If story -転生したあいつは魔法が使えないしメンタルも弱いんです。- 第2話
まず、この領地をなんとかしないと戦力の増強どころではない。だが、こんな誰にも尊敬されない次期当主の命令をきちんと聞いてくれる奴は皆無である。若干、遊びに付き合う程度で爺と、修行がまったく進まないテトがいるくらいだ。このままではセーラさんが危ない。
「とりあえずはテトの魔力を上げてワイバーンと契約させねば何処にも行けないし、そのためには契約素材が必要だな」
だが、アランのアホは俺に使うならまだしもテトの契約にバカ高い魔石をくれるわけなかった。ノーム契約をさせてやっただけ感謝しろだと? この野郎、ロージー産まれても抱っこさせてやらねえぞ?
「いかん、詰んだ」
金がない。何もできん。終了だ……死のう。
とりあえず2日落ち込んで何もしなかった。
「ねえ、ハルキ様! すごいよ! 言われた通り寝てる時もノーム召喚してたら魔力が上がったんだ!」
そしてテトは今までサボっていたというのがバレバレな発言で俺を攻撃してくる。しかも実際はたいして上昇してない。
「これは根本的に戦略を考えねば……」
前回のように好き勝手できた状況ならばまだしも、今回は完全に魔力皆無であるため、人間扱いされていない。前回もかなり縛りがひどかった気がするけどな。神楽死ね。
次期当主としてレイクサイド領を発展させる事で魔人族の侵攻に対抗しようと思っていたが、無理かもしれん。では、他に魔人族に対抗できる策があるのか?
時代はアイオライがまだ第3位の王位継承者であり、アレクセイ=ヴァレンタインとクロス=ヴァレンタインの残念コンビがのさばっている頃である。中央に俺の意見を聞くやつなどいない。ジギル=シルフィードは大領地の領主であるがクロス=ヴァレンタインがいる限りはそこまでの発言権はないだろう。レイクサイドとの連携で実績を積み上げたあとならまだしも、数年前の侵攻で一度勝利に貢献しただけなはずだ。
そもそも俺もレッドドラゴンで派手な登場をして一気に有名になったわけだが、それがなければただのボンクラな次期当主である。ローエングラム=フラットの方がまだましといった所だろう。
権力が手に入らない今、それを使わないと成功しない作戦は取れない。手足になって動いてくれるのはせいぜい、数人くらいだろうか。もう少しなんとかならないだろうか。アランのバカがなんとかして俺の回りに数人つけたくなる状況を作らないことには始まらない。
***
「と、言う事で」
「何がと、言う事なのさ!? 何で僕まで!?」
「ふはは、これも全ては人類のためなのだよ」
「意味分かんないから!」
アランに恐喝に近い形で承諾させたのが武者修行である。魔法が全く使えない思って護衛に数人寄越せと言ったのでウォルターとヘテロを使命してやった。フィリップは拒否されたがな。と、言う事で爺とテトを含めた5人でスカイウォーカーを目指している。歩くの疲れた。休憩しよう。
「ハルキ様、ダメッスよ。修行にならないッス」
ヘテロめ、完全に忠誠の矛先が俺ではなくてクソ親父に向かっている。領主のバカ息子をなんとかして修行させかつ護衛するという使命に燃えているのだろう。騎士団では特に使えないという評価だったくせに……。
ズルズルとヘテロに引っ張られて歩く。スカイウォーカーの町ってこんなに遠かったっけ? そう言えば歩いて行ったことは一度もなかったな。
「ふぉっふぉっふぉ」
後ろから笑いながらついて来るのは爺である。最初にスカイウォーカーに行ったときは「鬼のフラン」として大騒ぎになったもんだが、宝剣ペンドラゴンを佩いて来ていない。それどころか鎧つけてねえじゃねえか。完全にやる気ねえな、おい。
「…………」
ウォルターはずっと口すら聞いてくれない。さっきから護衛の任務を淡々とこなしているだけだ。こいつら、本当にあの部隊長たちか?
「ハルキ様、邪魔だからノームの召喚やめていい?」
「いいわけないだろ。その程度の魔力でワイバーンが召喚できるか」
「ワイバーンの召喚ってなんだよ、そんなの聞いたことないよ。だいたい魔石もないのに召喚契約なんてできるわけないじゃないか」
「だから、その魔石を調達しに行くんだよ」
そうである。目的地はスカイウォーカーの冒険者ギルドだ。このメンツならば、それなりの依頼がこなせるはずである……と、思っていたが爺がやる気ないんだよな……。
それにレイクサイド領にギルドがないってのはどういう事だ? たしかになかったからカワベの町を建設した時にでかいのを作らせた記憶はあるんだが。
結局3日かけてスカイウォーカーの町にたどり着いた。足は豆だらけだし、ヘテロは待ってくれないしで大変だった。
「おし、とりあえずは宿を決めよう」
資金が足りていないのは分かっている。いつもならばそこそこ良い宿をとるのだが、この際安宿で勘弁してやろうと思う。
「「「え?」」」
このボンクラ次期当主が安宿で勘弁してやるとか本気で言っているのか? みたいな顔を全員にされてしまった。本当にハルキ=レイクサイドはどんな生活を送ってきたんだよ……。覚えてるけど。
「ええい、うるさい! 金がねえんだよ!」
宿なんかに金を使うくらいならば魔石を購入するわい。一刻も早く召喚騎士団を立ち上げないことにはセーラさんが危ないんだ。
「飯食ったらギルドに行くからな!」
「えぇ~、僕疲れたよ。ハルキ様もそうでしょ?」
「テト、ノーム召喚追加で3匹な。まだ魔力あるのは分かっているぞ」
「げ、ばれてたの?」
はやくウォルターにもヘテロにも魔石をつかって召喚契約をしてもらわなければならない。というよりもレイクサイドの財政を使うことさえできていたらこんな悩みはなかったんだ。数人の魔石くらいならなんとかなるだろうに。あのクソ親父め。
ヘテロもウォルターも疲れたのか、ボンクラの道楽だと思ってるのか積極的にギルドへ行こうとしない。そんな連中の尻を叩いてなんとか安い昼食後に冒険者ギルドの門をくぐったのだった。
「Fランクですね」
受付嬢に現実を突きつけられたのはその時である。
「おい、爺。Sランクカードを提出してやれ」
「はて、私はギルドには登録をしておりませんが……」
嘘をつけ! お前は「鬼のフラン」でSランクだろうが! 俺たちは全員登録していないから、このままではFランクの薬草採取から始めなきゃならんのだぞ?
「そう言われましても……」
「飛び級にはギルド関係者の推薦が必要となります」
「爺、レンネンに話を通してこい」
「はて、私はここのギルドマスターとは知り合いではございませんが」
レンネンがギルドマスターだと分かった時点で知ってるじゃねえか。
「ハルキ様、ズルは良くないッス。ここはきちんとFランクから冒険者として修行をするッスよ。俺らも付き合うッス」
「………………ちっ」
ヘテロがいらん事を言う。そしてウォルター! 今、舌打ちしたよね!?
「ハルキ様、ノーム送還してもいい?」
「いくない!」
こいつら、尊敬しない相手にはいつもこういう感じだったのだろうか……。
仕方ないので、スカイウォーカー周辺の薬草採取の毎日が始まった。ついでに薬草が生えている周辺の魔物が出たら倒すという感じだ。だが、俺が魔法がほとんど使えないという状況で、ヘテロもウォルターも召喚魔法がない。テトはノームの召喚契約しかしていない。爺はやる気がない。こんな状況でせいぜいゴブリンを狩るのが精一杯というのが続いたのである。セーラさんを救う道のりは長い……。




