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If story -転生したあいつは魔法が使えないしメンタルも弱いんです。- 第3話

「ハルキ様~? 御飯の時間だよ?」

「ウォルターが舌打ちとかするせいッス。ハルキ様、落ち込んだッスよ」

「いつもの事じゃないか。それにお前たちが反抗するのもハルキ様にとってはストレスになっているに違いない」

「僕は反抗してないよ?」

「ノーム召喚サボってるのバレバレッス。いつもハルキ様、文句言ってるッスよ」

「そんな、本当に24時間召喚なんてできるわけないじゃないか」

「ふぉっふぉっふぉ、何にせよ坊っちゃまはこうなったら数日は出てこないでしょうな」


 宿の廊下でそんな声が聞こえる。あいつらが全然言う事を聞いてくれないから俺は部屋に籠って出てこない。落ち込みまくっているという状況である。



 ………と、見せかけて! 俺は窓から脱出していた!


「ふはは、もうあいつらには頼らん! いつもいつも人の言うことを聞かん部下なんぞ要るもんか。いざという時に頼りになるのは己のみよ!」

 そしてその己が「弱くてニューゲーム」のせいで最も頼りにならない。……いかん、もうだめだ……死の……


 なんて言ってられるかぁぁ! メンタル弱いハルキ=レイクサイドはこの際封印させてもらって川岸春樹人格で行くぜ!



 薬草採取の日々でEランクにまで上がっていた俺は他の町でもギルドの仕事ができるはずだった。最終的に自分をある程度鍛え上げて、他に仲間を作って魔人族に対抗できる戦略を練る必要がある。最悪、セーラさんだけでも守る必要があった。ジギルとかお義父さんあたりは犠牲になってもらおう。


「では、目指すはシルフィードだ!」

 毎日必死に薬草見つけるために歩き回っていたからか、少しは足腰が鍛えられたようである。初心者用の軽装の鎧と短剣も重さが気にならなくなっていた。よく考えたら前はフェンリルに乗っていたけどフルプレートを着こんでいた時期だってあるんだ。このくらいなんともないさ。



 シルフィードの町までは3日くらいかかった。一人で旅するというのはきつかったので、シルフィードへ行商に行くという商人を見つけて、格安の護衛としてついていったのである。ただし、盗賊や魔物が来たら逃げるしかないけどな。商人は結構簡単に騙せたけど、向こうも護衛が沢山いるぞってアピールをしたいから人数が増えること自体は歓迎するようだった。見張りの事もあるしな。


 次期当主がこんなところで行商人の護衛をしているとばれたら大変だけど、これも経験である。召喚魔法が普通に使えていた頃に比べるとかなりきついが、他にも修羅場ならいくらでもくぐってきたし、多分大丈夫だ。それよりもあいつらが使えないという事が分かったから、今後の戦略を大幅に変えなけれなならない。レイクサイド領が味方にならないなら、誰と組めばいいのだろうか。


 シルフィードの町は記憶にある通りだった。なけなしの金を払って安宿に泊まる。ここまで金に困ったのは初めてかもしれない。召喚魔法が使えた時は、討伐依頼をこなせば依頼料と食料が手に入ったからな。


「うーん、Eランクまでだとあまりいい依頼はないし。しかし、それ以上はきついかもしれない」

 シルフィード冒険者ギルドで依頼板を眺める。人脈を増やしていって、何かしらできる事を探すってのが今のところはできる事である。そのためにはそれなりの人物と知り合いにならなければならない。ただし、下っ端の状態でそんな人物と知り合っても話を聞いてくれないし……。できる事をコツコツとやるべきか、しかし、それだと間に合わない。


 依頼を眺めながらそんな事を考えていた。

「まあ、もっと考えないことには妙案ってのは浮かばないもんだ」

 あれだけ悩んでいたのに薬草採取の依頼を取って受付をする俺をいぶかし気にギルドの職員が眺めていた。



 ***



「しかし協力者がいない状況で俺も弱いままとか、何もできんな」

 薬草をブチブチと引き抜きながら色々と考える。他人の召喚魔法で生き抜こうとも思ったが、あいつらがあんな風では期待なんてできないしかといって俺は魔法が使えない。

「魔法が使えないなら、何ができるというのか……」

 つまりは魔法に変わる力というのが必要になってくるのではないか? それも一人の力ではなく、最終的には集団でも発揮される力というのが必要である。


「でも運動は苦手なんだよ……」

 もともと運動神経なんかからっきしである。前回もあれだけ色々やったというのにほとんど直接戦闘では活躍なんかできなかった。少なくとも部下たちの領域にまで自分を鍛えあげる事は不可能だし才能はないだろう。今も薬草の群生する地域に生息するゴブリンをなんとか追い払うのが精一杯である。町に帰ったら装備を改めよう。短剣だけだと心許ない。まずはもうちょっときちんと一人で生き抜く力が必要だな。


 ***


「はあ、それでこれを作れっての? まあ、できん事はないけど」

 鍛冶屋に持ち込んだのはクロスボウの設計図である。これはレイクサイド領でひそかに開発していたものであるが、召喚魔法が使えない騎士やワイバーンに乗った状態で他の魔法が使えない召喚士のためにわざわざ前世の知識を総動員したあげくにダンテたちに試行錯誤させてつくらせた物だった。開発に携わっているから細かい部品の事まで分かる。


 ただし、それをこのシルフィードの町の鍛冶屋に技術提供するつもりなんて全くない。3つほどの工房にそれぞれ部品を別々に注文して自分で組み上げるのだ。さらにはシウバ達が持ち込んだ技術を応用して、クロスボウから放たれる矢には魔力を帯びさせることもできるのであるが、今回の場合は俺が魔法使えないので省略する。単純な木の部品を怪訝な顔をしながら、それでもきちんと作ってくれる工房を後にして、宿の部屋でクロスボウを組み上げた。矢も矢羽が付いているわけではないためにボルトの形状に近い。金属製のこれを飛ばすと、至近距離から簡単な鎧であれば貫くことができるほどの威力になる。やや、クロスボウが重いのが難点であるが、それは今後筋肉を鍛えるしかないだろう。練習あるのみ、という事でこれから2日ほどは練習に費やした。そしてほとんど金がなくなった。


「試しに、はぐれたレッドボアの討伐なんてちょうどいい依頼があるじゃないか」

 ギルドの依頼板には沢山の依頼が出ている。その中でもEランクが背伸びすれば手が届きそうな依頼があった。ちょうど単独でやれそうだし、クロスボウの試し打ちにも良さそうだ。

 郊外で練習していたけど、動いている的に当てたことがないために不安ではある。


「うーん、あなたの実績ではちょっと不安ではあるんですけど、お一人ですか?」

 依頼を受けようとすると受付嬢に止められた。たしかに俺は薬草採取くらいしかしていない。ギルドに信用がないのも納得である。でも、金ないんだよ。

「もう一人くらいおられたら受理しやすいんですけど……」

 受付嬢も大変である。無謀な依頼を止めなけれなならない立場にあるのだ。しかし、俺は単独である。ここでもめてお義母さんに目をつけられるのもイヤだ。諦めて他の依頼にしようかと思っていると、受付嬢はこう提案してきた。


「私どもが推薦する方と組んでみませんか?」


 要はちょっと暇な先輩冒険者が駆け出しのために依頼について行くといったものである。こういうシステムを導入しようかと計画中らしく、もちろん立案者はお義母さんことギルドマスターであるニア=チャイルドだ。さすがです。

「ええ、分かりました。お任せします」

 正直、クロスボウで目立ちたくはなかったけど、変わった形状の弓を持ってる変な奴というのがバレている以上は限界があるだろう。びっくりしても騒がないでくれとお願いするしかない。


「じゃあ、お昼にもう一度来てください。それまでにこちらから推薦する方に依頼を出します」


 仕方ないので午前中に終わりそうな薬草採取を行って、金がないからお昼は抜いてギルドに戻る事にしたのである。そこで出会った人物が、運命の人と関係があるなんて全く考えてもいなかったけどさ。


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