくそうに雪を踏みしめている。

 その二冊の輪郭が、吹雪の中でぼんやりと光って曖昧になる。限界が近いことは、お互いにわかっていた。それでも、攻撃する手を止めることはできない。

 セティが踏み出して槍を突き出せば写し(コピー)は体をひねってかわし、写し(コピー)が槍を振り回せばセティはそれを槍で受け止める。そんな攻防がもうずっと続いていた。

 真っ黒い髪に白い雪の塊がくっついては、動きに合わせて散ってゆく。

 不意に、風が強くなって、二冊は膝を曲げて体を沈めた。吹き付ける雪に腕で顔を覆う。動きを止めた二冊の頭上すれすれを大鷲(イーグル)が飛ぶ。


「セティ! お前が二足翼竜(ワイバーン)をやれ!」


 リオンの声に、セティは顔をあげる。大鷲(イーグル)の背に乗ったリオンと目が合う。その一瞬で、セティはリオンの期待を理解した。

 低く飛ぶ大鷲(イーグル)を追いかけて、二足翼竜(ワイバーン)も地上に迫ってくる。その鉤爪を避けた大鷲(イーグル)は、空中で旋回してまた低く飛ぶ。一度上昇した二足翼竜(ワイバーン)もまた、首を地上に向けた。


(つまり、二足翼竜ワイバーンが地上に降りてきたところを攻撃しろってことか)


 写し(コピー)の相手をしながら、二足翼竜(ワイバーン)の相手もしろと、リオンは言っている。それでもセティは無茶だと思わなかった。

 きっと自分ならできると、そう感じた。

 大鷲(イーグル)二足翼竜(ワイバーン)が地上に近くなって、風もより強くなった。セティと写し(コピー)のさらさらとした黒い髪が、風になぶられて乱れ舞う。

 写し(コピー)が足を踏み出す。槍の穂先がセティに届く。それをセティはぎりぎりでかわした。

 大鷲(イーグル)がまた頭上を飛ぶ。それに合わせてセティは踏み込んで槍を突き出す。写し(コピー)は槍を引いて、その柄でセティの槍を弾いた。セティはさらに踏み込む。

 吹雪が強くなる。二足翼竜(ワイバーン)大鷲(イーグル)を狙って地上に降りてくる。吹き付ける風に、写し(コピー)は膝を曲げて姿勢を低くした。

 セティは雪を蹴って、その写し(コピー)の肩を踏んだ。写し(コピー)の体を踏み台にして、より高く跳ぶ。

 地上へ向かって滑空してくる二足翼竜(ワイバーン)、その鉤爪を大鷲(イーグル)はかわす。そして、大鷲(イーグル)の影からセティが、二足翼竜(ワイバーン)の腹を狙って槍を突き上げた。


雷光の羊(ムトン・エクレル)!」


 トドメとばかりに、槍を通して雷を流し込む。

 二足翼竜(ワイバーン)は首をもたげ、咆哮した。傷口から、黒い液体が吹き出す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ