If story -転生したあいつは魔法が使えないしメンタルも弱いんです。- 第9話
「アラン様! 大変です! 敵襲ですっ!」
「なんだとぉぉぉぉぉ!!!!? 魔物かっ!? 魔人族かっ!?」
「いえ! まだ分かりませんがかなりの数の飛ぶ竜が! しかし、その上には人が乗っているようです!」
「なんだとぉぉぉぉぉ!!!!? 騎士団を集めるのだ!」
「今日はピクニ……演習で遠くに出ています!」
「なんだとぉぉぉぉぉ!!!!?」
ふふふ、馬鹿親父め。騎士団が演習で遠出している事なんぞちょっと調べれば分かるのだ。それに爺がお使いでスカイウォーカーに行っているこの日以外に好機はない。さあ、俺がレイクサイド領を王国随一の領土に押し上げてやろう。そういうのは昔少しやってた事があって得意だぞ。
「ホ、ホープさん、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫だヨーレン、ゆくゆくはお前が大将軍(笑)だ」
「なんで(笑)がついてるんですか?」
毛むくじゃらとアイシクルランス2人はシルフィードに残して、ブックヤード傭兵団はレイクサイドを急襲中である。さすがにシルフィードの騎士団員にレイクサイドを攻めさせるわけにはいかんって言ったら毛むくじゃらが「何で知ってるんだ!?」ってうるさかった。
セーラさんが加入してから約半年が過ぎた。何故このような事になっているかと言うと、あと半年もしないうちにエレメント魔人国の侵攻があるはずであり、傭兵団のみでは戦力的にきつい状況である。それでも数十人にまで膨れ上がったブックヤード傭兵団はシルフィードのみならず王国全土にその名をとどろかせていた。この際クーデターでも起こしてレイクサイド騎士団を鍛えなおさない限りはエレメント魔人国の侵攻に対抗することなどできない。というわけで団員のほとんどにワイバーンと契約させた俺は傭兵団を率いてレイクサイド領主館上空にいる。実は数日前からレイクサイド領には来ていたけどチャンスを伺っていたのだ。爺をお使いに出させるために色々と画策した甲斐があった。爺が本気だしたらこの人数でも危ういからな。
「よし、ヨーレン。中庭に着陸だ。攻撃魔法に注意しろよ」
「わ、分かりました」
ヨーレンの禿げ頭をぺちぺち叩きながら十数頭のワイバーンが降りていく。他の団員は上空待機で威圧を続けるのだ。中庭では大騒ぎの馬鹿親父とその周辺がわらわらと出てくる。騎士団のほとんどがいないのに騎士団長のトーマス叔父がいるのは何故だ?
「ホープさんがレイクサイド領の次期領主だったってのは本当だったんですね。お母さんは最後まで信じていなかったけど」
すでにセーラさんは傭兵団の中でも参謀ともいえるほど重要なポジションになっていた。連日、怪鳥ロックやクレイジーシープの料理で誘い続けた結果、まだアイシクルランスには入団していない。その内入団しなければならないとは言っていたので少し焦っている。
「そうだよセーラさん。俺の本名はハルキ=レイクサイド。次期レイクサイド領主にしてブックヤード傭兵団の設立者だ。」
「……やっぱりあの貴族院での……あっ!」
いかん、実はセーラさん同学年だったって事を忘れていた。セーラさんは貴族院主席、俺は魔法が使えなくて不登校で……もうだめだ……死のう……。
***
「誰だ!? お前らは!?」
「ちょっとホープさん、領主様が出てきましたって、なんで落ち込んでるんですか? ちょっと! なんか言ってくださいよ!」
無理無理、もう立ち直れない。
「ヨーレンさん、ホープさんはこうなったらちょっとやそっとじゃ無理ですって、頑張って」
「俺!? セーラさん、ちょっと! 手伝って下さいよ! 元はと言えばセーラさんが余計な事言っちゃったのが原因なんだから!」
「ヨーレンさんならできますって、頑張って! 未来の大将軍(笑)」
「なんでセーラさんも(笑)つけてるんすか!?」
「貴様ら!名を名乗れ!」
アランが大声で叫んでいるが、トーマス叔父の後ろに隠れていると格好にならないぞ? そのトーマスはショックで半分意識がないんじゃないのか? さっきから目の焦点が合ってない気がする。
「こ、こ、こちらはシルフィードが誇るぼ、ぼ、冒険者ギルドSランクパーティー、ぶ、ブックヤード傭兵団の団長です」
いいぞヨーレン。あとは任せた、イツモノヨウニ。
「嘘をつけぇ! 巷で話題のブックヤード傭兵団の団長がそんなやる気のない奴なわけなかろう!」
なんだ、親父。仮面をつけているとは言え、実の息子も分からんのか。というか、急に強気になりやがったな。あ、団員が殺気立ったのを見てまたトーマス叔父の後ろに隠れやがった。なんて情けないんだ。
「ホープさん、さあ仮面を取っちゃってください! って、なんでそんなにやる気ないんですか? ここが勝負所でしょう!」
もう、めんどくさい……。
「ホープさん、いえ……ハルキ様。しっかりしてくださいね」
ぱっとセーラさんが俺の仮面をはぎ取った。やる気のない顔があらわになる。
「ハ、ハ、ハルキ!?」
「ハルキ様だ!」
「そんなバカな!?」
どよめくレイクサイド領主館。しかしそのほとんどが使用人とメイドであるが。騎士団不在って言っても限度があるだろうというくらいに騎士がいない。
「ゴホン! こちらにおわすはホープ=ブックヤード団長であり、本当の名はご存知、ハルキ=レイクサイド様である! 短期間でこの大規模な召喚士集団を作り上げた実績を持ってご帰還なされた! 領主アラン=レイクサイド様! ヴァレンタイン王国は今後エレメント魔人国の侵攻にさらされると思われ、それに対抗するために防衛力の強化が急務である! すみやかに実権を実子であるハルキ様に譲渡され騎士団の強化に協力いただきたい!」
俺が言うはずだったセリフをヨーレンが代わりに言ってくれた。前もって打ち合わせていた通りに周囲で威圧をしていたワイバーンたちが急旋回を始める。その光景は今まで見た事もなければ、恐怖でしかないはずだった。だが…………。
「なんだとぉぉぉぉぉ!!!!? ク、クーデターじゃとぉぉぉぉ!?」
「あらあら、じゃあ明日からハルキ様が領主になるってこと?」
「どうしましょう、そんな急に言われても式典の準備が間に合わないわ」
「あらやだ、ハルキ様のお部屋ってこの半年、掃除してないんじゃないの? 早く綺麗にしなきゃ」
「お隣にいらっしゃるのは未来の奥様じゃない? とっても素敵な方よ?」
クソ親父と周りの反応が微妙に違う。というよりも使用人とメイドたちはあまり動じてないようだった。
「いまさらアラン様から他の人に領主が代わっても、何も困らないしなぁ」
「それよりハルキ様がご無事で良かったね」
「なんだとぉぉぉぉぉ!!!!? ク、クーデターじゃとぉぉぉぉ!?」
「あ、ヘテロが帰ってきたら教えてやれよ。ハルキ様いなくなったって、へこんでたから」
微妙な空気が団員の中に流れるのを感じつつも、ヨーレンがワイバーンを強制送還した。
「ホープさん、想像してたクーデターと若干違うんだけど……」
「ヨーレンさん、もうハルキ様ってお呼びしないとダメですよ?」
「ああ、そうでした…………って、ホープさ、じゃなかったハルキ様! ちゃんと立ってて下さいよ! こんな所で寝ちゃだめです! なんで寝てるんですか!?」
こうしてレイクサイド領のクーデターは誰一人血を流す事なく終了した。最後までアランは抵抗していたらしいけど、誰も味方してくれなかったらしい。




