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ショートストーリー2

「リア充爆発しろぉぉぉぉぉおおおおお!!!!」



 ヒノモト国レイル諸島にある港の一つには大きな軍船が泊まっていた。それは世界最大の船であることは間違いない。海洋国家であるヒノモト国が国の威信をかけて作り上げたとも、魔王がその趣味を全力で注いだともいわれる最高傑作である。

 海上戦闘においてこの船に勝てるものはいないとされ、それが軍船団であろうが魔物の群れであろうがなす術なしとも言われている。さらには甲板にはウインドドラゴンや怪鳥ロックが降り立つことのできる広さを持ち、空母としての役割も行うことのできるほどの船であった。もちろん周囲には他に数隻の船が同行しており、普段は船団を組んでの航行を行っている。

 その甲板の上で爆発する魔法と、その爆風から逃れるワイバーン、それを見ながらため息をつく船員たちがいた。


「また始まったね」

「シン様。船に影響がないように向こうでやってもらえるように進言していただけますか?」

「テツ兄なら船は壊さないよ。大丈夫。……たぶん」


 世界最大の船であるライクバルト号の上で繰り広げられるのはいつものあれである。


「馬鹿野郎! リア充じゃなくて、妻が妊娠中の寂しい男だと言っているだろうが!」

「それはリア充飛び越してもはや幸せな家庭築いてるじゃねえかアホンダラぁ!」


 半分涙目で叫ぶ魔王に対して同情を向ける者などいない。そもそも魔王テツヤ=ヒノモトが何故怒っているのか理解できないものも多かった。


「お前も幸せな家庭を築けばっ……って、うぉい! さっきのは危なかったぞ!」

「当たらなければどうということはないっ!」

「それは三倍速い避ける方が言うセリフだっ!」


 相手は「大召喚士」ハルキ=レイクサイド。レイクサイド領主にして先の大戦の功労者の一人でもある。何故ここにいるかというと、イツモノヨウニ逃避行である。今回は妊娠した妻セーラ=レイクサイドが構ってくれないという、前回とだいたい同じ感じだった。


「さあて、落ち着くまでに数十分はかかるから。その間に南に向かう準備をするよー」

「アイアイサー」


 ライクバルト号の船員はいつも通り平常運転である。そこに一頭のウインドドラゴンが上空からやってきた。普段からライクバルト号にウインドドラゴンが着陸する際には連絡が入ることになっている。この時もすでにシン=ヒノモトのもとにはフラン=オーケストラから一人の親衛隊が向かったという事が知らされていた。しかし、そんな事を大召喚士は知らない。


「まずいっ! 誰だ!?」


 大召喚士の叫びと狼狽ぶりをを隙ととらえた魔王が、乗っていたワイバーンに斬りかかる。しかし、反対に大召喚士の召喚した無数のノームにまとわりつかれて海へと落下していった。

 ドボーンという間抜けな音とともにもう一度上空を見るも、そこには先ほどまでいたウインドドラゴンはおらず、すでに召喚者の姿はない。


「あのう、ハルキ様」


 気づけば真後ろに一人の騎士が乗っていた。びくっとして振り返るハルキ=レイクサイドに対して手慣れた様子で縄を取り出すショート=オーケストラ。なす術なくグルグルと巻かれながらハルキは叫ぶ。


「またお前かぁぁぁぁぁああああ!!!?」


 たしかに彼がハルキ=レイクサイドの逃亡を阻止できた回数は0である。しかし、逃亡先で領主を捕まえるランキングは第一騎士団についで二位まで上がってきていた。それもこの半年で急速に。


「捕縛命令がでております。このまま領主館へと連行……いえ、今回はちょっと違うようですね」

「えぇ!?」

「捕縛したまま次の命令を待てって書いてあります」


 ぴらっと指令書を見せてどうしようかと思案するショートであったが、とりあえずはライクバルト号へ着陸するようにとハルキの召喚したワイバーンへお願いするのだった。




 ***




「へえ、面白い奴だな。それで、どこにいるんだ?」

「私はここにおります。お初にお目にかかります、魔王テツヤ=ヒノモト様」

「うぉっ!? 気づかなかった!」


 ライクバルト号の船室で経緯を聞いたテツヤは存在感なくハルキ捕縛の報告を魔道具でしているショートに驚く。基本的に変装していても魔力の違いで見破ることすらできるテツヤがこれであるためにショートの特性はかなりのものだった。


「それで? 爺はなんだって?」

「目標地点の座標が示してありますね。かなり南のようですが……」


 ショートは地図を取り出すとその座標へと指でなぞる。その指は明らかにヴァレンタイン大陸を越えて南へと向けられていた。


「南の大陸か?」

「本気で言っているんですかね? 私はまだ目的を知らされていないのですが」

「面白そうじゃねえか」


 ハルキ=レイクサイドは一度、最果ての南の大陸へ行ったことがある。その時はシウバとユーナと三人であったが、滞在時間も短くすぐに北へと向けて旅立った。かなりでかい竜がいたような気がするが、あまり記憶がさだかではないハルキは何かを言おうとしてやめた。


「基本的に人間がいていい大陸ではないと聞いていますが?」

「まあ、爺なら大丈夫なんじゃねえのか?」

「おい、俺も行くぜ!」


 少し、話しが噛み合っていないような気がするとショートは思う。そもそもなぜ逃避行した領主を最果ての南の大陸なんて危ない場所に連れて行かなければならないのだ。親衛隊の職務とは真逆である。しかし命令は命令だった。


「あ、そういえば……」


 何かを思い出したようにハルキ=レイクサイドがつぶやいた。


「ユーナがケルビムに聞いたって言ってた素材が見つかったのかもしれないな」




 ***




「スコルピオの涙? いえ、そもそもサソリには涙腺があるのですか?」

「いやお前、そんな真面目な話じゃなくて涙状の結晶かなんかだと思うんだが」

「なるほどな! その魔物が生息するのが最果ての南の大陸なのか! 面白そうじゃねえか」


 旅行の準備をしてウインドドラゴンで飛び立とうとすると、案の定魔王テツヤ=ヒノモトがやってきて一緒に行くという。あ、別働隊が二人か三人ってこういう事かとショートは思った。


「しかし、ウインドドラゴンが召喚できるとはショートは優秀なんだな」

「いえ、テツヤ様。私はあまり優秀なほうではなくてですね。特にハルキ様の逃避行を阻止することは一度もできていないのですよ」

「逃避行の阻止だけが任務じゃねえとは思うが……。まあ、フランとかフィリップとか、オーケストラ家には優秀な人材が揃ってんだな」

「あの方々と比較されると、申し訳ない気分になります」


 第一将軍「鉄巨人」フィリップ=オーケストラとショートは従弟にあたる。フランは前述したとおり祖父の弟であった。


「いや、こいつさ。フランが次の親衛隊長にって考えてるくらいだから」

「へぇ、やっぱな」

「そんなわけがないでしょう。私はコネで親衛隊に参加させていただいている身です。オーケストラ家という家柄がなければおそらくは召喚騎士団にすら入ることもできなかったのではないかと」


 やけに自己評価の低いショートに対してハルキはそれ以上言わず、「こういうやつなんだ」とテツヤに一言だけ言った。テツヤもなんとなく状況を把握して「なんでお前のところの奴らはこんな濃ゆいキャラのやつばかりなんだ?」と聞くが返答はなかった。


「さて、では急ぎますよ。すでにフラン様たちの隊は直線距離で向かっているようですので」


 ショートのウインドドラゴンは三人を乗せて南へと向かった。残されたライクバルト号も目的地はやや南寄りであるために、計画に変更はなし。魔王テツヤ=ヒノモトがいればそれでよかったが、いなければいないで作戦に支障をきたさないのがこの船を率いる「笑顔の殺戮者」シン=ヒノモトである。文句は言うが。


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