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神竜に丸呑みされたオッサン、生きるために竜肉食べてたらリザードマンになってた  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三章 カムラ聖堂院

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第五十八話 アイテムボックス

 異空間を作成し、そこへあらゆるモノを収納するユニークスキル、『収納空間(アイテムボックス)』。俺は現在、その『収納空間(アイテムボックス)』とやらに収納されてしまった。

 敵――ヨスガ堂長の武器は大鎌グリムリーパー。その効果は『一振りするごとに5年老化する代わりに強大な破壊力を持つ』というモノ。ヨスガ堂長は理由はわからんが不老であるため、実質ノーリスクであの鎌を操れる。


 俺は影ダンザの鱗を刀で斬れなかった。だがあの鎌は俺の鱗を斬った。つまり、神竜刀の切れ味はグリムリーパーに劣る。下手に刃を合わせるのは危険。


 俺は鎌の攻撃を躱し、隙を見て前に出る。


「“光填・八爪撃”」

「むっ!」


 一瞬で八連撃を喰わらせる技。ヨスガ堂長は避けきれず、二撃だけ左腕に受けた。赤い血が飛び散る。


「ワシでも避けきれぬとはな……!」


 二撃は当たった、なのに掠り傷程度。俺ほどじゃないが高い耐久を持っている。

 ヨスガ堂長は抜刀術を恐れ、距離を取る。そのタイミングで、俺はフードを被りスカルリザードマンになった。


(“(めつ)竜炎砲(りゅうえんほう)”!!!)


 口から灼熱の炎を吐く。ブレスの攻撃範囲は湖を焼き尽くすほどだ。

 燃焼ブレスだけはアルゼスブブ戦でコツを掴んだ。これは避けきれないはず。


 炎の渦が堂長を飲み込み……、


――パチン。


「?」


 今の音は……?


 何か起きたわけじゃない。炎の渦により俺の目の前の景色は焦土と化した。

 フードを脱ぎ、ブレスの跡を見る。


「ん?」


 炎が通った跡、そこには何も残っていなかった。ヨスガ堂長の姿も、あの大鎌もない。

 溶けた?

 いやさすがにそれはない。手応えが無さ過ぎる。最悪でもグリムリーパーは残っているはずだ。


「っ!」


 俺は後ろから殺気を感じ、屈む。鎌の一撃が頭上を通った。


「ナイス回避じゃ。やはり恐ろしいな、その危機察知能力は!!」

「いきなり後ろに……!!」


 ここは遮蔽物がない。俺の背後に回ったなら必ず視界に入るはず。

 俺の眼で追えないほどの速度で動いたのか。いや、雷すら目で追えるのに一切影すら見えないなんてありえない。

 ならば、


「瞬間移動ですか」

「うむ」


 堂長の『収納空間(アイテムボックス)』はあらゆるモノを収納し、自由に引き出すユニークスキルだ。

 収納した物体は恐らく、堂長の好きな場所に配置できる。

 ならば、だ。

 この世界にあるモノを一度現実世界に戻し、もう一度収納することでこの世界に限り、瞬間移動紛いのことができるのではないだろうか。


「……この空間で、あなたに勝つのは不可能じゃないですか?」

「今更気づいたか」


 神出鬼没。さらに一撃必殺の鎌。ステータスもバカ高い。

 今の俺の手持ちでこれを倒すのは難しい。


「脱出ルートを探した方がいいですね」

「それが賢明じゃな」


 となると、空間からの脱出を目指す他ない。

 これだけ凶悪な空間だ。何かしらのデメリット、脱出条件があるはず。

 そもそも俺をどうやってここへ収納した? この空間に入った時、俺は彼女に接触していない。距離は10メートルほどあった。指を鳴らし、それを聞かせるのが条件か? それだけじゃ条件として物足りない気もするが……。

 

 そうか――もしかして。


「……ははっ!」


 つい、俺は笑ってしまった。

 何を脱出方法なんて考えている。これだけの強者が目の前にいるのに、この場から逃げるなんて愚の骨頂。愚か者の行いだ。

 

「? 何を笑っておる?」

「いや、自分の愚行に対してつい笑っちゃいました。こんなチャンス、不意にするのはもったいない」


 全力を出せる相手なんて早々巡り合えるもんじゃないんだ。ちゃんと真っ向勝負しなきゃもったいない。


「やめだ。前言撤回しますよ堂長……この空間で、あなたを倒す」


 小細工はやめだ。


(得意分野でゴリ押す!)


 俺のステータスで強力なのは耐久力と……もう一つ。


「よーい、ドン!」


 俺は全速力で動き出す。


「ぬっ!!」


 あっという間に20メートルの距離を詰め、ヨスガ堂長に斬りかかる。ヨスガ堂長は指を鳴らし、姿を消す。


(やはり、指を鳴らすのが現実と異空間を行き来する条件!!)


 引き出しと収納を活用し、疑似的に瞬間移動をしているのなら、いま、この一瞬、ヨスガ堂長は外の世界にいる。本当に僅かな時間だが、俺を見えていない時間があるはずだ。

 その一瞬でジャンプし、ガス袋に魔力を込め、ブレスの準備をする。

 これで地上のどこに現れてもブレスで狙い撃てる。スカルリザードマンではないからダメージは少ないだろうけど。


「!?」


 堂長が、現れない?


(上か!?)


 気配が背後にする。


「わかりやすい奴じゃのう」


 勝った。と俺は心の内で呟き、ブレスを地上に向かって吐く。

 ブレスの反動を敢えて堪えず、俺はブレスの反動で飛びあがり、背後にいた堂長に背中からぶつかる。


「ぬおっ!? ブレスの反動を利用して――!!」


 影ダンザと戦った時にブレスの反動を利用できると知った。下に現れればブレスで狙い撃ちにし、上に現れればブレスの反動で捕まえる。この作戦に死角はない。

 俺の背中と堂長は密着している。この間合いじゃ鎌は振れない。俺はそのまま尻尾で堂長の右手を押さえ、刀を持ってない左手で堂長の左手を押さえる。


「これで指は鳴らせませんよ」

「こりゃ一本取られた」


 そのまま空から地上へ落ちる。俺は体勢を変え、完全な形で堂長を組み伏せる。


「やれやれ、天晴じゃ。ワシの負けじゃな」

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