「進め! ホープ=ブックヤード!」 第6話
これ、いつ終わるんだろうか……
「だからぁ! ハルキ様ぁ! なんで挨拶もする暇もなく回収されたってのにぃ、やる事ないって、どういう事なんですかぁぁ?」
カワベの町の冒険者ギルドの酒場で俺を捕獲した人物はそう言った。
「いや、でも、俺もよく知らんし?」
「知らないってぇぇ!? 知らないのにぃ、第2部隊に回収させたんですかぁ? 挨拶もできなかったんですよぉ?」
「待って、ユーナ。それは俺じゃなくて受付のおっさんだから。いや、俺の耳を引っ張っれって言ったわけじゃあないんだけども」
たまたま人出が足りてなくて飲み物を持って来てた受付のおっさんがユーナに捕まる。こいつたしか、この冒険者ギルドでは上から二人目くらいのえらい奴だったんじゃ……。
「説明してくださいぃぃ!!」
「いや、だから俺もウォルターにまかせっきりでよく知らないんだよ」
「説明いたしましょうか?」
急に背後に回った人物がそう言う。
「なぁ!? 爺、いつの間に!」
「ふふふ、たまにはユーナもいい仕事をします」
「フラン様ぁ! どういう事なんですかぁ?」
酔っ払いユーナの状況を知るのはウォルターたちなんだけど、フランも知っていたようだった。俺、何も分からんのだけれども……。
***
「つまり、その人が渦中のエジンバラ領でよく分からん事やって暗殺された家の唯一残った跡継ぎってわけ?」
ユーナが一緒に行動していた人物というのはシウバ=リヒテンブルグといい、エジンバラ領で反レイクサイドの急先鋒を務めていたリヒテンブルグ家の遠縁にあたる人物だという事だった。なんでそんな事になっているのかというのは謎である。一説によるとヘテロが悪いとか。
「え? でも、話聞くとすでに前の世代から平民になってるんだろ? 関係なくね?」
「それが、まわりの者たちからすると関係あるのですよ。本人の意志に関係なく」
なるほどね。本人がどう思っていようが周りがそのように動いてしまえば排除せざるをえなくなるというわけね。どの世の中も仕組みは同じというわけか。
「なんか、ちょっと可哀そうな気もするんだけど……。まあ、俺には関係ないし?」
「ハルキ様?」
ドンっと、エールのジョッキがテーブルに叩きつけられる。叩きつけたのはもちろんユーナだ。
「でも、セーラさんに逆らってそいつを救うってのも無理なような気もせんでもないような、いや、まあ、頑張ればいけるような、いけないような?」
「坊っちゃま……。」
「いや、どうすりゃいいねん!?」
もう分からん。
「分かりました。ここは私がなんとかいたしましょう」
「フラン様?」
「セーラ様が率いておられるのは基本的に第2部隊でございます。つまり、私であれば、奴らがそのセウバ? 様をどうしようともお守りできるわけですな」
「しうば!」
「そう、シウバ様」
うん、いい考えだ。特に爺がどっか行くというのがとてもいい感じである。
「よし、では、それで!」
「お待ちください」
逃げようとすると、むんずっと首根っこを掴まれる。掴んだのはもちろん爺である。
「ハルキ様にはお仕事が残っていると奥方様からの伝言でございます」
「ハルキ様、ダメじゃないですかぁ。仕事、してください…………あ、ミアさんたちだぁ……」
これ、ユーナ。君のためにフランを派遣するという流れになったというのに俺を助けないというのはどういう事だね? そしてフランの後から駆け付けた第一部隊のミア班が俺を連行していった。
「おい、ダスティン。ヨーレンはともかく、なんでお前までいるの?」
レイクサイド領主館、領主の部屋。執務室はセーラさんに占領されてしまったために俺はここにロージーと一緒にいる。
「それは、前回の失敗があったから罰としてフラン様の代わりを押し付けられたのです」
「むさくるしい男二人に監視されるとか、マジ勘弁なんだけど……」
「むさくるしさはヨーレン殿がいるから4割増しになっているのであります」
「こら、てめえ!」
二人の喧嘩は放っておいてロージーと遊ぶ。最近、いたずらばっかりやってるらしいからな。ここはちょいと父親の威厳というやつを見せつけておかねばなるまい。
「よし、ロージー。父とお出かけだ」
「どこいくのー?」
「森」
***
「それで、ここならば逃げた事にはならないから来たと。たしかにここはレイクサイド領だ」
「びゅーりんぐ! びゅーりんぐ!」
「おぉ、ロージー様。また大きくなられた」
「びゅーーりんぐーー」
大森林世界樹の村。ヨーレンとダスティンの護衛に加えてカーラとソレイユまで付いて来ているから結構な大所帯になってしまっている。
「でっけえ……」
「カーラ、任務中だ」
世界樹を始めて見たカーラは開いた口が塞がらないらしい。ソレイユは平常運転である。
「ロージー、今日はここに泊まっていこうな」
「母上は?」
「母は忙しいんだってさ」
セーラさんは執務が結構立て込んでいるらしい。いつの間にか経営権を取られている気がしないでもない。ビューリングに肩車をしてもらっているロージーが若干悲しそうな顔をしたが、次の瞬間にビューリングの鬣を掴んで遊びだした。最近はやりのゴーレムごっごらしい。こっちのゴーレムはロボットじゃないから操縦桿なんて知らないはずなのに、どこの子供もやる事は同じである。
「インク、ハルキたちをもてなす準備だ。そうだ、昨日キラーマンティスが……」
「だから、虫はやめろ」
「おっ、ハルキ様じゃねえか。久しぶりだな」
獣人騎士団が見回りから帰ってきたようだ。ガウが顔を出す。
「お帰り。問題はなかったか?」
「いや、大将。ちょっとまずいかもしれん。結構な数が発生してやがる」
聞くと、大森林の南にある湖の近くにワータイガーのようなが発生しているようだ。しかし、普通のワータイガーではなく、すこし小柄なんだとか。それに動きが早く樹にも登るという。
「もしかしたら、レオパルドかもしれないと思っていてな」
「レオパルド! だったらSからSSクラスの魔物だな!」
魔物オタクのヨーレンが目と頭皮を輝かせる。要するに豹型の魔物か。
「よし、ヨーレン、ダスティン狩ってこい。ノルマは一人2匹な」
「えぇ! 俺もっすか!?」
ダスティンが若干不服を言う。ヨーレンは嬉しそうだ。
「いや、助かる。ワイバーンがあるだけでもかなり違うからな」
獣人騎士団の弱点は機動力だ。ワイバーンで連れて行ってやるとかなりの威力を発揮できるだろう。
「何往復させる気だよ……」
「カーラとソレイユも行きたければ行っていいぞ?」
「えっ、いいのかい? じゃあ私たちも行こうかな。ね、ソレイユ」
「うむ、久々に冒険者をするのも悪くない」
ふへへ、うまくいった。そしてロージーをビューリングに押し付け…………。
「はるき! はるき! 僕もいきたい!」
計画は失敗したようだ。仕方ないから俺はウインドドラゴンを召喚してビューリングたちも輸送する羽目になってしまった。しかし、セーラさんが「母上」で俺が「はるき」とはどういう事なんだろうか。教育がなっとらん。親の顔が見てみたいものである。




