If story -転生したあいつは魔法が使えないしメンタルも弱いんです。- 第4話
ああ、もう今日は薬草採取したし、対して金にならなかったしもういいかなとか思い始めていた。でも、昼からギルドに戻って付き添いの人を紹介してもらわないといけないし、でもクロスボウが重くて薬草採取中ずっと体力とられてしまったからもう動けません。うん。
「初対面でこんなにやる気がないやつに出会ったのは初めてだな」
ギルドの受付の前には一人の冒険者が来ていた。Cランクを紹介してくれたらしい。
「ウルガスだ。Cランク、得意武器は剣と盾だ」
「ホープ=ブックヤードです。Fランク、弓使います。よろしくお願いします」
正直、レッドボアなんて巻き上げ式のクロスボウがあれば一撃である。問題は眉間とかの急所に当てられるかどうかではあるが、そこは練習した。こいつらが付いてこなければ罠だって作れるし、突撃されない場所に陣取ればいいだけである。
「おう、色々教えてやる」
かなり体格がいい。そして毛むくじゃらである。ぐいぐいと距離感を縮めてくるところがきつい。普段に出会ったらいいやつなんだろうけど……。正直今はテンションが低い。
「よし、ホープ! 行くぞ!」
引きずられるようにギルドを出ていくと受付嬢がにっこりと笑っていた。おそらくこのウルガスという奴はかなり信用のおける人間なんだろう。多分。
***
「おい、どうしたんだホープ! もっと緊張感を持て!」
レッドボアの目撃情報があった地域に着くまでに3時間以上かかった。これ、帰りは完全に夜になるよね。もしかしたら野宿? はあ、やだやだ。
「レッドボアは危険だぞ? あの突進を受けたら俺ですら吹っ飛ぶんだ」
そりゃ、突進が得意な魔物の突進を受けたら吹っ飛ぶでしょうよ。
「あー、ウルガスさん」
「おう、ウルガスでいい」
「あー、ウルガス。あそこに行きましょう」
俺が指差したのはちょっと高台になっている場所である。
「あそこなら周囲を見渡せます」
「おいおい、そりゃすぐにレッドボアは見つけられるかもしれないが、向こうからも丸見えじゃないか」
奇襲を前提とした戦いになるとウルガスは思っているようだった。
「大丈夫」
おれは担いでいたクロスボウを外すと、ボルトを装着し巻き上げた。
「そう言えばそんな形状の弓ははじめて見るな」
そりゃそうだろう。本来、この時代にはない物である。前世でも銃が開発されるまでは最強武器のひとつだったし、銃が発展した現代でも十分な殺傷能力を持つ武器だ。火薬の調合などをしなくていい事を考えると、魔法を凌ぐ可能性のある武器である。
「まあ、歩くの疲れたし、あそこで迎え討つってことで」
ウルガスは最初何かを言いかけたようだったが、俺のクロスボウを見ていて意見を言うのをやめたようだった。Eランクの駆け出しが少し痛い目に合うのも悪くないと思ったのかもしれない。ただし、そのぶんウルガスが危険な目にあるのだが、その覚悟をしたという事だろう。やっぱりいいやつじゃないか。
数十分もしないうちにレッドボアはやってきた。
「おお、意外とでかい個体だな」
百メートルくらい先でもはっきり見える大きさである。向こうも俺たちに気づいたようだ。駆け足で近寄ってくる。至近距離になったら突進を開始するのだろう。もちろん丘の上には馬防策のようなレッドボアの突進を防ぐものは何もない。若干傾斜があるからその分の威力は削がれるかもしれないが、あの大きさのレッドボアが突進するならばほとんど関係ないだろう。
距離は数十メートルにまでなった。レッドボアが突進の体勢を取る。
「おい! 来るぞ!?」
ウルガスうるさい。ちょっと黙ってて。
俺はしゃがんでクロスボウを構える。膝を太ももに固定して照準がぶれないようにするのだ。練習はした。この距離ならば、ぶれることはあっても外れることはないだろう。ウルガスが前に出ようとするのが若干邪魔であるが、集中もできている。引き金を引いた。
バシュ
しなっていた弓が戻りボルトが射出される。その速度は熟練の弓手のそれと遜色がないほどだ。すぐに次のボルトを装着する。獲物に当たったかどうかを確認しながらだ。
「おお!」
ボルトはレッドボアの頭蓋に刺さっていた。もちろん急所であるために即死である。突進したままの勢いでこちら側にズザザァと転倒してくるのが分かった。念のためにもう必発を眉間に向けて放つ。頭蓋骨を貫通する音がして、2本のボルトが生えた形になったレッドボアは絶命していた。
「さあ、どうやって持って帰ろうか」
ワイバーンもアイアンドロイドもいないのがこんなに不便だなんて……。
***
解体はウルガスが主体でやってくれた。氷魔法で肉を氷漬けにして、売れる部分だけ持って帰るのだという。骨とかがなくなると随分と少なくなったために二人がかりで背負って帰れるようだ。しかし、すでに日が暮れてしまっている。
「しかし、その弓はすごいな」
いざと時はウルガスが一人でレッドボアと戦う覚悟を決めてきたと言っていた。まさか俺が一人で短時間で倒すなんて誰も思っていなかったらしい。そんな事言われても……。せめて解体くらいはやると言ったウルガスはやっぱりいいやつなんだろう。ただし、距離が近い。
「帰ったら酒盛りだな! その弓についても教えてくれ!」
酒盛りは賛成だが、クロスボウは極秘扱いだ。
「弓は教えられん」
「む、そうか。たしかにそれだけ凄いものだもんな……」
一瞬だけ残念そうにしたウルガスだったが、すぐに割り切ったようである。
「しかし、ホープは面白いな。俺はもう少しギルドでしゅぎょ……稼ぐつもりなんだ。明日も一緒にどこかへ行かないか? 俺がいればそれなりに高額な依頼も受けることができるぞ?」
修行とか言おうとしなかったか? ウルガスも訳アリだな。しかしCランクが依頼に付いて来てくれるのはありがたい。なによりクロスボウを作ってしまったから金がないんだ。利害関係が一致したし、こいつと組むのも悪くはないだろう。
「ああ、いいよ」
しかし、こんな事をしていても魔人族の侵攻を止められるわけではない。セーラさんを救うためには何をしたらよいかは常に考えとかないとな……。
町に帰ったらすでに深夜だった。しかしそれでもウルガスは酒場に行きたいという。マジかよ、寝かせてくれ。
「いいじゃねえか、二人の出会いを記念して乾杯だ!」
「……乾杯」
めちゃ眠い。換金とかは明日だし、レッドボアの肉は氷漬けにして預けたし、もう帰って寝るだけだろう。解放してくれと思ったが、ウルガスに強引に酒場に連れてこられて酒を飲んでいる。
「がはは、しかし驚いた。まあ、他の技術は全く見れなかったわけだが、あの弓の威力だけでもCランク認定されててもおかしくないんじゃないか?」
前回はSランクだったからな。当たり前だ。しかし眠い。
「おう、本当なら俺の実力も見せたかったぜ。こう見えても「氷の槍」には自信があるんだよ」
氷系の破壊魔法か。俺は魔法使えないから関係ないな……と思っていた。しかし視界に入ったものが眠気を少しだけ飛ばす。
ウルガスの胸元。昼間は鎧をつけていたから分からなかったが、そこには氷の紋章が装飾されたペンダントが隠れていた。
あ、こいつ「アイシクルランス」だ。




