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If story -転生したあいつは魔法が使えないしメンタルも弱いんです。- 第5話

 さて、あの毛むくじゃらがアイシクルランスだと判明したのはいいとしよう。超絶に眠いのは、あの後本気で明け方まで酒場から解放してくれなかったあの毛むくじゃらのせいだから今日は換金だけして宿に帰ろうとした。


「おい! ホープ!」

 と、帰るところを捕獲されたのである。こいつ、実はジギルからの密命でも受けてるんじゃないか?

「眠いんで、帰る」

「そんな事言うなって。ほれ、この依頼受けといてやったぜ」

 やったぜじゃねえよ。またしてもかなり遠いところの依頼をうけやがった。すでに昼過ぎだからまたしても帰ってくるのが夜になるじゃねえか。

「まあ、今回は野営だな」

 だな、じゃねえ…………。



 ***



 依頼はロックリザードの群れの討伐だった。霊峰アダムスに近いところに行くらしい。めちゃ寒いから防寒具を買えと言われた。サラマンダーが恋しい。

「防寒具買ったら昨日の儲けが吹き飛んだ」

「まあまあ、そんな事言うなって」

 言うわい。それにアイシクルランスとこうやってつるむのもヤバい気がする。ジギルはすぐに色々と画策しやがるからな。最初に俺と出会ったころも俺の暗殺を考えてた節があったし。


 結局引きずられるように依頼へと向かうことになった。頭がガンガン痛い。

「今は一人だが、俺にも仲間がいてな」

 道中、上手い具合に素性を隠して身の上話をする毛むくじゃら。あれ? こいつってなんて名前だったっけ? もうクロスボウが重くてよく分からんくなってきた。帰ったら軽量化の研究をしなきゃな……あ、いまのレイクサイドじゃ無理か。とりあえずはロックリザードの鉱石を積み込むための荷車に積むことにした。道中の警戒? 知らん。


 だいたい、こんな事をしていて間に合うのだろうかと焦ってきた。まだレイクサイドにいて領地経営に口出していた方が良かったのではなかろうか。魔人族の襲撃は何千人、何万人規模で行われる。確実に国を動かせるレベルで戦わなければならない。


「まあ、今帰っても誰も言うこと聞いてくれないしな」

 ある程度の実績がなければ尊敬されず、尊敬されなければ言うこと聞いてくれない。地位だけで頭ごなしに命令しても破綻するのは目に見えているのだ。


「おい、ホープ! そろそろ野営の準備をするぞ!」

 考え事をしていると毛むくじゃらから声をかけられた。霊峰アダムスの麓、かつてフェンリルに乗りセーラさんと駆け抜けた場所である。思い出を作った村まではまだ1日以上の距離がある。前はフェンリルであっという間の距離も、徒歩だと時間ばかりが過ぎていく。

「おい、毛むくじゃら。ノームは使えるか?」

「誰が毛むくじゃらだ」

「いいからノームを召喚してだな……」

 レイクサイド流野営術はノーム召喚が基本である。薪集め、テント設営、見張り、香草採取……基本的にノームができないことはない。毛むくじゃらは召喚は苦手なようだが、十分な量のノームを召喚できた。不慣れながらもそれぞれに命令を下していく。


「次は焚き火だ。炎の魔法を唱えろ」

「おいホープ、確かにこのノームの使い方は初めてだし凄い役に立ったけどよ。お前も手伝え」

「無駄だ。俺は魔法が使えない」

「はぁ!?」

 毛むくじゃらがびっくりする。そりゃそうだ。この世界に魔法が「全く使えない」人間はいなかった。才能がないのは俺を始めとしてそれなりにいたが、全くというのはいないのだ。だが、今の俺はクソ神のせいで「全く使えない人間」である。


「おぉ、今までよく生きてこれたな……」

「……」

 いっかーん、久々に川岸春樹が引っ込んでハルキ=レイクサイドが出てき…………


「別に好きでやってるわけじゃないもん…………」

「あっ、すまん! おいホープ! なあ!?」


 とりあえず次の日の朝までふて寝した。お腹すいた。



 ***



「と言うわけで、突撃」

「何が!? おいホープ! 作戦とかあるだろう!?」

 次の日、ロックリザードの生息地に着いた。で、ロックリザードを見つけた。突撃かまそうとしたら、毛むくじゃらに首根っこ捕まえられた。俺、次期当主。

「何がだ?」

「何がじゃない! ロックリザードはその背中に背負う鉱石が硬く、ほとんどの攻撃を通さない。単純に攻撃するようじゃ返り討ちに合うぞ!?」


 一丁前に先輩風を吹かせやがって、この毛むくじゃらめ。だが

、経験ではこちらが上だ。

「弱点を突くに決まっているだろうが」

「奴らの弱点である腹部はなかなか見せる事はないんだぞ?」

 これだから素人は……柔らかいだけの部分が弱点だと……。


「腹部が弱点だと思っている時点で、いつまで経っても奴は狩れないぞ?」

「じゃあ、何が弱点なんだよ?」

「それはな……」


 俺はロックリザードの背中を指差して言った。ついでに毛むくじゃらのせいでロックリザードはこちらに気づいているようだ。


「重い」


「……は?」



 脳ミソまで毛むくじゃらな奴は放っておくとして、俺はクロスボウを担いで走り出した。ロックリザードは重い。俺が走るとそれなりの速度で追いかけてくる。ちょっ……クロスボウ重い! 走っても速度が出ない! 追い付かれ……ギリギリセーフ!


「大丈夫か!?」

 ロックリザードのクチバシが俺を捕らえる前に何とか手頃な岩によじ登ることに成功した。これなら当分上がってこれまい。


 そう、ロックリザードは自重が重過ぎるために他のトカゲ型と違ってよじ登る行為が苦手なのである。と言ってもできないわけではない。時間は有効に活用させてもらうこととして、クロスボウにボルトを装填する。さりげにシルフィードの町で買ったジャイアントスパイダーの毒を塗った奴だ。ロックリザードの肉は食わないからな。


 バシュ


 弱点が腹部? 喉の中から脳を貫いたボルトがロックリザードを二度と動かなくする。毒要らんかったな。まあ、保険ってやつね。


 魔法が使えれば、例えば威力が小さくても氷魔法で動きを封じたりなど、様々な戦い方ができるはずである。これでも制限された中で精一杯やってるんだ。だが、毛むくじゃらにはそうは見えなかったようである。



「ホープ、帰ったら紹介したい人がいるんだが……」

「帰る? ここまで来たんだ、そんな効率悪い事できるか?」

 俺は羊皮紙を取り出して毛むくじゃらに押し付けた。依頼の受理人の名前は毛むくじゃらである。俺が書いた。

「おい、なんでこんなに依頼取ってきて……」

「効率悪いから、ついでにやって回る」


 全部で6件の討伐依頼。この周囲のやつをかき集めてもらい、毛むくじゃらが手本を見せてくれるらしいと嘘をついて受理してもらった。焦りもあるが、このくらいの勢いでやっていかないとセーラさんは救えないと思う。頑張るしかない。毛むくじゃらはもっと頑張れ。


「あー、ホープ。とても言いにくいが……」

「なんだ?」

 ついに自分がアイシクルランスであると自白する時がきたか? だがちょっとやる気が出た今、お前は逃がさん。できるだけ働いてもらうのだーははははは。


「まさかお前がそんな奴だとは思っていなかったよ」

 そんなに俺がやる気になったのが意外だったか? うむうむ、さあ働け。次の狩り場に連れていくのだ……あれ?



「この依頼受理人の名前……アルガスになってるけど、俺はウルガスな」


「……あれ?」

 もう、毛むくじゃらでいいじゃん。

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