ショートストーリー1
あなた! 2年ぶりの投稿よ! 3年かもしれないわね! いつか続きを書くからって完結にしてなかったのが実を結んだわね!
でも、病院のラストを書かずにこんなもの書いてるから読者が離れてってしまうのよ!
え? ラストを書きたくない?
何を言ってるのよ! またしてもエタったら駄目じゃないの! あと数話よ!
……知り合いにショートストーリー書いてって言われたから? ラスト書きたくなくて現実逃避中? あんな難しいテーマなんかにするから、書くの大変なんじゃないの!
…………ところで、ショートストーリーって、意味分かってる? 短編って意味よ? 短編。
………いえ、まあ間違ってないんだけど、短編じゃないわよね、これ?
時は大同盟時代。
蟲人の侵攻をはねのけた各国が、それぞれの国に帰って自国の問題を解決している時である。邪神ヨシヒロが世界樹で世界の魔力を吸い尽くそうとした影響で、逆に活性化した魔物たちが以前よりも多く発生するようになっていた。その対処はそれぞれの国で行っているため、基本的に大規模な事件などない時代でもある。
そのために後世の歴史家にとってはあまり人気のない時代として認識されている。しかし、内情はアイオライの治世の最盛期であり、ヴァレンタイン王国が世界を席巻していった過程から安定の時期に入っていた。
もちろん、そのヴァレンタイン王国内でも活性化した魔物たちへの対処が大問題となっており、各領地はそれぞれの騎士団を強化編成し冒険者たちとともに魔物への対処を行っていた。
そんな中、一人の青年がレイクサイド領という領地の騎士団、それも親衛隊という重役に抜擢される所からこの物語は始まる。彼の名前はショート=オーケストラ。レイクサイド領の貴族に産まれた彼が召喚騎士として生き、世に知られることなく世界に貢献し、そして何を成したのか。
これは後生の歴史家の目に触れられることなく生涯を終えた彼の、物語である。
***
「どうせ、俺はコネですよ…………」
きらびやかな鎧に身を包んだ騎士が酒場でエールを片手につぶやいた。テーブルの向かい側にはまた違った鎧を着こんだ騎士が同じようにしてエールを飲んでいる。
彼らが何者なのか、というのは周りの人間には分かっていた。それは彼ら個人をというわけではなく立場の話である。カワベの町にいて彼らを知らぬ者などいないし、ヴァレンタイン王国全土においても同義なのかもしれない。
「ショート兄さん、もう何杯目? 明日の任務に支障さきたさないようにしなきゃだめだろ?」
「うるさい、ロランス。できの悪い兄の気持ちがお前に分かるかよ」
彼、ロランス=オーケストラは第四騎士団所属の新人でありショートの弟だった。本来は酒を飲んでよい年齢ではないのだが、誰もそんな事は気にしていない。彼はのちに第四騎士団で頭角を表すことになるが、それは別の物語である。
「兄さんは別にできが悪いわけじゃないだろ?」
「また、やらかしたんだよ…………」
「またって?」
「ハルキ様の逃亡を防げなかったんだ…………、だから明日は非番だ。たぶん」
この前からずっとそんなんだけど、マジェスターさんが逃亡阻止できたのはたまたまだったって言ってたなと、ロランスは思いながらエールを一口飲む。「流星」の二つ名を持つ彼が優秀であるのは事実だが、ショートだって負けてないとロランスは兄を誇りに思っていた。なにせ、あのフラン=オーケストラから直々にスカウトがきたくらいだ。それを、兄はコネだと勘違いしているとロランスは確信していた。
「ハルキ様の逃亡なんて、基本防げないからな?」
「そんな事はない。我々親衛隊は…………」
「はいはい、分かってるよ。日々の努力がなんとかって言うんだろ?」
親衛隊ではハルキの逃亡マニュアルというものを作ろうとすらしている。だが、当代随一の大召喚士の本気の逃亡を毎度毎度阻止できるわけでもなかった。
「あっ、こんな所で飲んだくれてやがる。やっぱりまたしても落ち込んでやがったか。確かに向上心というのは大事なものだが、お前みたいなひよっこには誰も期待していないんだし、もっともっと未来を見据えて長期間的なスパンで物事を考えろって言ってもたしかにお前らすぐに死ぬから急いだほうがいいかもしれないってのも現実的な問題でアッテ、ツマリオレガイイタイノハクヨクヨスンナトイウコトモソウダガ……」
そんな時に酒場の入り口から声をかけた人物がいた。彼の名はルーク。二つ名は「残念エルフ」というのだが、なぜそんな事になっているのかは誰も話したがらない。二つ名の通り、エルフ、それも長命のハイエルフ族である。
「ルーク」
「召集がかかってるぜ。早くつれてこいとクソガキに言われて俺がきたんだが、いくらまだ新参者だからといってあのクソガキに顎で使われるのが気に入らないところではあるがこれは仕方ねえ。世界のルールというやつに逆らうつもりはマッタクナイシ、ナイヨウニモンクガアルワケジャ……」
自称新参者のルークは親衛隊に入ってもう数年が経つのだが、エルフの時間感覚は人間には分からないのでここで何かを言い返すのをやめるショート。いつも何かを答えるとルークの話は長くなるためにかつては二つ名が「矢継ぎ早」だったりする。
「分かったよ」
ロランスはそこで兄が回復魔法を自分にこそっとかけるのを見る。いつも、こうやって飲んだくれることができるのもショートは状態異常を回復させることのできるキュアコンディションを使うことができるからだった。ちなみにルークはまだ何かを話し続けているが誰も聞いていない。
「ロランス、支払いはしておくから」
「また多めに払うんじゃないだろうね? この前も店主に多すぎるからもらえないって返されたんだから」
「だが、追加で何か頼むだろう?」
「気にしないでいいよ。僕は自分のぶんくらい出せるから」
その言葉を聞いているのかいないのか、返事もなくショートはルークとともに店を出る。ロランスが危惧したとおり、会計にはかなり上乗せされた金額を払っていった。
***
「ルーク、ショートはまだですか?」
「フラン様。私はここにいます」
「ああ、いたのですか。その存在感のなさはどうにかできませんか?」
「そんな事をおっしゃられても……」
レイクサイド領主館、親衛隊の待機所にはすでに「勇者」フラン=オーケストラとその他の親衛隊が集まっていた。昨日、人知れずに逃避行をおこなった領主ハルキ=レイクサイドの追跡と、その間の領主館の守りで役割分担をするようだった。もし領主館の守りの役割であれば特に問題はないが、領主ハルキ=レイクサイドの追跡であればまたしても失態を犯してしまうことになるかもしれないと、ショートは不安げに机の上に並べられた資料を眺める。
「マジェスターには領主館の守りの指揮を執ってもらおうと思います」
「了解した」
「今回はマリーを下につけましょう。こき使いなさい」
マリーというのはマリー=オーケストラのことである。もともと第5部隊に所属していたのだが、フランが養子とすると同時に親衛隊へと引っ張ってきた人物だった。その腰には宝剣「サクセサー」が佩かれており、その剣は何を隠そうもともとフランの使っていた宝剣「ペンドラゴン」を打ち直した業物である。それに見合うだけの剣技をフランから叩き込まれた女性召喚騎士だった。
「ぼっちゃまの追跡は私が指揮を執ります。カーラとソレイユも隊に入ってください。今回は別動隊も編成しますが……」
「おっ、おれは単独行動でもいいか?」
「ダメです、ルーク。貴方は私とともに行動してもらう予定ですから」
「そりゃないぜ! 俺の召喚獣のドリュアスは他の奴らと合わせて使うことがしにくいやつだってお前だって分かってるだろうに。俺の真価を発揮するのは単独別行動の時であって、タシカニオマエラクソガキドモヲヒキイテボウケンシャヲヤッテイタトキモアッタケドモソレハ……」
「別動隊の指揮はショート、あなたです」
「はい?」
ショートは急に声をかけられて変なところから声が出たのではないかと思った。なぜ、自分が別動隊の指揮を執ることになるのだと。冷静になろうと思っていても答えは出そうにない。ならば質問が許されるこの場では聞いてしまうのが最速だろうとショートは直接フランに聞くことにした。
「なんで、私なんでしょうか? マリー様もいますが」
「ショート様、私に様をつけて呼ぶのはやめてくださいとあれほど言ったじゃないですかっ!」
「いえ、あなたは養子とはいえフラン様の子どもになるのですから、私の父の従兄弟という立場で……」
「生粋の貴族の生まれのショート様に様付けで呼ばれる孤児院出身の身にもなってくださいよ」
「まあ、その話は置いておいて、ショートは別働部隊と言ってもおそらくは二人か三人で行動をしていただくことになります」
「おそらくは二人か三人?」
そのあいまいな物言いにショートは首をかしげる。部隊の人員がまだ決まっていないということだろうか。
「現地で合流してから目的地へと出発してください。詳細は向こうにも伝えてありますので。では我々の部隊は直接南に向かいましょう」
「どういう事だ?」
指令書にはヒノモト王国レイル諸島へと向かえとあった。ついでにレイル諸島へ逃避行していることが判明した領主の捕縛。
本当に詳細どころか目的の書いてない指令書というのをショートは受け取ったことがない。いくらレイクサイド召喚騎士団が常日頃から臨機応変に任務をこなしているとはいえ、これほどにあいまいな任務というのは珍しい。さらにはフランたちが「南に向かう」と言っていたが、エジンバラ領にでも集合するのだろうか。
「ロランス、出張任務を仰せつかったから行ってくる。家には数日は帰らないと伝えてくれ」
「分かったよ、兄さん」
ちょうど領主館にもどってきていたロランス=オーケストラに家への伝言を頼む。オーケストラ家はレイクサイド領の中でも少ない貴族の一つな上に召喚騎士団に関係者がいる数少ない貴族だった。ほかの貴族はまだ召喚騎士を輩出はほとんどなく、ノーランド家の放蕩息子が一人騎士団に入団しているのと、エンザ家あたりが幼年学校に子息を入学させたくらいではないかと思われる。そのため領主館にはオーケストラ家ゆかりの者は数多い。わざわざ弟に伝言を頼むのはどうかと、周りの者たちは思っているのだが、この兄弟はそのあたりは気にしなかった。オーケストラ家自体が自由に生きる風潮があると言われている。
「召喚!」
中庭にウインドドラゴンが召喚された。すぐさまに乗り込むとショートは東へと飛ぶ。実はロランスはカワベの町の店をすぐに出て領主館までショートを追ってきていたはずだった。あまりにも早く飛ぶウインドドラゴンを眺めながらロランスはつぶやいた。
「あれのどこが落ちこぼれなんだよ……」
ショート=オーケストラ。彼を認識することのできた人は彼をこう評価する。「存在感のない天才」と。
自己評価の低さと他人から認識されにくいという彼の特性はこの後も続き、後に重要な役職を与えられたにも関わらず、歴史書に名がのることもなかった。無論、二つ名などない。
これから数年後にショートはフランの跡を継いで親衛隊長へと抜擢され、長年その役職を勤め上げる。「駆除人デリート」や「赤竜」との闘いの際にもいたはずの彼を歴史書は記していない。確かにレイクサイド領は戦場となることはほとんどなく親衛隊が主体となって戦うことはなかったが、実はハルキ=レイクサイドから重要な任務を言い渡されていたのも一つの原因でもあった。
しかし、それはまた別の話。




