「進め! ホープ=ブックヤード!」 第4話
だから、第三部を書けと
勢い余って東の海まで出てしまったのだが、このままではヒノモト国に行きついてしまうために途中で進路変更して南に回ることにした。さすがに本日二体目のウインドドラゴンの召喚はつらい。どこかで休憩したいところである。
「一番俺が行きそうにない所に潜伏するというのもありだが……」
そろそろ行動パターンも読まれ始めている頃だと思われる。第2部隊を出し抜くためには何をしなければならないかを考えた方がいい。
「テトの性格だから、どうせダスティやヨーレンを収容しているに違いない。で、あるならばどこかで第2部隊からの情報を受け取るつまりかもな……」
むしろこちらを追いかけている連中の行動パターンを呼んでやって裏をかくのがいいだろう。であるなら…………。
***
「死ぬかと思いましたわ、新婚早々」
「いや、ごめんよ。でも、あれはハルキ様が悪いんだよ。だいたいミアたちはなんでハルキ様と行動してたんだよ。捕まえてくれれば良かったじゃないか、捕獲率一番高いのはミア班なんだからね」
エル=ライトの宿である。ここはハルキ=レイクサイドがたまに泊まる事で有名なのであるが、そこにハルキ捕獲班およびジンビー=エル=ライトに依頼を受けていたミア班が泊まっていた。捕獲班は第2部隊からの情報が入るまでは待機。ミア班は先ほどジンビー=エル=ライトとの対面が終わり、二日後の採掘現場での仕事が入るまでは待機、という事でこの宿で定評のあるボア系料理に舌鼓を打っている。
「しかし、坊っちゃまはまたしてもお強くなられた」
あともう少しのところまでハルキ=レイクサイドを追い詰めたフラン=オーケストラが苦虫をつぶしたような顔でうめく。そしてレッドボアのポークチョップ(ハルキ命名)にフォークを突き立てているのだった。
「いやいや、フラン様にはお分かりかもしれませんが、俺らからしたら出会った時点で雲の上のお方っすわ。あ、マスター、御飯おかわり」
白飯をもりもりと食いながら第3部隊ダスティ=ノーランドが言う。ダスティは普段はレイクサイド騎士学校で教鞭をとっているほどの優秀な召喚士であるが、外の任務になると素の性格が出過ぎて暴走するというために、たまにこうやって連れ出される時はヒルダの下ではない事が多い。
「お前、何も追加で召喚されずにやられてたもんな」
「なっ!? ヨーレンさんこそ魔物みたいにフライアウェイ! だったじゃないですか!」
「フライアウェイとか言うな!」
「フライアウェイ!!」
ワイバーンで近くの湖に落とされたヨーレンはずぶぬれで帰ってきた。ちなみにいくら低空飛行でもそれが地面だったら死んでいる。途中で自身を救出するために召喚したワイバーンはハルキのワイバーンにことごとく置いて行かれていた。しかし、本来はヨーレンは第5部隊副隊長であり、召喚するワイバーンの速さに勝てるのは部隊長のヘテロ=オーケストラと「疾風」ユーナのみであると思われている。
「ミアたちはどこに行くんだっけ?」
「テト様も上を飛んだと思いますが、フラット領との境にある石材場ですわ」
「あ、帰る方向だね」
「そうとも言いますわね……」
ダスティが3杯目の白飯を頼もうかとしている最中に第2部隊の諜報員が入ってくる。彼の名前はジーロ。下から数えた方が速いほどの下っ端であるが、第2部隊に入っているだけで、かなりの実力者であるのは間違いない。
「フ、フラン様……ハ、ハ、ハルキ様のご、御情報が……」
「なんと! 前書きは良い。早く報告しなさい」
「は、はいっ! えっと、シルフィード領上空で南西へ向かって飛ぶウインドドラゴンが目撃されておりました。あの方向は小領地郡ではないかと…………」
「なにっ!? まるっきり逆方向ではないか! では、あの後すぐに方向を変えて南回りに西へ向かったのですね! こうしてはいられない! テト! 急ぎますよ!」
「えぇ、小領地郡まで飛ぶのぉ?」
「おぉ、まじかよ……」
さらに残った料理をダスティがかき込む。いそいそと捕獲班が出立の準備を始めた。
「健闘を祈りますわ」
「ありがとう、ミア。そっちも頑張って」
こうして捕獲班の四人は宿を出ていった。残されるのはミア班三人と第2部隊のジーロである。
「ミア様、ハルキ様って本当にすごいですね。もうシルフィード領にいるんですって」
「ほんと、神出鬼没とはこの事ですね」
シスタとファラがミアに笑いかける。しかし、ここで唯一笑えていない人物がいた。
「どうしたんですの? ジーロ?」
「ミア様……おれ……いえ、私はもう生きていけないかもしれません……」
真っ青になってつぶやくジーロ。
「え?」
「あの「勇者」フラン=オーケストラ様を……「鬼」のフラン様を……騙してしまうなんて…………」
「ふへへ、良くやった」
ジーロの後ろから出現するハルキ=レイクサイドことホープ=ブックヤード。ここエル=ライト領で初心者用の冒険者装備を買って装備している。ぱっと見にはハルキ=レイクサイドには見えない。
「「「ハルキ様!?」」」
「ぎゃはは、爺たちもさすがにジーロが脅されているとは気づくまい」
宿の窓から飛び立つウインドドラゴンを見てホープ=ブックヤードは悪い顔をしている。
「ほんと、なんて悪知恵が回ることでしょうか……」
「悪知恵とは心外な、騙されるあいつらが未熟者なんだよ、な! ジーロ」
「ううう、私を巻き込まないでください……」
哀れジーロはその後フラン=オーケストラの集中特訓合宿に強制的に入れられていたようであるが、それはホープのあずかり知らないところである。
「よしよし、これでだいぶ時間稼ぎができたぞ」
小領地郡は完全に大陸の反対側である。向こうに到着して騙されたことに気付いても数日は戻ってくるのにかかるだろう。その間は好きな事ができそうだ。
「これからどうなさるんです?」
「ん?」
「え?」
「…………決めてない」
「とりあえず、何するか決めるまではミア班に潜伏しよう! 潜伏中はジェイガンになるから呼び方に気をつけてね」
「は、はあ……」
領主命令のために拒むことができないが、思いっきり複雑な表情の三人。それを気づかず、エル=ライト領とフラット領の観光を計画しだすホープ=ブックヤードこと、ジェイガンこと、ハルキ=レイクサイドであった。
「おい、ジーロ。この辺りの観光名所を調べてこい。飯食ったら行くぞ」
「えっ、まだ解放してくれないんですか?」
「…………え? ……いやだった? ……………………」
「そ、そ、そんな事な…………!」
「あ~あ、ハルキ様落ち込んじゃいましたね。これはジーロのせいですね」
「そんな!?」




