第五十八話 アイテムボックス
異空間を作成し、そこへあらゆるモノを収納するユニークスキル、『収納空間』。俺は現在、その『収納空間』とやらに収納されてしまった。
敵――ヨスガ堂長の武器は大鎌グリムリーパー。その効果は『一振りするごとに5年老化する代わりに強大な破壊力を持つ』というモノ。ヨスガ堂長は理由はわからんが不老であるため、実質ノーリスクであの鎌を操れる。
俺は影ダンザの鱗を刀で斬れなかった。だがあの鎌は俺の鱗を斬った。つまり、神竜刀の切れ味はグリムリーパーに劣る。下手に刃を合わせるのは危険。
俺は鎌の攻撃を躱し、隙を見て前に出る。
「“光填・八爪撃”」
「むっ!」
一瞬で八連撃を喰わらせる技。ヨスガ堂長は避けきれず、二撃だけ左腕に受けた。赤い血が飛び散る。
「ワシでも避けきれぬとはな……!」
二撃は当たった、なのに掠り傷程度。俺ほどじゃないが高い耐久を持っている。
ヨスガ堂長は抜刀術を恐れ、距離を取る。そのタイミングで、俺はフードを被りスカルリザードマンになった。
(“滅・竜炎砲”!!!)
口から灼熱の炎を吐く。ブレスの攻撃範囲は湖を焼き尽くすほどだ。
燃焼ブレスだけはアルゼスブブ戦でコツを掴んだ。これは避けきれないはず。
炎の渦が堂長を飲み込み……、
――パチン。
「?」
今の音は……?
何か起きたわけじゃない。炎の渦により俺の目の前の景色は焦土と化した。
フードを脱ぎ、ブレスの跡を見る。
「ん?」
炎が通った跡、そこには何も残っていなかった。ヨスガ堂長の姿も、あの大鎌もない。
溶けた?
いやさすがにそれはない。手応えが無さ過ぎる。最悪でもグリムリーパーは残っているはずだ。
「っ!」
俺は後ろから殺気を感じ、屈む。鎌の一撃が頭上を通った。
「ナイス回避じゃ。やはり恐ろしいな、その危機察知能力は!!」
「いきなり後ろに……!!」
ここは遮蔽物がない。俺の背後に回ったなら必ず視界に入るはず。
俺の眼で追えないほどの速度で動いたのか。いや、雷すら目で追えるのに一切影すら見えないなんてありえない。
ならば、
「瞬間移動ですか」
「うむ」
堂長の『収納空間』はあらゆるモノを収納し、自由に引き出すユニークスキルだ。
収納した物体は恐らく、堂長の好きな場所に配置できる。
ならば、だ。
この世界にあるモノを一度現実世界に戻し、もう一度収納することでこの世界に限り、瞬間移動紛いのことができるのではないだろうか。
「……この空間で、あなたに勝つのは不可能じゃないですか?」
「今更気づいたか」
神出鬼没。さらに一撃必殺の鎌。ステータスもバカ高い。
今の俺の手持ちでこれを倒すのは難しい。
「脱出ルートを探した方がいいですね」
「それが賢明じゃな」
となると、空間からの脱出を目指す他ない。
これだけ凶悪な空間だ。何かしらのデメリット、脱出条件があるはず。
そもそも俺をどうやってここへ収納した? この空間に入った時、俺は彼女に接触していない。距離は10メートルほどあった。指を鳴らし、それを聞かせるのが条件か? それだけじゃ条件として物足りない気もするが……。
そうか――もしかして。
「……ははっ!」
つい、俺は笑ってしまった。
何を脱出方法なんて考えている。これだけの強者が目の前にいるのに、この場から逃げるなんて愚の骨頂。愚か者の行いだ。
「? 何を笑っておる?」
「いや、自分の愚行に対してつい笑っちゃいました。こんなチャンス、不意にするのはもったいない」
全力を出せる相手なんて早々巡り合えるもんじゃないんだ。ちゃんと真っ向勝負しなきゃもったいない。
「やめだ。前言撤回しますよ堂長……この空間で、あなたを倒す」
小細工はやめだ。
(得意分野でゴリ押す!)
俺のステータスで強力なのは耐久力と……もう一つ。
「よーい、ドン!」
俺は全速力で動き出す。
「ぬっ!!」
あっという間に20メートルの距離を詰め、ヨスガ堂長に斬りかかる。ヨスガ堂長は指を鳴らし、姿を消す。
(やはり、指を鳴らすのが現実と異空間を行き来する条件!!)
引き出しと収納を活用し、疑似的に瞬間移動をしているのなら、いま、この一瞬、ヨスガ堂長は外の世界にいる。本当に僅かな時間だが、俺を見えていない時間があるはずだ。
その一瞬でジャンプし、ガス袋に魔力を込め、ブレスの準備をする。
これで地上のどこに現れてもブレスで狙い撃てる。スカルリザードマンではないからダメージは少ないだろうけど。
「!?」
堂長が、現れない?
(上か!?)
気配が背後にする。
「わかりやすい奴じゃのう」
勝った。と俺は心の内で呟き、ブレスを地上に向かって吐く。
ブレスの反動を敢えて堪えず、俺はブレスの反動で飛びあがり、背後にいた堂長に背中からぶつかる。
「ぬおっ!? ブレスの反動を利用して――!!」
影ダンザと戦った時にブレスの反動を利用できると知った。下に現れればブレスで狙い撃ちにし、上に現れればブレスの反動で捕まえる。この作戦に死角はない。
俺の背中と堂長は密着している。この間合いじゃ鎌は振れない。俺はそのまま尻尾で堂長の右手を押さえ、刀を持ってない左手で堂長の左手を押さえる。
「これで指は鳴らせませんよ」
「こりゃ一本取られた」
そのまま空から地上へ落ちる。俺は体勢を変え、完全な形で堂長を組み伏せる。
「やれやれ、天晴じゃ。ワシの負けじゃな」
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