If story -転生したあいつは魔法が使えないしメンタルも弱いんです。- 第6話
「ウルガス、ロランから伝言よ。いつ帰ってくるんだ? って」
「ニアさま……いえ、ギルドマスター。それが少々厄介な事になってまして」
「ブックヤード傭兵団ね……アイシクルランスから2人も連れて行くとか何を考えてるの?」
「いや、実際にすごい良い経験になってるんで……」
「たしかに3人ともあっという間にAランクね」
「でしょう。ただ、俺だけだったらこうはならなかったんですよ」
「……ホープ=ブックヤード? 何者なの?」
「分からんです。しかもあいつは魔法が使えないし、剣も全然使えないし……最近はよく分からん仮面をつけて素顔が分からんようにもしだしたりして……」
あれから数ヶ月が経ち、俺は毛むくじゃらとともに冒険者のパーティーを組んだ。少しずつパーティーのメンバーも増えていて、高ランクの依頼もこなせるようになっている。さすがにレイクサイドの次期領主であることがばれると騒ぎになるので仮面をつけてみた。怪しさは倍増である。
今日もギルドで依頼を受けに来たわけだが、毛むくじゃらがお義母さんと何やら話していた。多分、アイシクルランス絡みの話だろう。メンバーにも他に二人ほど、毛むくじゃらの紹介で身分を隠して修行に来ていた。ペンダントつけてるからバレバレだけどな。
「おい、オルガス! 行くぞ!」
「誰がオルガスだ!? 俺はウルガスだ!」
「まあまあ、ホープさんがSランクの怪鳥ロックに行こうって言ってるんですから」
「はぁ!? Sランクだと!? マディ、てめえ何で止めねえんだ!?」
毛むくじゃらが変な声を出すが無視だ。怪鳥ロックは今のメンバーでは十分に討伐する事ができる。そしてその肉を流通させることは目的に一つ近づくのだ。なにせセーラさんの大好物だからな。
「ほんとに、そんな凄い戦略家には見えないわね」
「ニア様、ホープはだいぶ変わってますが、俺なんかとは見ている世界が違うんでしょう。ただ、最近は何かに焦っているようで……」
「まだ機密事項ですが、来期から娘がアイシクルランスに入隊することになってます。ロランはセーラの教育を誰に任せるかを悩んでいるようですわ」
「それは……」
「最近急成長したあなたを考えているんじゃないかしらね。でも、あなた自身はそう思ってないと?」
「ええ、正直な話、ホープの指示通りに魔法をぶっ放してるだけなんです。人使いは荒いんで修行にはなってますが……」
「なるほどね……それじゃ、まだまだアイシクルランスには帰れないわね」
「マディとサイファーに任せられるくらいにならないと……」
「彼らもアイシクルランスだから、いつかは帰らなきゃならないのよ?」
お義母さんと毛むくじゃらは何やら重要な事項について話し合っているようだった。アイシクルランスに戻れとかそういう話かもしれない。現段階でアイシクルランス3人の離脱は痛い。だが、想定していたわけでもある。そのためブックヤード傭兵団はに若干多めの人数構成にしていた。
エレメント魔人国の侵攻までに1年程度しかない。今のパーティーのメンバーは8人、その内3人はアイシクルランスという事を考えると俺を除いて4人しか人員を確保できていないという事になる。もし、このまま侵攻が起こってしまうと4人で戦局を覆す行動ができるわけではない。できたら数百人程度の規模の兵力が欲しかった。この冒険者稼業を続けていてもこれ以上のメンバーの確保は無理なのかもしれない。だが、戦闘の実力を上げつつ人員を増やすというのはこれが今できる最善だった。レイクサイドの馬鹿どもが言う事を聞いてくれていたらこんな事にはならなかったのに。
「サイファー、後ろ乗せて」
「はい、わかりました」
アイシクルランスから来ている一人であるサイファーの召喚したフェンリルの後ろに乗る。俺が魔法を使えないという事はメンバー全員が知っていた。さらにはクロスボウを担いでいるけど、大した戦力にならない事も分かっている。だが、このパーティーのリーダーは俺であった。毛むくじゃらが指示に従っているというのが大きいのだろうが、新たに入ってくるメンバーの中には理解できない奴も多く、毎回苦労する。
俺を除くメンバー全員がフェンリルの召喚が可能になっている。それによって依頼を受けた際に現地に到着するのがかなり速くなり、ランクが上がるのが早くなった。新人が加入すると、フェンリルの契約素材を取りにいくのが恒例の行事になっている。だが、まだワイバーンの契約条件は教えていない。毛むくじゃらたちアイシクルランスがワイバーンを使い出すとレイクサイド領がシルフィード領に勝てる可能性がほぼなくなるからだ。だが、ワイバーンは非常に便利である。使わない手はない。仕方なく、一人にだけ契約させることとした。
「ファルガスはもう置いていこう、遅れるなよ! ヨーレン!」
「えっ!? いいんすか? ウルガスなしでも?」
「遅れてくる奴が悪い!」
ヨーレンがまだレイクサイドにおらずにシルフィード領にいたのは幸いだった。あの禿げ頭をたまたま町で見かけた時は即行で拉致を指示したものである。まだ禿げ方が足りない気もするが気のせいだろう。こいつにだけはワイバーンと契約をさせた。契約素材が貴重過ぎて他の奴は無理だという理由を押し通した。メンバーの中には最古参の毛むくじゃらこそが契約するべきだという意見を持ったやつもいたが、素質の問題だというと毛むくじゃらも納得した。
6頭フェンリルのフェンリルが走るとかなりの迫力であり、シルフィードの町の風物詩にもなっている。かなり後ろから毛むくじゃらの罵声が混じったフェンリルの影があるような気もしないでもない。
「ホープさん! 怪鳥ロックははじめてですけど、どうやって倒すつもりなんですか!?」
横を走っていたマディが声をかけてきた。
「ああ、お前の槍が役に立つと思う」
マディは槍使いである。自慢のアダマンタイト製の槍を持っており、メンバーの中での槍裁きは一番だった。なんだかんだ言ってもアイシクルランスであり、優秀だ。うちの領地に欲しい。
「マジすか!? ついに俺もSランカーか!」
「ああ、それにこれを使う」
「…………えっ? 縄?」
「鍛冶屋に言って特注で作らせた縄だ。怪鳥ロックといってもちぎることはできんだろう」
「え? 槍と? 縄?」
「あと、根性な」
「根性?」
***
「洒落にならんっすわぁぁぁぁああああ!!!」
ヨーレンが乗ったワイバーンを餌に怪鳥ロックが飛んでくる。必死で逃げるヨーレンのワイバーンであるが、すぐに追いつかれるんじゃないかな? 俺の知ってるヨーレンのワイバーンならば怪鳥ロックごときのスピードに負けるはずはないんだけど、まあ仕方ないか。
「おし、いまだ!」
「「「はいっ!」」」
あらかじめ用意していた木と木の間をヨーレンのワイバーンが飛び、その後を怪鳥ロックが飛んできた。ワイバーンを捕食しようとかなり低空飛行になっている。そこに輪っかにした縄をひっかけるのだ。
「入った!」
「よし行けマディ!」
「ういっす!」
マディがタイミングよく背中に飛び乗る。そして首に引っ掛けられた縄と首の間に自慢の槍を差し込んで、槍を回転させ始めた。
「まさか俺の自慢の槍がこんな使い方を……」
若干悲しそうな顔をしていたマディであるが、槍が回転するにつれて縄が徐々に締め上げられていく。首が完全に締まりだした怪鳥ロックは大暴れを始めた。振り落とされそうになるのを根性でしがみつくマディ。
「よーし、放すなよ」
「……誰も思いつかねえよ。こんな方法」
「思いつかれてたまるか。よし、マディに当たらんように魔法で攻撃だ、イルガス」
「ウルガスだ!」
結局大暴れした怪鳥ロックが窒息するまでマディに数回破壊魔法が当たってしまったとかでめちゃくちゃ怒っているわけだが、無傷の怪鳥ロックの頭を落として血抜きしてメンバー全員のフェンリルが即席のソリを引いてシルフィードに帰ったのは夕方の事だった。
「規格外過ぎるわね。結局は実力でロックを討伐したわけではないんだろうけども、功績を認めないわけにもいかないわね」
「そうなんですよニア様。もう少しだけマディとサイファーの修行だと思って滞在を延期させていただけるように口添えを願えますか?」
「ええ、いいでしょう。それとあなた方3人はSランクです。気を引き締めなさい」
「まっ、マジで……本当ですか?」
「ええ、Sランクならばロランも納得するでしょう」
「へ? 団長が何を……」
「ふふふ……」
Sランクを仕留めたためにギルドの酒場で宴を開いた。ギルドの職員にも幸せのおすそ分けという形でおごって、皆で騒いでいる。毛むくじゃらがまたお義母さんと何やら話しているようだが、さすがに内容までは聞けなかった。こんな時に召喚魔法が使えたら盗み聞ぎもできるんだけどな。しかし、仮面があると酒飲みづらい。
それはともかく、怪鳥ロックのハニーマスタード焼きをギルドに振る舞って、さりげなくお義母さんの口に入るようにするのが難しかったが、ミッションは成功である。そのうちセーラさんの耳にも入るだろう。これからは怪鳥ロックの討伐依頼はうちが専属で行うこととしよう。ふへへ。




