第六十六話 ユウキ&ノイシェvsシグマ
上には歳の離れた兄と姉が1人ずつ。私は継承権第三位の資格を持って生まれた。
兄も姉も改革派の人間で、今の帝国を変えるために生きている。彼らが改革派なのは彼らの母親、第一皇妃の影響だ。第一皇妃は改革派の人間で、息子たちに今の帝国の醜悪さを吹き込んでいたそうだ。
第一皇妃が病で没し、二番目に皇帝に嫁いだ女から私は生まれた。母は強い保守派の人間だった。
兄と姉が率いる改革派と、母が率いる保守派は血みどろの政争を始める。私は母にとって最強の政治の手札。私が皇帝に就けば保守派が国を制する。私は皇帝になるべく、多くのことを教えられた。
異種族は獣だ。
他国の人間は全て敵だ。欺き、取り入ることはしても信用してはならない。
己を信じろ。最後に信じられるのは自分だけ。
その教えは正しかった。私に優しくしてくれていた庭師は私を殺すために潜伏していた暗殺者だったし、三度料理に毒を盛られたことがある(全部毒見役が防いでくれた)。身分関係なく私と友達になってくれた子も、結局は改革派の刺客だった。
守護騎士のスカイラーはいつもこう言う。
「貴方は選ばれた人間なのです。皇帝になるべくして生まれた存在。決して、他人に自分の手綱を握らせてはなりません」
他者を信じれば己を見失う。自分だけが全て。私は自分だけを信じる。
――なんて、かっこつけているだけだ。
私は怖い。ただ他人を信じるのが怖い。
幼い時から、周囲の人間は私を天使か悪魔かでしか見ていない。保守派からは天使として見られ、改革派からは悪魔として見られた。
違う……私はそんな大それた存在じゃない。
人間なのだ。酷く、弱く、つまらない人間――それがノイシェ=ラヴァルティアだ。ただ誰かを信じる強さがないだけ。信じて裏切られるのが怖いだけ。信じられて裏切るのが怖いだけ。
落胆されたくない。ただの人間なクセに、天使でも悪魔でもないただの人間だなと呆れられるのも嫌だ。
何もかも嫌だ。わがままな子供のよう。自分の性が心底嫌になる。
---
タワー型人工迷宮スザク・Dルート・第5階層。森林(夜)ステージ。
ユニークスキル『自己封印』を持つユウキ、
ユニークスキル『蒼炎』を持つノイシェ、
ユニークスキル『麒麟』を持つシグマ。
3人の戦いが始まる。
「“雷装・裂手”」
シグマは両手に雷の鉤爪を纏う。
「“蒼炎の灯火”!」
ノイシェは騎士剣に蒼い炎を纏う。
ノイシェとシグマが同時に駆け出す。
「フェンリル!!」
ユウキはフェンリルに乗り、シグマの背後へ回ろうと迂回する。
ノイシェとシグマは剣と鉤爪を激しくぶつけ合う。蒼い炎と雷が散っていく。差は歴然で、徐々にノイシェが押され始める。
「君の首を取れば、任務完了だ姫様」
「くっ!!」
ユウキは無言で、シグマの背中に奇襲をかける。シグマはユウキの方も見ずに右手の鉤爪でフェンリルの突進を防御した。
「はははっ! いいね! もっと楽しませてくれよ!」
「ノイシェ様! 呼吸を合わせてください!!」
「命令しないで!!」
ユウキとノイシェは連携を取りながらシグマを攻撃する。しかしシグマは簡単に2人の攻撃を捌く。
「屈辱だわ」
「え?」
戦いの最中、ノイシェが呟いた言葉をユウキは聞き逃さなかった。
ユウキとノイシェは一度呼吸を整えるため、シグマから距離を取る。
「……どうして、私を庇ったの?」
「なんのことですか?」
「さっき! 私をそこの犬で突き飛ばしたでしょ! 身を挺して私を助けたつもり? 馬鹿にしないで!!」
「馬鹿になんかしていません。私はただ……」
「私は1人で戦える! 邪魔をしないで!」
ユウキは、強情なノイシェの背中に過去の自分の姿を重ねた。
(そっか。どうしてこの人を見てるともどかしい気持ちになるのかわかった。私に似ているんだ……封印のせいで、誰にも頼ろうとせず、1人で全てと戦おうとしてた昔の私に……)
皇女として、高い成績を、能力を求め続けられたノイシェ。貶され一切の期待をされなかったユウキとは真逆とも言える環境ではあるものの、他者に頼ることができないという点は同じだった。他者に頼らなかったからこそ、凝り固まってしまった独りよがりのプライド。
信用することへの恐れ、信用されることへの恐れ。ユウキは痛いほど理解できる。
ユウキはノイシェの背中を掴む。
「何よ!」
「協力しましょう」
「そんなのするわけ――」
パチン。と音が響いた。
ユウキは、ノイシェの右の頬を――叩いた。
【読者の皆様へ】
この小説を読んで、わずかでも
「面白い!」
「続きが気になる!」
「もっと頑張ってほしい!」
と思われましたらブックマークとページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとうれしいです! ポイント一つ一つが執筆モチベーションに繋がります!
よろしくお願いしますっ!!




