「進め! ホープ=ブックヤード!」 第5話
「ミア! ついにフィリップがやらかしたぞ!」
「ハル……ジェイガン! もしや!」
「プロポーズ成功だってよ! 急いで帰るぞ! 今回の逃避行はこれで終了だ。魔物乱獲と引き換えにジンビーに依頼された量はあとどのくらいだ?」
「まだ2/3しか終わってません! ゴーレムもノームも少ないもので。」
「まあ、ミア班3人じゃ仕方ないか。召喚! 急ごう! たまには俺も本気出すぞ!」
ジーロからの情報で、ついにフィリップがリオンに求婚したらしいというのが分かった。リオンの方はいつ結婚を切り出してくれるか待っていた状態であるし、周囲の根回しも全て終わっている。リオンは王都ヴァレンタインでアイオライ=ヴァレンタインの護衛隊長をしているダガー=ローレンスの養女となる事が決まっており、それでオーケストラ家へ嫁ぐという形をとらせるのだ。
ミアたちが作業をしていた石切り場でクレイゴーレム3体とアイアンドロイド20体を召喚する。作業の内容は単純なものであるし、こいつら3人の仕事量であと3日であれば、俺がいれば昼過ぎには終わるだろう
「ハルキ様、ついにお帰りになられるのですね?」
ワイバーンが着地し、俺に振り回されていたジーロがほっとした顔をしているのであるが、それは俺と行動するのが嫌だったのだろうか…………。
「いや、ついに終わっちゃうと思ウト残念デスネ」
「ほんとにそう思ってる……?」
「お、思ってるに決まっておりますです! し、しかし最近ハルキコールに加わっていないという寂しさもあり、やはりハルキ様には領主として我々を導かれるお姿がもっとも恰好よくかつお似合いでございます!」
なんだか、少々嘘くさい気もするが……。
「しかしフィリップ様とリオン殿の結婚に際してしなければならない事も多いと存じますが……」
「そうだ、確かに! こうしちゃいられないんだよ!」
若干クレイゴーレムたちに込める魔力を増やす。作業が早くなるはずだ。
「ジーロ、町に行って魔力ポーション買って来てくれ。あるだけ全部。経費はウォルターに請求しといてね」
「は、はい!」
ジーロはワイバーンを召喚してエル=ライトの町へと向かって行った。
***
「というわけで今度のは逃避行ではない」
レイクサイド領に帰った俺は次の地へ行く予定としていた。これはいつもの逃避行ではなくて、やらねばならない事なのだ。ふへへ。
「ハルキ様、少しばかりかエジンバラ領の方で不穏な動きがあります。お気をつけ下さい」
ウォルターが物騒な事を言っている。
「待てよウォルター、早くしないと爺が帰ってくるだろ?」
「跡目争いで死人がでております。現在状況を調査中ですが、我らに反抗的な一派の主だった貴族が暗殺されてからというもの、動きに予測がつきません」
メンドクサイことこの上ない。
「後は任せた。イツモノヨウニ」
「御意、お気をつけて」
ふへへ、たまには逃避行ではない逃避行も良いものだ。
「フラン様にはどのように……」
「今回のは、俺の仕事と言ってよいから、帰り次第合流しろと伝えておいてくれ。場所は教えないがな! はっはっは!」
……翌日どころか、その日のうちに捕捉されたのは言うまでもない。
「坊っちゃま、ダガー様がいらっしゃいました」
王都ヴァレンタインの王城の一室に転がりこんだ俺はアイオライと酒を飲みながらダガーが来るのを待っていた。怪魚ムヒョウをお土産で渡したら、蒲焼きと焼き串にして出してくれたから、すでに当初の予定とかどうでもよくなっている。全てダガーが来るのが遅いのが原因だ。
「お久しぶりです、ハルキ様」
「おいすー、飲み過ぎには注意シロヨ!」
「ハルキ、飲み過ぎだじょ!」
完全に、この時の事を覚えてないんだけど、翌日二日酔いでジギルに説教されたのは覚えている。
「今度、フィリップが結婚すんだけど、養子縁組よろ!」
「ぶぅっ!! ハルキ様! フィリップ様に縁談が来てたんですか !?」
帰りのタクシーもといウインドドラゴン要員のリオンが慌てる。何故?
「あれ? 違ったんか?」
「い、いえ、差し出がましい口を挟みました。申し訳ありません!」
「あり?」
おかしい、フィリップがリオンに告白したというのはデマだったのか? せっかくリオンを養子縁組予定のダガーに引き合わせようと思ってきたのに。といってもアイオライがうちの領地に来る度に送って帰るのはリオンだから面識はある。すでに話もつけているから、今回正式に決まったよと言いに来るだけの予定であったんだけども?
「坊っちゃま、リオンは勘違いをしているだけでございます。フィリップの相手が他にいるのではないかと」
「なんだと!? リオンの他に相手がいるだとぉぉ!!」
「ぶはっ! ハルキっ! 魔力が漏れてノームが召喚されておりゅぞ!」
「にゃんだとぉ!! アイアンドロイド! あのノームを強制送還しろ!」
「馬鹿もん! さらに色々とが増えたではにゃいか!」
後から事情を聞くと、こんな感じだったらしい。
***
翌日、何やら半壊している王城の一室を後にしてレイクサイド領に帰る。
「さ、昨夜は申し訳ありませんでした。まさか、ハルキ様が私たちのためにここに来ていただいたなどとは思わず」
リオンが何か言ってるけど、頭痛いし、ジギルの説教は長いしで大変だ。
「リオン、よく覚えてないけど、結婚おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
「だいぶ遅かったけど、やる時はやる奴だから」
「は、はい」
「フィリップをよろしく」
「わ、分かりました」
二日酔いの俺と違って、リオンのウインドドラゴンはさっさとレイクサイド領まで帰ったのだった。
「さあ! それじゃ、次に行ってくるよ!」
帰って早々だけども、逃避行が俺を呼んでいる。
「ハルキ様、フィリップの結婚以外にも仕事は山積みなんですよ?」
「セーラさん、俺にとって逃避行はすでに生き甲斐なんだ。これをやめる事はあまりにも不自然で、むしろやらないと歪みがでてくるというか、……なんで窓の外に第一部隊が展開してるのかな?」
「呼んでおきました」
全てを許したくなる笑顔でセーラさんが言う。いつの間に……。
「えっと?」
「ハルキ様、仕事してくださいね」
「…………」
二日後、なんとかして脱出した俺は何故かカワベの町で飲んだくれていたユーナに絡まれて、そのせいで第一部隊に捕獲されてしまった。
新橋のうなぎ串屋で一人飲みながらスマホをいじる変な酔っ払いがいたとか……。




