つばきちゃんに授業しました

―――

　「あっ、涼馬さん！」

「つばきちゃん……!?」

数日後の放課後、楓ちゃんの生徒会が終わるのを外で待っている時につばきちゃんに会った。

つばきちゃんは俺を発見するとジャンプして俺に飛びついてきた。俺がギリギリ回避した。

「な、なんで避けるんですか涼馬さん!?」

「あ、ああごめん、他の女の子と触れ合うの禁止って、楓ちゃんに言われてるから……キミを嫌がってるとかじゃないんだ、気を悪くされたなら謝るよ」

「えー？　今中条会長いないじゃないですか。中条会長がいる時は邪魔されますけどいない今が大チャンスだと思ったのに」

「今はいなくてもあとでバレるんだよ絶対。発信器つけられてるし匂いとかでもすぐに気づかれるし」

「へぇ、涼馬さんも大変なんですね」

「ま、まあ……」

大変と言えば大変だけど、心の奥底では超可愛い巨乳女子高生に監視管理されるのも悪くはないかなとか思ってしまってる変態な自分がいるのを否定できない。ペットの適正あるんだなぁ俺。このことは誰にも言えない。

「ところでつばきちゃん、楓ちゃんから聞いたけど部活やってるんじゃなかったっけ」

「今日は部活休みですよ」

「そうなのか。そういえばつばきちゃんは何の部活やってるんだ？」

「バレー部ですね」

「へぇ、そうなんだ」

つばきちゃんバレーボールやってるのか、初めて知った。

「バレーボールといえば以前体育の授業で中条会長が活躍してるのを見て鼻の下を伸ばしてましたよね涼馬さん」

「うっ……」

あの時バレーボールをする楓ちゃんに見惚れてたのは事実だし何も言えない。楓ちゃんの揺れる胸を思い出してしまってムラムラしてきた。

「確かに中条会長もなかなかやるようですが、私だってバレーボールなら負けませんよ」

「すごいなぁ」

「あっ、中条会長といえば！　聞いてくださいよ涼馬さん!!」

「な、なんだ!?」

急に血相を変えたようになったつばきちゃんに俺はビクッとした。

「私の秘密基地が……サボるのにちょうどよかったあの部屋が、中条会長に没収されてしまいました……!!　私もうあの部屋使えません……」

「あっ……」

そういえばあの部屋が楓ちゃんに見つかってしまったんだった。あの時のことを思い出そうとすると楓ちゃんのいい匂いとか胸の感触ばかり思い出してしまうからつばきちゃんが使ってた部屋だってことすっかり意識から抜け落ちてしまっていた。

「ごめんつばきちゃん……あの部屋に俺が入ったから楓ちゃんに見つかってしまった……だから俺のせいだ、ごめん」

「いや、涼馬さんは追われてただけですから。それを言うなら堀之内さんのせいですね。堀之内さん許すまじ！

堀之内さんのせいで秘密基地を失いました！　私はこれからどこでサボればいいんですか～！」

「いや、サボるなよ。授業に出ろよ」

楓ちゃんだって嫌がらせじゃなくてつばきちゃんに授業に出てもらうために秘密基地を没収したんだろう。たぶん。

「えぇ～？　授業つまんないですもん。授業なんて出なくてもテストは余裕ですし」

「いくらテストできてもさ、出席日数が足りないとヤバイんじゃないのか？　この学校そういうところ厳しいんじゃないの？」

「そこはホラ、野田グループの財力でちょちょいと……」

「学校買収すんなよ！」

もう金持ちはメチャクチャだな。俺には逆立ちしたってできないようなことを軽～くといったノリでなんとかしやがるとは。

「……でもまあそうですね、涼馬さんが来てくれてからはちょっとは学校が楽しくなってきたんで、ちょっとは授業も出ようかなって気持ちもあるんですよ」

「お、やる気出してくれたか!?　ちょっとと言わずに全部授業出よう！」

「……でも一度サボり癖がついちゃうとすごくめんどくさいの気持ちの方が圧倒的に勝っちゃうんですよね～」

「そこをなんとか頑張れ！　いくら大金持ちだからって、高校生の頃からサボり癖なんかつけてると大人になってからロクなことにならんぞ！」

「あはは、先生みたいなこと言ってますね涼馬さん」

「先生ではないけどな、一応人生の先輩として忠告しておきたいんだ。俺は超無能で会社もクビにされた！　絶対に俺のようにはなるな！　俺を反面教師にするんだ！」

「なるほど……そこまで言うなら涼馬さんが授業してくださいよ！」

「え、俺が!?　授業!?」

「はい、教師って言ったじゃないですか」

「いや反面教師って言ったんだぞ」

「教師は教師ですよ！　私、涼馬さんの授業を受けてみたいです！　涼馬さんの授業なら私、真面目に聞きます！」

俺に教えられることは何もないって前に言ったはずなんだが……あるとしたら『俺のようにはなるな』ってことだけだ。それでそれはついさっき言った。

「でもつばきちゃん、すごく頭良いんだろ？」

「はい、クラス1位です」

「あのさぁ、わかってるとは思うが俺の方がはるかにバカだぞ？　自分より頭悪い奴の授業聞いてどうするんだよ」

「いいじゃないですか、どうせ今ヒマでしょう？　図書室で勉強しましょう！」

確かに楓ちゃんが生徒会終わるまではヒマだし、つばきちゃんが少しでもやる気出してくれたんなら協力するべきか……これを断ったらまたつばきちゃんがやる気なくすかもしれんし……

　というわけで、図書室でつばきちゃんと勉強をした。

俺の高校時代大学時代の知識をフル回転させて必死に頭を働かせたが……

……わかってはいたが、学力においてつばきちゃんに完全敗北した。どの科目も手も足も出なかった。

当然ではある。つばきちゃんは名門お嬢様学校のトップの成績。それに対して俺は、下から数えた方が早いくらいの平凡高校出身だ。さらにその平凡高校の中でもしょぼい成績、それが俺だ。どうあがいても勝てるわけがない。

そう、当然の結果ではあるのだが、一応大卒の俺が女子高生に完全敗北するというのはなかなかダメージは大きい。

「涼馬さんって思ったよりバカなんですね！」

「…………」

そしてハッキリと言うつばきちゃんの性格が炸裂。つばきちゃんの直球の言葉が俺をグサッと貫いた。

つばきちゃんはさわやかな笑顔である。悪気はないと思う。しかし悪気がないからこそダメージを受けるのである。俺は机に突っ伏して項垂れた。

だからバカだって言ったのに……

　日が暮れてきた頃、つばきちゃんとの授業はそろそろ終わりということになった。

「涼馬さん、ありがとうございました！」

「別にお礼を言われるようなことは何もしてない……」

この授業意味あったのかな……圧倒的な学力の差を見せつけられて俺の心が折られただけじゃねぇか……

つばきちゃんは俺に頭を下げて帰っていった。さて、いろいろ傷ついたがヒマつぶしにはなった。生徒会もそろそろ終わる時間かな……俺は椅子から立ち上がろうとした。

「涼くん」

ハッ……!!!!!!

いる……俺の背後に、楓ちゃんが。

後ろを振り向かなくてもわかる。彼女の闇のオーラがすごいことが。

楓ちゃんの闇のパワーに何度か触れてきたからそういうの敏感に察知できるようになっちゃったよ。