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If story -転生したあいつは魔法が使えないしメンタルも弱いんです。- 第7話

「もうだめだ……死のう……」

「あー、また始まったぜ、団長のアレ」

「おう、ヨーレン。どんな感じだ?」

「ウルガスの旦那、多分今日一日は使いものにならんでしょうな」

「はぁー、なんでこうも波が激しいんだ?」


 先日の怪鳥ロックの討伐でこの傭兵団からSランクが3人も出た。ウルガスにマディにサイファーである。3人ともアイシクルランスじゃねえかよ、お義母さん。もうちょい他の団員との区別が分かりにくくするつもりはないんですかね。


「ヨーレン、部隊を二つに分けろ。新人6人はマディとサイファーが率いて全員分のフェンリルの契約素材を取ってこい。他は引き続き討伐依頼だ」

「あいよー。マディ、サイファー残念だったな。頑張れSランク」

「マジかよ!? 俺ら子守か!?」

 これから先、いつアイシクルランスの3人が離脱するか分からんからな。それに将来的に部隊を率いることになるかもしれないアイシクルランスならば、新人の子守は適任だろう。


「ヨーレンは特別任務、この羊皮紙に書いてある奴らをスカウトしてこい」

「は!? いや、ホープさん! ちょっと、目を開けて! これ、エル=ライト領とかエジンバラ領まで入ってるじゃないっすか!? え!? ほんとに!?」

 ヨーレンがここにいるならまだレイクサイドに集合してなかった連中は地元にいるはずである。元貴族連中は居場所が分かりやすいが、レイクサイドに着て召喚騎士団に入るならいざしらず、冒険者として勧誘するのは難しいだろう。他の奴等は居場所が分かりにくい。地元で聞き込みをしてもらおう。ワイバーンを持ったヨーレンにしかできない重要任務である。


「貴様ら、新人のくせにホープさんの悪口を言ったせいでホープさんが落ち込んで仕事にならん。今日は厳しめに行く」

「えっ、わ、悪口じゃなくて魔法が使えないのに驚いただけで……」

「うちの傭兵団で最も必要なことは……」

「うわぁ、サイファーが地味に怒ってるわ……」

 新人たちをつれてマディとサイファーが出ていった。あれは徒歩でフェンリルに付いて来いという意味だろうか。南無。


「そんじゃ、ホープ。俺たちは行くぞ」

 毛むくじゃらが依頼の羊皮紙を握っている。Aランクの判子が押してあるようだ。

「うん」

「しっかり飯は食えよ。あと、寝る前には歯を磨くんだぞ」

「うん」

「……だめだこりゃ。まあ、討伐に数日かかると思うから、そのうち治るだろう。よし、行くぞお前ら」

 毛むくじゃらが残りのメンバーを率いて宿から出ていった。とりあえず俺は半日寝込んだ。


 ***


 レイクサイド領主館と違って、寝てても誰も御飯を持ってきてくれない。仕方ない、どこかに食べに出よう。お腹すいた。

「宿の御飯は食べ飽きたな……」

 シルフィードで根城にしている宿は可もなく不可もなくといった所だった。飯も不味いわけではないが、客の好みに合わせようといった気配は微塵も感じられない。だから食べていても楽しくないのかもしれないなと最近思うようになってきた。


「久しぶりにサンドイッチ食べに行きたいけど、まだやってないんだよなぁ」

 シルフィードでお気に入りの店は来年開店するようだ。セーラさんたちとよく通って、テツヤと出会った店である。他に行きつけにしていた店は意外と少なかった。もっとセーラさんとデートしとけば良かったかも。

「適当にブラブラしてみるか……」


 護身用の装備だけつけて外の大通りを歩く。この時代は人が少ない。流通やら飢餓の問題が解決してないから、人々は必死でその日を生きている。自然と、余裕があるのは貴族のみとなり、庶民向けの店は似たり寄ったりなものばかりだった。

「う~ん、高い所以外で良さそうな場所がない…………」

 他の団員の事を思うと、団長だからといって良い物を食べるのもどうかと思ってしまうのだ。

「仕方ない。ギルドの酒場で食べよう」

 どうしてもそれなりの物が食べたかった。ギルドの酒場なら知ってるから外れはないだろう。他はあんまり冒険しようと思える処が見つからなかった。


「ホープ=ブックヤード、珍しいわね」

 ギルドの酒場で一人食事を取っているとお義母さんがやってきて食事をしているテーブルの反対側に座った。

「ええ、お義母さ……ギルドマスター。何か御用ですか?」

「…………食べる時くらい仮面を外さないのかしら?」

「素顔がバレてしまうと私がある領地の次期領主であるという事がバレてしまいますので」

「面白い冗談ね」

 おかしい、全く信じてもらっていない。お義母さんには別に素性を隠すつもりなどないのに。

「ウルガスたちはどう? もともとは新人の教育を依頼したんだけどね」

「ええ、さすがにアイシクルランスですね」

「……驚いた。知ってたの?」

「ペンダントを隠さないんで、すぐ分かりましたよ。そろそろ、あいつらは撤収ですか?」

 明らかに予想できていなかったのだろう。お義母さんのビックリした顔なんて初めて見た。

「あなた、何者なの? 関係者以外でペンダントの事を知っているなんて」

「ですからある領地の次期領主なんですよ」

「まあ、詮索しないというのがルールね。分かったわ」

 いやいや、ちゃんと答えてるんだけどな。


「…………お願いがあるんだけど」

「何でしょうか? お義母さ……ギルドマスターのお願いでしたらできる限りの事をいたしましょう」

 ただ、今日はちょっとやる気もなければ調子も悪いんですよ。

「またウルガスたちに新人の教育を依頼したいんだけど、今はあなたの傭兵団の居心地がいいみたいでね。あなたの所でまとめて引き受けてくれない? それとも人数が増えるのは嫌かしら?」

 他にも新人が加入してるみたいだし、とお義母さんは付け加えた。

「いいですよ、教育終わった後にそのままスカウトしてよければ」

「ありがとう、依頼料の話はまた後日ね。今日から一人任せるから夕方に来てちょうだい」

「分かりました……もぐもぐ」

 ラッキーな事に新人ゲットした。ついでに依頼料まで。他のパーティーは新人教育に時間を裂けないから大変だろうけど、将来的に大きくしたいと思ってるうちは、癖のついていない新人の方がありがたい。召喚に資質があればヨーレンの部下に欲しいくらいだ…………あれ、もし全てが上手くいけぱ将来のレイクサイド騎士団の団長がヨーレンになっちまうな。


 お義母さんとの約束の時間まではまだ数時間あった。お腹も一杯になったし、宿に帰ってもうひと落ち込みしよう。

 ギルドから宿に向かう。意外と距離あるな。食後の運動にいいのかもしれないけど、正直な話早く帰って寝たい。でも数時間後に起きる自信はない。お義母さんの信頼を勝ち取るためには……。いかん、眠い。

 とぼとぼと歩いているとサンドイッチ屋ができる場所まで来た。宿まではもう少しである。

「早くサンドイッチ屋ができないかなぁ。クレイジージープとか挟むと美味いんだよね……」

 セーラさんの好物だったものである。



「あの! ちょっとよろしいですか? さっきなんて言ったんですか!?」

 ふいに後ろから声をかけられた。振り向くとフードを被った女性、いや女の子かな? どっかで聞いたことある声…………

「えっと…………」


「ここに最近評判のシェフが平民向けに店を出すのはごく少数の人しか知らないはずで、さらにサンドイッチを出す店であるのを知ってるなんてほとんどいないはずなんです! さらにさらにクレイジージープ!? 私が食べたことのない美味しい料理!! お話を聞かせて下さい!」



 そこには目を輝かせてこちらを見る、セーラさんがいた。……久しぶりだね、そして変わってないねー。

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